なぜ、また学びたくなるのか。
今夏幕を閉じた51[守]には、イシス編集学校黎明期に師範、師範代として活躍された数名が、学衆として戻って来ていた。「ピテカントロプス」と呼ばれる面々だ。
彼らにとって、20余年ぶりの編集稽古、初めての学衆体験はどんなものだったのか。稽古は何をもたらしたのか。 1期[守・破]白いバイエル教室・師範代の仁科玲子さんと、2期[守・破]直立猿人教室・師範代の川崎隆章さんにお話を伺った。
――なぜ再び門をくぐったのですか?
川崎:田中晶子所長から「やってみない?」と誘われたら、「はい!」という他ありません(笑)。第2期の師範代を受けたときも、いわばテストパイロット。今回もそういう意味合いがあるんだろうな、と思いながらの再入門でした。
仁科:今勤めている会社で、営業のマニュアルなどを作って指導する立場にあるのですが、伝えなきゃいけないことがたくさんあるのに、これがうまく伝わらない。そんなタイミングでお誘いがあったので、心が動きました。伝え方をもう一度学び直したいと思ったし、リフレッシュもしたかった。稽古が大変なのはわかっているので、「できない理由」を探すと細かくいろいろ出てくるんですけど、「やらない理由」を探したら、「ないな」と思って。
▲仁科玲子さんは、第82回感門之盟「冠界式」でドラムロールを担当した。
――実際に編集稽古をやってみてどうでしたか?
川崎:最初、自分が黎明期の師範代だったことを、教室の山本(昭子)師範代(光合成センタイ派教室)が知っているかどうかわからなくて、どう振る舞っていいか態度を決めかねていたんですが、かつて花伝所で学んだ娘に「そんなことじゃだめだ!」と叱られまして(苦笑)。それで、千葉の自宅から東京に仕事で行く高速バスの中で、スマホからトップ回答を送り続けました。
仁科:私も最初は、自分が一期の師範代だったことを気にしていました。でも隠すのもおかしいでしょ? それで最初に、「かつて編集学校の黎明期には、今よりもう少し編集学校、松岡校長の近くにおりました」と勧学会に書いたのですが、ピンと来る方が少なかったようです(笑)。
「型」を意識する生活からすっかり離れてしまっていたので、001番のコップの回答から「どうしよう?」という感じだったんですけど、ただ思いついたコップを並べてみてもつまらない。丸一日考えて、自分が見たことがないような回答のやり方でやってみようと、ひとつの物語としてコップを語ってみたら、いろいろな発見があったんです。この手探り感とか、新しいことに挑戦している感覚が楽しくて。
川崎:「あれ? 編集稽古ってこんなに楽しかったっけ?」というのは、私も思いました。毎回ね、師範代に勝負を挑んでたんですよ。「ここに投げたらどんな指南を返すかな?」とあえて外角高めに外してみたり。いろんなイタズラを師範代にしかけたのですが、考えてみたら面倒くさい学衆ですね(笑)。でもね、師範代が僕の仕掛けた勝負に乗ってくれたんです。向こうに火が付いたのが、わかりましたもん。回答を編集技法で分析し直したり、「これは俺にはできないな」という指南をバンバン返してくれました。
仁科:佐土原(太志)師範代(シビルきびる教室)の指南が待ち遠しかったですね。恋い焦がれている感じ。師範代が感門之盟の挨拶で「エディティング・モデルの交換をするために師範代をやっていた」と語っていましたが、ああそうだったな、と思いました。仲間の回答とか、師範代の指南とか、そういうものが教室の中にあって、皆で交換し合ってる。これが単に問題集をこなすだけとか、独学とか、そういうんじゃない“編集学校というスタイル”なんだと。出されたお題に向かうのに必死で、なかなか守の期間中は追いつけませんでしたけど、15週間の[守]の稽古を終えて改めて読み直してみると、その時点でも2倍も3倍も得ることがありました。
川崎:師範代と学衆って、包丁と砥石の関係に似ていて、回答と指南でぶつかりあっているうちに、両方が美しく磨かれていく。磨いていたつもりが、自分(砥石)まで光り輝くっていうかな。
イシス編集学校のシステムが非常に良くできていることも、実感しましたね。学衆は、[守][破][花伝所]を経れば、師範代になれます。学んでいた側が、すぐに教える側に回れるわけです。「学衆の記憶」を有したまま、師範代をできるのが大きい。さらにこの「教える・学ぶ」関係が固定されていないのがいいですよね。私のような師範代経験者も、いつでも学衆になれる。これは他の習い事や教育機関では考えられません。2000年に開講して20数年でしょ?
この間、師範や師範代、学衆がよってたかって編集学校を磨き上げてきたんだから、そりゃ良くなりますよ。
▲「ラジオ体操のように、毎朝、イシスのお題を解くようにしたらどうか」と川崎さん。
――15週間の[守]体験を終えて、変わったことは?
仁科:包丁と砥石じゃないですけど、自分の使っている言葉が磨かれた感触があります。言葉ひとつひとつを、きちんと選ぶようになりました。仕事中も「これはBPTで考えると……」と型を使っている自分がいます。そうそう、番ボーで師範代から勧められた『角川類語新辞典』を買いました! 類語辞典の見返しのマトリックスを眺めては、言葉のイメージを膨らませています。
川崎:多分ね、編集稽古って「健康診断」だと思うんですよ。指南によって、「あ、ここが錆び付いていたな」とか「俺はこういう思考の持ち主だったんだ」ということが見えてくる。来年、還暦なんですけどね、自分がやりたいことが稽古で見えて来た。物を書いていますけど、自分が目指すべきは、「何を書くか」という主題的アプローチではなく、「どう書くか」という方法的アプローチだったんだって、師範代に気づかせてもらいました。 師範代経験者や学衆経験者へのメッセージ? 最初の学衆体験って、無我夢中で走り抜けることが大半だと思うんです。でも一度体験していると、遊び尽くす余裕が出てくる。「こんなに稽古は楽しかったのか」と改めて思いました。こんな学びと発見のあるコミュニティは他にありません。経験者の利点は、[守]を遊び尽くせることです。大いに遊んでほしいですね。
仁科:こんな「学び直し」の体験ができるのは、ほんと、イシスだけですね。師範代、教室の仲間との「交換」に、きっとトキメキを取り戻せるはずです。
▲お二人の共通した感想は「知っている稽古なのに、楽しかった」。このひと言に、編集稽古が集約されている。
◆イシス編集学校 第52期[守]基本コース募集中!◆
日程:2023年10月30日(月)~2024年2月11日(日)
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu
角山祥道
編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama
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