マンガに限った話ではないが、「バカ」をめでる文化というものがある。
猪突猛進型の「バカ」が暴走するマンガといえば、この作品。市川マサ「バカビリーバー」。とにかく、あまりにもバカすぎて爽快。
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[守]の教室から聞こえてくる「声」がある。家庭の中には稽古から漏れ出してくる「音」がある。微かな声と音に耳を澄ませるのは、秋に開講したイシス編集学校の基本コース[守]に、10代の息子を送り込んだ「元師範代の母」だ。
わが子は何かを見つけるだろうか。それよりついて行けるだろうか。母と同じように楽しんでくれるだろうか。不安と期待を両手いっぱいに抱えながら、わが子とわが子の背中越しに見える稽古模様を綴る新連載、題して【元・師範代の母が中学生の息子の編集稽古にじっと耳を澄ませてみた】。第9回目のオノマトペは、「ひらり」。ついにその日を迎えた。
【ひらり】
(1)身のこなしが軽い様子。
(2)紙や布などの薄い物が一度軽く翻る様子。
(3)紙や花びらなどが一枚、散り落ちたようにある様子。
『暮らしのことば 擬音・擬態語辞典』(山口仲美/講談社)
長男には2月7日から週末にかけて、部活動の遠征が決まっていた。土日の遠征は度々あるのでいつものことだが、今回は遠征中に卒門日(全番回答提出締切日)を迎えることになる。長男の全番回答は、卒門3日前がリミットとなった。
リミットの日の夕方、母が仕事から家へ帰るとお題に向き合う長男がいた。母が部屋へ入ると、これまでにないイライラをぶつけてくる。わからないことへの怒りというのは、相当なものだ。しかし簡単に分かっても困る。なんせ、038番は[守]の中の[離]だ。詳しいことは書けないが、[離]を体験すればわかる。長男のイライラも妥当な反応と思い、投げ出さないことを母は評価した。わからなくても、未知なものへ3A(アフォーダンス・アナロジー・アブダクション)を働かせて分け入るという方法を、もう手にしている。母がいなければ、黙ってお題に向き合ったのかもしれないと思いつつ、この日は最後の回答に付き合うことにした。
[守]基本コース最後のお題【038番:カラオケ編集八段錦】では、歌詞を使って【編集八段錦】を学ぶ。【編集八段錦】とは、情報生命が形を得ながら自己組織化を起こす流れを8つの段階にステージングしたものだ。松岡校長は著書『知の編集術』p197で、「これまでの編集術の流れのエキスのすべてが情報学的な意味で集中されている」と明かしている。
曲はすでに決まっていた。back numberの『高嶺の花子さん』だ。歌詞も暗記しているという。なんでも、恋するアオハル男子にはグッとくる曲らしい。歌いながらあっという間に歌詞を打ち込んだ後は、わからないとグダグダ言っているので、とりあえず8つに分節させる。そして、仮留めで分節した8つの歌詞パートを八段錦の各パートと照合させていく。その最中に、歌詞の分節も少しだけ動いた。
長男は「ちゃんとわかりやすく説明して」と、相変わらず手っ取り早くわかりたいようだった。母は多くは語らず『知の編集術』を音読する。何度も「はぁ? ってことは……、どう言うこと?」と言いながら、教室仲間の回答も共読しはじめた。
わからなさにまとわりつかれると身動きがとれなくなる。
長男は小学生の頃、タグラグビーが大の得意だった。タグラグビーとは、ラグビーのようにだ円形のボールを持って相手ゴールを目指すのだが、腰に2本のひらひらしたタグを付け、取ったり取られたりしながらコートを自由自在に駆け回るスポーツだ。タグを取られないようヒラリと相手をすり抜けたように、わからなさをかわして進む柔軟な動きも大切だ。仮留めしながら八段錦と歌詞は次のステージへ進み、そして戻るを繰り返す。途中、母が席をはずした時は、ネットゲームという寄り道も忘れなかった。
休憩を挟んで食事を済ませた後は、次の日からの遠征準備(2泊3日)も同時並行する。デスクトップパソコンは開いたまま、キャリーケースに着替えや洗面道具、ユニホームなどを入れ、「今回の一発芸どうしよう」と、遠征先での夜のミーティング時に毎回行われる一発芸のネタも気にしていた。彼の周りには複数のことが同時に存在している。
「これ(エディットカフェ)ってずっとみれるの?」
「うん、ずっと。おじさんになってもみられるよ。14歳の自分はこんなこと考えていたのかって振り返ってね」
「じゃあ、しっかりやろっ」
ふたたびパソコンの前に座ると、急にギアが上がった。さっきまで、これまで学んだ編集の型など覚えているわけがないとダダをこねていたのに、歌詞に使われている型を一生懸命取り出そうとする。編集の型は単独で使われているわけではないことにも、気づいているようだ。歌詞の中で使われている型がもっとないかと、これまでを振り返る。
「ないものって、みんなの回答にも書いていたけど、何?」
「部屋にないものだよ」
「あー……。この歌詞にめっちゃあるやん」
「やわらかい分類って?」
「テリーヌとか豆腐とか覚えてる?」
「覚えてるけど、何だったか忘れた」
「あははは」
何だったか忘れた、けど覚えているという感覚でいい。38番は、確かに彼の身体に通っている。
明日のことも考えて時計を見るように促した時、BPTがわからないと言いながら、回答を投稿するためにマクラを書きはじめた。そして、ねらってか否かはわからないが、2月7日、00:00ちょうどに038番の回答を投稿した。教室仲間の回答を共読している時に発言ツリーを見ながら「038番の出題、00:00ちょうどじゃん」と言っていたことを思い出す。「ちょうど」は、彼なりの師範代への「返」だったのかもしれない。
4ヶ月前にパソコンの前で右往左往していた長男は、気づけばひらりと卒門した。門を掠めたその時から、確固たるB(ベース)がひらかれる。Bから、母の手の届かぬ遠くのT(ターゲット)へ、息子はどんなP(プロフィール)を描き続けるのだろう。
(文)元・師範代の母
◇元・師範代の母が中学生の息子の編集稽古にじっと耳を澄ませてみた◇
#09――ひらり
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2025-11-27
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2025-11-25
道ばた咲く小さな花に歩み寄り、顔を近づけてじっくり観察すると、そこにはたいてい、もっと小さな命がきらめいている。この真っ赤な小粒ちゃんたちは、カベアナタカラダニ。花粉を食べて暮らす平和なヴィランです。
2025-11-18
自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。