メディア美学者・武邑光裕さんは、1980年代よりメディア論を講じ、インターネットやVRの黎明期、現代のソーシャルメディアからAIにいたるまでデジタル社会環境を長く研究する専門家だ。ドイツ・ベルリンを中心としたヨーロッパにもアメリカにも精通している。
その武邑さんに、AIDA Season2「メディアと市場のAIDA」のボードメンバーを務めていただいた。特に、第3講の渋谷パルコDommuneや第5講ではおおいに語っていただいた。武邑さんはAIDAをどう感じたのか。第6講でメッセージをいただいた。(聞き手・米川青馬)
――AIDAはいかがでしたか?
皆さんとリアルに対面してお話ししたことが、何よりも刺激的でした。編集工学研究所の本楼でも、渋谷パルコのDommune(第3講)でも、リアルが持っている代替不可能な感覚情報が鮮明になりました。もちろん以前はリアルの集まりが日常的にありましたが、当時はリアルが当たり前で、その価値に気づきませんでした。Zoom時代になったからこそ、リアルで会う重要性が理解できたのです。
おいしい食べものを映像で見るのと、実際に食べるのはまったく異なることです。同じように、オンライン会議とリアル会議では感覚情報の質と量が本当に違います。AIDAでは、Zoomで排除された情報の大きさを実感しました。オンライン会議はたしかに便利ですが、オンラインでは得られないものが間違いなくあります。人は感覚する生きものであることがよくわかりました。
――先ほどお話ししていた「antiwork運動」はなぜ日本で起きないのでしょうか?
「antiwork運動」は、アメリカ最大の掲示板サイト・レディット(Reddit)の「antiworkスレッド」が大人気になって巻き起こったものですが、ヨーロッパでも同様の動きが起きており、すでに巨大な潮流となっています。「仕事をやめよう」「互恵的共同体で暮せば、働かなくても生きていける」と考える人、そして実際に職を離れる人が、欧米でどんどん増えているのです。Zoomやリモートワークの普及、マイクロスクールの広まりなどが、antiwork運動を後押ししています。
日本でantiwork運動が広まらないのは、日本人が個人主義を誤解しているからでしょう。日本は個人主義を嫌います。利己的で集団に馴染まない性質として、ネガティブに捉える傾向が強くあります。対してヨーロッパでは、若者たちにまず個人主義を教えます。徹底的に利己的であれ、というのです。個人の利己性がベースになければ、市民として社会的公益性を認識した行動を取ることはできない、と考えるのがヨーロッパです。社会の前提として個人があるからこそ、antiwork運動が起こりうるのです。
(写真:後藤由加里)
※武邑さんについてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひ!
米川青馬
編集的先達:フランツ・カフカ。ふだんはライター。号は云亭(うんてい)。趣味は観劇。最近は劇場だけでなく 区民農園にも通う。好物は納豆とスイーツ。道産子なので雪の日に傘はささない。
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