【工作舎×多読ジム】「工作舎賞」発表! 田辺澄江インタビュー

2022/12/22(木)12:00 img
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多読ジムSeason11・夏(2022年7月11日~9月25日)では出版社コラボ企画第二弾が開催された。コラボ出版社は工作舎、トレーニングブックはメーテルリンク『ガラス蜘蛛』、桃山鈴子『わたしはイモムシ』、福井栄一『蟲虫双紙』。エントリーメンバーは佐藤裕子、高宮光江、中原洋子、畑本浩伸、佐藤健太郎、浦澤美穂、大沼友紀、小路千広、松井路代の九名だ。『遊1001号 相似律』が贈呈される、工作舎賞はいったい誰が手にするのか…。

インタビューでは、賞の発表に加え、アワード選評者である「編集者・田辺澄江」の誕生前夜に迫った。少女時代の読書体験、若き松岡正剛校長の桑沢デザイン学校の講義、そして雑誌『遊』やメーテルリンクとの出会いはどんな出来事であり、田辺さんに何をもたらしたのだろうか。

当時の現場を肌で感じてきた田辺さんの言葉は時代証言としても貴重である。また、『家なき子』や『不思議の国のアリス』、『裸のサル』(デズモンド・モリス)に『かくれた次元』(エドワード・ホール)、そして工作舎の最新刊『本が湧きだす』(杉浦康平)などなど、本の話題も盛りだくさん、本好きも必見だ!


[interviewer:金 宗代(QIUM JONG DAE)] 

 

 

■メーテルリンクとの出会い

 

―――田辺さんとお会いするのは2回目ですね。

 

代官山蔦屋の『意身伝心』(春秋社2013)の出版記念イベントで初めてお会いしましたね。

 

『意身伝心』/刊行記念イベント 田中 泯×松岡正剛 トーク+サイン会
2013年8月14日(水) 代官山蔦屋書店1号館

 

―――それからメーテルリンクについてメールで何度かやりとりさせていただきました。ちょうど常盤貴子さんがメーテルリンクを紹介する番組(BS朝日『常盤貴子 本と旅するベルギー メーテルリンク 幸せの青い鳥の故郷へ』2014年)が放映された頃でした。こうしてまたお会いすることができて光栄です。しかも今回の企画にも課題本にメーテルリンクが入っていて、田辺さんとの出会いはメーテルリンクに演出してもらっているという気がしてなりません。

工作舎から出版されているメーテルリンクの本は課題本の『ガラス蜘蛛』含めて全部で五冊ですね。

 

『ガラス蜘蛛』『蜜蜂の生活』『白蟻の生活』『蟻の生活』『花の知恵』の五冊です。

 

左から『ガラス蜘蛛』『蜜蜂の生活』『白蟻の生活』『蟻の生活』『花の知恵』

 

―――メーテルリンクの本を工作舎から出版することになったきっかけは何かあるんですか。

 

きっかけは松岡(正剛)さんからでした。『遊 9・10号』(1976-77)の「存在と精神の系譜 上下」特集のとき、松岡さんが当時の工作舎の全スタッフに、ピタゴラスからマンディアルグまで、それぞれの基本的な人物像を書くようにと担当を決められて、私の担当となった一つがメーテルリンクでした。

たぶん、何を薦めればいいのか、『青い鳥』だったら知っているだろうと、そんな感じだったのではないでしょうか。パウル・クレーについては木村(久美子)さんが、エルンスト・マッハは戸田(ツトム)さんが担当したことをよく憶えています。二人は私と同期入社です。

 

『遊 9・10号』(1976-77)の「存在と精神の系譜 上下」特集

 

―――それが田辺さんがメーテルリンクと向き合う最初だったわけですね。「存在と精神の系譜」の松岡さんが執筆した部分は、今は中公文庫の『遊学』で読むことができます。それにしても、社員全員が雑誌に論文みたいなものを書くなんてこと、滅多にないですよね。

 

「書ける」という保証は何もないのに(笑)。先輩の十川はもちろんライプニッツを担当しています。十川の場合は、数学が得意という前提がありましたね。その後もご存じのように、ライプニッツについては彼女のライフワークになっていると言っていいと思います。

 

『ライプニッツ著作集』

写真は千夜千冊1705夜『ヨーロッパ精神史』より

 

―――松岡さんのそのお題のつくり方は今の編集学校にも継承されていると思います。というか、『遊』の活動がやっぱり編集学校のベースになっているんですね。

その後、田辺さんがメーテルリンクの翻訳本の編集を手がけるのは5年くらい経ってからですよね。最初が『蜜蜂の生活』(1981年)ですね。

 

『蜜蜂の生活』の翻訳者の一人が橋本綱さんです。松岡さんの高校時代の同級生で、大学では仏文学を専攻、その道に進まれていました。

 

 

■気がつけば『遊』の渦中に

 

―――『蜜蜂の生活』以降もメーテルリンクの本はすべて田辺さんが担当なさるわけですよね。多読ジムでは松岡さんが「読書とは交際である」と言っているんですが、田辺さんはまさにメーテルリンクと交際し続けているというそんな感じがします。

さらに遡れば、そのメーテルリンクと田辺さんの仲人である松岡さんに出会ったのは、桑沢デザイン研究所の講義だったんですよね。そのときの講義や松岡さんはどんな印象でしたか。

 

松岡さんのような、熱く語る先生とは初めて出会い、圧倒されっぱなしでした。ボーっとしていたんでしょうね、怒られてばかりいるような気がしていましたが(笑)、ときどき少しでも思い当たることがあったりすると嬉しかったし、大丈夫、なんとかなると思うようにしました。

授業の課題でそれぞれが写真を撮ってくると、松岡さんはその写真をパンッと伏せて、そこに何が写っていたのかを問うのですが、誰もがしどろもどろでしたね。

 

1974年当時、若き松岡正剛校長の桑沢デザイン学校の講義

写真は千夜千冊1784夜 『図像の哲学 いかにイメージは意味をつくるか』より

 

―――その写真のお題の話は千夜千冊1784 ゴットフリート・ベーム『図像の哲学 いかにイメージは意味をつくるかにも書かれていました。当時、桑沢デザインの写真科は、大辻清司さんや北代省三さんも先生だったんですよね。それから、デザイン科には戸田ツトムさんが生徒として在籍していたと聞いています。

 

現所長の工藤強勝さんも同期でした。戸田くんは、学生の時からグラフィックデザインの基礎部分は具体的な仕事を通して身についていたようです。デザイン科の生徒数人も、いつのまにか松岡さんの授業に参加するようになっていました。木村さんもその一人です。

 

―――先生も生徒も錚々たる顔ぶれですね。松岡さんの講義にそれほど人が集まってきたということはやっぱり授業が特別面白かったんでしょうね。

 

本当はどんな授業を望むのかを問われ、学生同士で話し合って自分たちで講師を選ぼうとなったこともありました。たとえば、現代音楽グループ「タージ・マハル旅行団」を率いる小杉武久さんや建築家の磯崎新さんなど、お名前を上げるだけではなく具体的に連絡をとって講師として来てほしいと頼みました。もう後にも引けず、皆で思いを一つにして無我夢中でした。すると皆さん、受け止めてくださって、いくつかの授業が実現しました。ちなみに私達の後ろ盾だった松岡さんだって、当時はまだ29歳の若者です。

そうそう、工作舎があった新宿からミニバイクでタッタッタッと、代々木競技場近くの桑沢デザインまで来られたこともありました。

 

―――授業というと、先生が黒板の前に立って、生徒に一方的に教えるというのが一般的だと思うのですが、それとはまったく違いますよね。

 

そうですね、課題図書もありました。『遊』の存在と精神の系譜に戸田くんが選んだエルンスト・マッハの『感覚の分析』、木村さんのパウル・クレーの『造形思考』も、桑沢の授業での松岡さんからの課題図書に含まれていたと記憶しています。他にデズモンド・モリス『裸のサル』、エドワード・ホール『かくれた次元』、コンラッド・ローレンツ『攻撃―悪の自然誌』・・・、もっとあったはずですが50年近く前のことなので忘れました。 頼りになる戸田くんにはもう聞けませんしね。

学生のまま『遊』に、つまり工作舎への参加が始まっていました。『遊』第Ⅰ期7号(1973)からでした。その後『遊』が隔月刊、さらに月刊へ。そんなこんなで桁外れに密な10年間を松岡さんたちといっしょに過ごしました。

あるとき、杉浦さんから「あの頃、頭の中が麻婆豆腐みたいだったんじゃないか」と(笑)。

 

―――麻婆豆腐みたいにごちゃまぜで混沌としているというイメージですね。

 

 

■「一即二即多即一」の本とともに

 

―――杉浦さんといえば、「杉浦康平デザインの言葉」シリーズの新刊『本が湧きす』が出ますね。タイトルからして、多読ジムにぴったりの一冊です。杉浦さんは一時期、体調を崩されていたとお聞きしましたが、今はお加減はいかがですか。

 

しっかり休養されて、今年はお元気に90歳(卒寿)を迎えられました。「タイトルは『本が湧きだす』にしよう」と杉浦先生から提案があったのが、昨年(2021)から今年はじめにかけてのこと、それを機に出版へ向けて加速しました。

本書の前ソデにも引いている「一即二即多即一」は、半世紀にわたる杉浦ブックデザインを凝縮する一言だと思います。ぜひ目の前の本を手にとって実演してみてください。「一冊の本を開けば左右の「二」。パラパラとめくれば「多」となり、閉じれば即座に「一」に戻る。・・・」と続き、途方もない包容力を備えた本の形態が語られています。そうした「本」から、杉浦事務所のスタッフとともにあらゆる可能性を見いだし、試みてこられたブックデザインの数々を収録しています。

杉浦先生は、現在は僧侶のように坊主頭ではなく、白髪を楽しまれているようにも見えます。お仕事でWeb会議にも参加されているそうです。

 

『本が湧きだす』(杉浦康平 デザインの言葉)

 

―――杉浦さんというと何に対しても、とても厳密に組み立ていくという印象がありますが、それを超越して、今はまさにインドの行者のような、ブッダのような、なんだかすごい境地に達しているのでしょうね。

 

はい、私にはお元気な杉浦先生しか想像できません。

出版することを決めた『ガラス蜘蛛』について話したときには、この本『ミクロコスモス』(クロード・ナリサニー、マリー・ペルノー著/トレヴィル1997)を紹介してくださいました。メーテルリンクがガラス蜘蛛と表現したミズグモの写真も載っています。ミズグモは腹部に空気の服をまとって水中にいるとき、水銀の球ようにキラキラしているのですが、ミズグモ自体は小さくて黒くてジーッとしていて、なかなか動いてくれません。

2006年には宮崎駿監督の短編アニメ『水グモもんもん』が公開され、荒俣宏さんは『ガラス蜘蛛』を高く評価してくださいました。でも不思議なほど、ミズグモの知名度は上がりません。

 

『ミクロコスモス』(クロード・ナリサニー、マリー・ペルノー著/トレヴィル1997)

 

宮崎駿監督の短編アニメ『水グモもんもん』パンフレット

 

―――たしかに「ミズグモ」と言って分かる人はあまりいませんよね。メーテルリンクもそうですね。『青い鳥』は知っていても、メーテルリンクを知る人は少ないように思います。個人的には、メーテルリンクの博物文学は、ファーブルと同じくらい知られてもいいんじゃないかと思うのですが。

 

もちろん、出版したのですからより多くの方々に出合ってほしいのですが、『ガラス蜘蛛』はなぜか運にも恵まれません。『ダーウィンが来た!』(NHK)でミズグモが取り上げられたときも、放送日がW B C(ワールド・ベースボール・クラシック)の決勝戦と重なって視聴率がイマイチのようでした。

 

―――それは残念ですね。でも考えてみると、初版刊行(2008年)から今まで静かに売れ続けているわけですよね。そういうところは、隠居を好んだメーテルリンクっぽいなとも思います。

 

『ダーウィンが来た!』にミズグモが登場したのは、番組のディレクターが『ガラス蜘蛛』を書店で見つけてくださったからだと知って連絡すると、工作舎に来てくださって釧路湿原でのロケの様子などを聞くことができました。それから数年後にわかったのですが、この番組ディレクターがミズグモを追って釧路湿原に分け入ったときは、その少しまえにお父さんを亡くされていたのです。どんなに過酷なロケにも果敢に立ち向かうディレクターでも、地に足がつかない状態でこの本と出会ったのではないでしょうか。ご自身の出身地である北海道にミズグモが生息することを知って、なにか引きつけられるものがあったのかなと、かってに推察しました。

 

―――そういうところがまたメーテルリンクっぽいですね。松岡さんは『遊学』にメーテルリンクについて、「ゲン」(験)、「ツキ」(憑)、「カン」(勘)を哲学にしたと書いていて、なるほどなと思いました。

今回のコラボ企画でも『ガラス蜘蛛』は人気が高かったですね。九名中、四名の方が『ガラス蜘蛛』を選んでいました。

 

すごいことです、身を隠しがちな主人公に代わってお礼申し上げます。

選んでくださった中原洋子さん、浦澤美穂さん、畑本ヒロノブさん、佐藤健太郎さんの文章は、どれも興味深く読みました。

中原さんはミズグモが腹部にまとう空気の泡をドレスに見立てていて、お会いしたことはありませんが、中原さんならではの感性なのでしょうね、新鮮でした。恩田陸さん、中井久夫さんの選書も素敵です。恩田さんは『蜜蜂と遠雷』以来ずっと気になる作家で、ファンの友人もいます。中井久夫さんは、同じ地の延長線上にいてくださればいいと思えるかたです。メーテルリンクは言っています、その人を思い出すということは、その人が生きていることだと。

https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_kousakusha_nakahara/

―――メーテルリンクも常に地球規模で思索を深めた人だと思いますが、中井久夫さんにもそんな器の大きさを感じます。浦澤さんのエッセイは、ドラえもんの映画の話から始まっていて、いま子育て中だからかもしれませんが、子どもへの眼差し、子どもからの眼差しが文章に潜んでいるように思いました。松井路代さんと高宮光江さんも少年少女の視点がいきいきと描かれています。

 

浦澤さんは、ムシ対ヒトを「連帯」を軸に表していますね。ミズグモを「自在」「域」「突破」と読み解き、強い知性があるとみるのは『花の知恵』の自然観にも通じます。選書3冊のうち『ダンゴムシに心はあるのか』が、やや置き去りになったかなと思いました。

https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_kousakusha_urasawa/

松井さんは長男と、そしてお母さんを交えての対話形式になっていて、9歳の娘さんを寝かしつけるときに本を読み聞かせしていると書いていましたね。関西弁のぬくもりが生きています。松井さんが選んだ『蟲虫双紙』の著者である福井栄一さんも京都、このシリーズのデザイナーも関西出身です。

https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_kousakusha_matsui/

高宮さんが挙げられた柳澤桂子さんは凛とされた生命科学者で、すべてのいのちが愛おしくとも、やがて蝶になることを知っていても、そうであってもイモムシ嫌いとか。そういう致し方なさ、ありますよね。柳澤さんの上品ないいわけが聞こえてきそうです。

https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_kousakusha_takamiya/

 

それぞれの三冊筋の個性が見えてくる

 

―――田辺さんは子どもの頃はどんな本を読んでいたんですか。

 

10歳くらいまでは『家なき子』とか『不思議の国のアリス』とか、少女漫画も少年漫画も読みました。6年生か中学生になったばかりの頃かと思うのですが、家の近くの小さな本屋で『罪と罰』を見つけてしまって、すごいタイトルに目が釘付けになって、後日ひっそりと買ってひっそり読みました。

本に関連して印象深く覚えているのは、小学校を卒業するときに担任の理科の先生からファラデーの『ロウソクの科学』をいただいたことです。この話は松岡さんにもしました。「ちゃんと熟読していれば、今とは違う道に進んでいたかもな」と言われました。

高校は女子高で、物理の授業時間は、生徒側が一方的におろそかにしがちでした。女性の物理教師だったのですが、あるとき「もう教科書はいいから、これを読みましょう」と、朝永振一郎の『光子の裁判』を示されました。次の授業では「光は粒子か波か」を皆で語り合い、けっこう楽しかったものです。いま考えれば、素晴らしい先生でしたね。反省しきりの思い出です。

 

―――松岡さんは読書には「読機」(どっき)がある、とつねづね言ってます。本はいつでも読めるわけではなくて、読み手の事情やコンディションによって、よく読める時もあれば、全然読めないこともある、と。それはまさにその通りだなと思います。そういう意味では、今回コラボ企画にエントリーしたメンバーは良い読機に恵まれたんだろうなと思います。

 

大沼友紀さん、佐藤裕子さん、畑本ヒロノブさんは三冊の意外な組み合わせが印象的でした。佐藤裕子さんは『蟲虫双紙』からJアラートや怪獣へと向かいますが、「虫のしらせ」を引き合いに出すのは無理があるかなと感じました。ゴジラシリーズの怪獣ヘドラの登場などは環境汚染への警鐘でもあったし、また佐藤さんも書いているように、ウルトラマンはどうして虫に似てしまったのだろうなどをさらに追求できたなら、タイトルの「蟲虫怪人狂想曲」がより生きてきそうです。

https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_kousakusha_satoyuko/

―――畑本さんは『ガラス蜘蛛』と『白い蜘蛛』と『黒い蜘蛛』。「蜘蛛」のタイトルで揃えた三冊セットでした。

 

「工学屋」の視点を貫こうという意図が明確で、筋肉質な感じです。三冊のタイトルは「蜘蛛」で統一しているけれど、繊細なタッチの『ガラス蜘蛛』から出発したにしては二冊の選本は意外な展開です。そのマッチョな感じから、畑本さんの三冊筋は「直角三冊筋」と言っていいんじゃないでしょうか。

工学屋といえば、バイオミメティクスの研究を連想します。ヤモリの足の裏からヒントを得た接着テープとか、それこそSpiber(スパイバー)というベンチャー企業は人工合成のクモ糸の繊維の開発に成功しています。こうした観点を取り入れると、畑本さんの三冊も突飛ではなく、むしろタフなつながりが見えてきます。

https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_kousakusha_hatamoto/

 

―――なるほど。確かにそう考えると、「工学屋」の視点を一貫しようとしたことが効いてきますね。

クモの糸から着想を得て、SpiberとTHE NORTH FACEの共同開発で誕生したアウトドアジャケット「MOON PARKA(ムーン・パーカ)」は話題になりましたね。やや高額ですが、ぜひ、畑本さんに愛用の一着に購入していただきたいものです(笑)。

 

大沼さんは思い切った選書で、それが抜群に面白い。「桃山さんはイモムシではありません」の一言からやられました。意外性や未知を橋渡しする三冊筋の一つの方法を示していると思います。それと、文章から著者への愛を強く感じましたね。

『わたしはイモムシ』の桃山鈴子さんは、とてもキュートなかたで、身長は170センチ超えかもしれません。お話しするとき、私がすこし見上げるかたちになるのですが、桃山さんは話しているうちにだんだんと足を広げていくんです。目線の高さが同じになるようにね。アメンボみたいじゃないですか!? その体形にちなんで、大沼さんのは「二等辺三冊筋」かな、と。

https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_kousakusha_onuma/

―――畑本さんの「直角三冊筋」に続いて、大沼さんは「二等辺三冊筋」ですね。大沼さんの三冊筋は奇抜な選書と著者への愛を評価していただきました。

 

小路千広さんは押しも押されもせぬ「正三冊筋」。イントロから軽快で、文章が読みやすく、書くことに全然苦労しないのではないでしょうか。そして何よりご自身が楽しんでいることが、読者にちゃんと伝わってきます。選書も手塚治虫と『虫の惑星』ですから、多くの人たちの共感を得られるはず。小路さんは、お話するのもすごくラクな方ではないかなとも感じます。バランスが良いです。

https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_kousakusha_shoji/

それから、佐藤健太郎さんも文章のリズムがよくて、プロではないかと思いました。新聞の書評欄で同姓同名の方を見たことがあるような…。

 

―――確認してみますが、おそらく別人だと思います(笑)。でも、田辺さんから見て、それくらいに上手いということですよね。極上の褒め言葉です。

 

読んでいて引き込まれます。見出しもすごく意識して構成したことが伝わってきます。「幼心がつなげるイト」「科学で辿るイト」「想像で途切れるイト」「弱さでつなぎ直すイト」と、すべて片仮名の「イト」で通していますね。そのイトは弱さと強さの両方のニュアンスを兼ね備えている。『ガラス蜘蛛』のおぼつかなさも、おそらくメーテルリンクが表現したかったであろうことも、まっすぐに伝わってきます。多くの人が、三冊とも読みたくなると思います。三冊のうち、『時の子供たち』は知らなかったのですが、ぜひ読んでみたいです。このSF小説が、『ミツバチの会議』からクモにつなぎ直す一書になるわけです。佐藤健太郎さんは「二重三冊筋」です。

https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_kousakusha_satoken/

―――二重三冊筋ですか。そこにはどんな意味が込められているのでしょう。

 

ふたつの三角形を組み合わせると星型の多角形になって回転していきます。自分だけではなく、誰かに伝えたくなります。

 

―――おお、星印! ということは、もしかすると、今回の多読ジムコラボ企画の最優秀賞もこれで決まりでしょうか。突然ですが、ここで最優秀賞・工作舎賞の発表をお願いします。

 

はい、みなさん素晴らしいエッセイを書いてくださって、私ごときがおこがましいですが、あえてお一人を選ばせていただくなら、やはり佐藤健太郎さんです。

 

―――佐藤健太郎さん、工作舎賞受賞おめでとうございます! 工作舎賞の佐藤健太郎さんには受賞の賞品として、『遊1001号 相似律』を贈らせていただきます。畑本さんの直角三冊筋賞、大沼さんの二等辺三冊筋賞、小路さんの正三冊筋賞と、今回は副賞のサプライズもありました。田辺さん、丁寧に講評してくださって、ありがとうございます。

 

いいえ、とんでもない。こちらこそ、ありがとうございました。

 

田辺澄江さんの講評メモ

紙面にびっしりと書き込みがある。

 

―――今回、インタビューさせていただいて、田辺さんが偶然出会った松岡さんや工作舎、メーテルリンクに対して、それをあたかも必然として引き受けて、メーテルリンクの翻訳シリーズの編集を担い、今は工作舎の代表を務めるなど、何事も一途に想い続け、追いかけ続ける姿勢にとても感銘を受けました。そして本や版元にはその作り手の人柄がよくあらわれるのだなということを強く実感しました。田辺澄江ファン、メーテルリンクファン、工作舎ファンとして、これからも工作舎から出版される本を楽しみにしています。

 

 

Info


◉多読ジム season13・冬◉

 

∈START
 2023年1月9日〜2023年3月26日

  ※申込締切日は2023年1月2日

 

∈MENU
  <1>エディション読み:『芸と道』
  <2>ブッククエスト :白洲正子と寿ぐ
  <3>三冊筋プレス  :食べる3冊

   ★コラボ:MEdit Lab

 

∈URL
 https://es.isis.ne.jp/gym

 

  • 金 宗 代 QUIM JONG DAE

    編集的先達:水木しげる
    最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
    photo: yukari goto

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