初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。

「わたし、物語が好きだと気がつきました」
その言葉を聞いて、思わず顔がほころんだ。
大岡山の駅から徒歩5分、ごく普通の外観のマンションの一室。階段をのぼり、冷房の効いた部屋に入ると、青熊書店で購入したインターブッキング本を机に並べた。
応用コース・破のリアル汁講で、学衆さんがしみじみと、でも晴れがましい顔で話してくれたひとことだった。
顔がほころんだのは、かつての自分に再び出会ったような感じがしたから。編集学校が楽しくて、守も破も花伝所も身体に通し、師範代も経験して、でもなんとなく躊躇していた「物語が好き」「本が好き」という言葉。「わたしより好きな人はいっぱいいる」「わたしより本が読める人もたくさんいる」。「たくさんの私」で発動するはずの編集的自己は、いつのまにか注意のカーソルを宙に浮かせたまま、小さくなっていた。
「物語講座を受講してみませんか」
「創師」というロールをもらいたての小濱創師が声をかけてくれたのは、第二子を出産して、育休から復帰するときのことだった。13綴・ドリトル銀の匙文叢という、うっとりするような文叢に所属し、はじめて叢衆というロールとなり、楽しく大変で暖かい冬を駆け抜けた。
4か月間、物語を書く。落語も、ミステリーも書いたことがないけれど、書く。幼な心は、自分の得意分野かもしれないと気づく。当時のお題だった、トリガー・ショット(ビジュアルから物語の種をつくる)に翻弄され、編伝1910は参稿に間に合わず、エピローグで挽回し、なんとか績了となった。
感門之盟で受け取った『綴墾巻』は、まだ大切に薄紙を巻かれたまま本棚にある。editcafeの画面で横書きされていた文字が、縦書きとなって印字され、一期一会の13綴の仲間たちの物語とともに閉じられて。
けれど、私たちが共に目指すのは、もっともっと奥深く。
とあるように、物語講座が目がけていくのは「世界の見方」。
その入り口は、もっとやわらかくて多様で、わくわくとひらひらと、可能性に満ちている。
好きなものを、好きと言って、物語講座をはじめてみませんか。
文/小林奈緒(18綴・物語講座 師範)
Info
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[遊]技法研鑽コース 「物語講座」第18綴
https://es.isis.ne.jp/course/yu-narrative
■期間 :2025年10月6日(月)~2026年2月1日(日)
ライブ稽古「蒐譚場」2025年12月13日(土)
編集工学研究所(本楼)
■資格 :[破]応用コース修了者(突破)以上
■プログラム:窯変三譚/トリガー・クエスト/編伝1910
■お申込みは こちら ※再受講割引あり。
イシス編集学校[遊]物語講座
編集の源に物語あり。世界を見立て、構造化して語り直す、「方法としての物語」を体現する月匠、綴師、創師、師範、師範代のチーム。
【受講者募集中!物語講座第18綴】直接ではない、何かを媒介として伝えるのだ
先日、90歳になる少し前に義母が亡くなった。その時に京都で、義母の60年来のお友達の方と会食していた。彼女は義母が高校を出て勤めていた銀行の秘書課の後輩で、ずっと長い間、いちども喧嘩をしたこともない、とてもいい付き合いを […]
【受講者募集中!物語講座第18綴】物語から物語を生む/動的な関係を紐解く
吉村林頭が「講座の中で最高に面白い」と断言するイシス物語講座。 18綴師脚座が8月24日に開催され、そこで3つの文叢名が明らかになった。「師脚座」とは、[守][破]の「伝習座」にあたる、物語講座指導陣による […]
コメント
1~3件/3件
2025-09-24
初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。
2025-09-23
金緑に輝くアサヒナカワトンボの交接。
ホモ・サピエンスは、血液循環のポンプを遠まわしに愛の象徴に仕立て上げたけれど、トンボたちは軽やかに、そのまんまの絶頂シアワセアイコンを、私たちの心に越境させてくる。
2025-09-18
宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。