ミドルシニアのかっこいい生き方 ─55[守]

2025/05/06(火)12:00
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「ミドルシニアのみなさんも遅いことはありません。ぜひチャレンジしてほしい」

 

 この遊刊エディストに、四人の[守]師範たちがイシス編集学校を語るバナーが添えられている。ご覧になっただろうか?その中のひとり奥本英宏は、当時四十代半ばの企業経営者だった自分をこう振り返る。

 

「最近頭が固くなってきたかな。もう少し柔らかくしたい」

 

これがイシス編集学校の門をたたくきっかけとなった。

 

 5月12日開講する55[守]講座に登板する師範代たちは、最後の指南トレーニングを終え、受講者(ここでは“学衆”と呼ぶ)みなさんを迎え入れるべく最終調整に入っている。『花伝所』にて師範代になるための七週間の険しい訓練をクリアし、ようやくここまでやってきた。さながらロケット打ち上げを待つ宇宙飛行士のようだ。そのなかで、今期、人生も師範代経験も豊かな三人が満を持して再登板する。

 

渋江徹(かけはしヒコーキ教室)は、トレーニングを終えた今の自分を何にたとえる?という問いに対し、「卵から生まれたばかりの海ガメの赤ちゃん。背中に学衆を全員のせて、竜宮城までお連れしたい」と、ピュアな姿勢を見せる。

 

山下雅弘(百禁タイムズ教室)の意気込みは、「師範代が学衆の庭にお邪魔していって指南をする、そういう気持ちをもって臨んでいきたい」。自身に引き寄せず、他者へのリスペクトを忘れない。

 

藤井一史(うたしろ律走教室)は、創守座を振り返るや、自身の振り返りだけでは覚束ないからと、仲間の師範代たちが綴った振り返りレポートを、編集の型を使って壮大な文量でまとめあげ再編集した。その作業を経て編集の手応えを感じたようだ。

 

 なぜ二度目の師範代を務めるのか。

三者三様のちょっと謎めいた言葉やふるまいにもイシス編集学校の秘密が隠されている。“知”に分け入るほどに、既知の世界の狭さを知り、未知が果てなく広がっていく矛盾にぶちあたる。なお追いかけたくなる“知”がここにはある。世界読書奥義伝『離』をやりきった三人だからこそ初心に還り、謙虚さと愚直さをもって、新たな編集の冒険に挑みたくなる衝動に駆られる。

 

 ミドルシニアの強みは、なんと言っても人生と社会経験の豊かさである。心のゆとりと包容力もある。ただ、“経験”という時間軸は、ともすると自分の既知の範囲内、価値観での思考にとどまりがちだ。

 

 十代から八十代の幅広い世代、職歴もさまざまな受講者が集うイシス編集学校。ネット上の教室での相互編集によって、自身の既知も価値観も更新される“方法”がいっぱい詰まっている。思考が今以上に活性し、仕事にも暮らしにも活きてくる“方法”を手にすることができる。

 

「欲を言えば、もう少し早く入っていればよかった」

 

 入門から十二年目の師範・奥本の心残りが静かにこだまする。今日も開講準備に余念がない三師範代。意気衝天な三様の背中を追いかけて、ミドルシニアのみなさん、かっこよく方法の宇宙へと飛び出してほしい

 ミドルシニアにとってイシス編集学校は、ずっと追い続けたい“青春”なのかもしれない。

 

アイキャッチ・文/若林牧子(55[守]師範)

 

◆イシス編集学校 第55期[守]基本コース まだ間に合う!募集中◆
日程:2025年5月12日(月)~2025年8月24日(日)
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu

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コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg