2025新春放談 其の肆 – [離]・[AIDA]・[多読アレゴリア]をまたにかけ、創跡を残す

2025/01/05(日)07:00 img
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編集工学研究所2025年年賀状

遊刊エディストの新春放談2025、其の肆をお届けします。2024年、松岡正剛校長不在の世界読書扇伝[離]を守って転じ、2025年は[多読アレゴリア]の新しいクラブを構想する寺田充宏別当師範代をゲストに放談していきます。2024年はどんな年だったのか、2025年以降、[離]は、[AIDA]はいかに展開していくのか。ご覧ください。

 

◎遊刊エディスト編集部◎

吉村堅樹 林頭, 金宗代 代将, 後藤由加里 師範, 上杉公志 師範代, 松原朋子 師範代,

 

◎ゲスト

寺田充宏 [離]別当師範代/[AIDA]師範代 

 

 

寺田 お招きありがとうございます。

 

吉村 2024年、寺田くんは松岡校長最後の[離]でも、別当師範代を担ってくれました。また、ビジネス・パーソンを対象としたハイパーエディティングプラットフォーム[AIDA]では、AIDA師範代を二期続けてもらいましたね。

 

金  先ほどゲストにお呼びした畑本さんは、次の野望はAIDA師範代か、いつかは[離]の師範代かで、師範代制覇を目指したいらしいですよ。

 

寺田 おー、野望ですか、新年っぽくていいですね。

 

【84感門】世界読書の方法が息づく[離]というシステム

 

後藤 寺田さんは、2025年の春からは、[多読アレゴリア]で、ISIS co-missionで数理科学者の津田一郎さんのクラブを立ち上げる準備中ということで。

 

<特報>伝習座:津田一郎さん講義「カオス理論と物語編集術」突入レポート

 

吉村 寺田くんは25周年感門之盟の時に津田さんとの[多読アレゴリア]をやってみたいと言ってくれて、任せるなら寺田くんしかいないなと。

 

寺田 いやあ、ありがとうございます。

 

 

◆編集工学の電流に打たれたのはいつ?続ける原動力は?

 

吉村 振り返ると、寺田くんは第9季の[離]を退院して、編集工学研究所に入りたいということで1年ほど編工研のスタッフでもありました。残念ながら色々と家の事情もあって退職はしましたが、その後も師範代や、花伝所での錬成師範も経験して、継続しながら深めてもらった感じですよね。もともとワークや語りのスキルもあるし、サイエンスの関心も高かったと思いますが、これだ、と思ったり、継続して深めていったりするのは、どういうところに魅力を感じていたのだろう?

 

司会者が語る律走とは?リハーサルも律走中!【第81回感門之盟】

寺田 本当の意味で編集工学にさらわれたのは、第9季[離]の時ですね。[離]って格別なんです。異次元といいますか。体は限界なのにテンションは上がってくるし、明け方までやっても編集的元気は満ち満ちてるみたいな。それが魔訶不思議でした。火元組よりも[離]学衆だった時のほうが衝撃度は断然高かった気がします。先が見えないなかで目の鱗をはがすお題に次々と遭遇する。その迫力、面白さは唯一無二の経験でした。

 

  [離]の体験は圧倒的ですよね。

 

寺田 会社や日常生活とは全然違う集中力と想像力が渦巻いているというか。これが広まれば、日本は変わるなと確信しましたね。同時にこの[離]に対する確信は一体なんなんだ?というお題を抱え続ました。その問いが編集工学に関わり続けている原動力になっていると思います。

 

吉村 編集工学を日々深めていくことについては、寺田くんはどんなエンジンやモチベーションをもってやっているんですか?

 

寺田 第一に知ること自体が好きということがあります。[離]のように簡単には分からないけどおもしろいことは特に。知ることで世界観が変わり、見方が変わる瞬間がたまりません。幼いころからエッシャーの絵が好きでした。エッシャーは、陰と陽が変わっていく幾何学や、上り続けているのにぐるぐるするような不思議な階段絵を描いています。子どもの頃にそれらを模写してたほど。フリックが好きなんですね。 [離] を修了し、世界読書をするようになって、様々なところにエッシャー的転換を感じられるようになってきたんです。

 

編集ビタミンが利くぜ!寺田充宏のエディット檸檬ツアー

寺田 あとは編集学校に継続的に関わることができたことも大きかったですね。実香連では、ワークショップを編集工学的に設計し実験する機会をいただきました。手順をどう組み立てたらわかってもらえるのか、楽しくなるのか、普段から「編集工学的に何がおきているのか」を考えることが多くなりました。

 

ワークショップエディターが日本イシス化の先陣を切る!【実香連】

 

◆方法的であり、モデルをつかみ、プレイに長けた人への期待

 

吉村 知的な探求心ももちろんですが、寺田くんはとても方法的だと思うんですよ。ワークショップの伝え方も優れているし、別当師範代としても院をどう運営していくかも方法的に考えている。世界知を方法として渡すこともできるし、運営も方法として見ているでしょう? なかなかそれができる人がいないんですが、それを自分の特質だと感じているところはありますか?

 

寺田 同じ質問を数年前にも吉村林頭からいただいたことがあるんですよね。その時はモデルをつかむのが早いのでは、と答えました。いまも大体そう思っています。

 

吉村 モデルをとるのが得意なことに加えて、寺田くんはプレイするのも得意だね。両方あることが素晴らしいと思っているんですよ。

 

寺田 学生時代にアカペラでステージをやっていたことは、多少役に立っているかもしれません。編集学校でもロールに入るときには躊躇しないように思い切ってやることを意識しています。

 

吉村 2025年は、寺田くんにかかる期待がますます大きくなるだろうと思いますね。

 

寺田 そうなんですね(汗)

 

 

◆ [離]とAI、“マン・マシーン”の可能性

 

吉村 まずは[離]のことを聞きたいと思います。松岡正剛校長亡き後の[離]について思っていることはありますか?

 

寺田 途絶えさせてはいけないと思っています。校長がいらっしゃったときは、指導陣である火元も出入りして、色々な人に校長との世界読書と講座運営を経験してもらうのがいいと思っていました。自分が火元になって学んだことが大きかったので。前別当の小坂さんから継いだ思いでもあります。これからは校長がいらっしゃらなくなるなかで、[離]をどう担って発展させていくのかということは、取り組んでいかなければならないと考えています。

編集を人生する「一生の離」 14[離]退院式 10shot

 

寺田 社会のなかにおける[離]という観点で言うと、人間の想像力や連想力の価値をどう示していき、伝えていくのかが課題になると思います。今はテクノロジーの進歩の中で人の目利き力が奪われていくのが大きな流れではないか、と。例えばAIが作り出したものはパターンであって非常によくチューニングされた平均像なんだと思います。本来はターナーやマイルス・デイヴィスや若冲のように人間が編集をしつくした末の逸脱には必ず価値が生まれるはずですが、その価値が認識できなくなっていくかもしれないことを危惧しています。今後は、自分も含めて、受け取る側の区別する力、評価する力が重要になるはずで。ヘンなものをおもしろがる力といえるかもしれません。校長の著作でいうと『雑品屋セイゴオ』的なものです。編集的に価値あるものとそうでないものの違いをどう見せていけるかということが大事だと思っています。

 

吉村 編集学校や[離]の中でも、どういう価値づけができるかを言えないとダメだと思うね。編集学校の中でも、1月19日にはISIS co-missionメンバーの宇川直宏さんを講師に特別講義を開催します。AIで教室名を画像にすることをお題としています。編集学校でもAIに忌避意識がある人がいますが、松岡校長なら、AI使うのは止めようとはならない。どう使うのか、どこに問題があるのか、何が足りないのかを考え、さらにそれを活用にして次の編集をどのようにしていくのかを考えないといけないですよね。

 

寺田 以前、[離]の会議のあいまでAIについて校長と話をしたことがありました。そのときAIは使う人の想像力を削いでいるのではないか、というような批判的な話をしたんです。校長は私の話を受けて、「僕が関心をもっているのはマン・マシーンなんだよ」とおっしゃいました。マンとマシンがつながって、おもしろくなることを目指しているんだと言われて、ああそうか、となりました。つまらないところでアンチAI感を出していたことを反省しました。それこそ想像力がない。今は「編集をおもしろくするためのマン・マシーンとは?」をお題にしています。

 

後藤 カメラもマン・マシーン。校長が芸術の中で写真が一番好きだと言われる理由はそこにありますね。

 

寺田 ですね!先ほどの宇川さんというところでいうと、昨年12月に横浜でモントルー・ジャズフェスティバルがあったんですよ。宇川さんがDJとコラボして映像制作されていました。その場の音楽にあわせながら DJが皿をまわしている映像をリアルタイムで連続する生成画像に置き換えていく作品でした。画像の種類も哲学者やロボット、都市やジャズメンという風に次々とうつり変わっていく。別の世界へ強制接続されるような奇妙な感覚をおぼえました。メインゲストのハービー・ハンコックで象っていくところなんて小粋すぎて。ミリ秒単位のめくるめくミメーシスですよ!AIで想像的な表象を生み出すお手本をみせていただきました。

 

生成AI時代における「編集工学2.0」!!!!!!!

校長&林頭が現“在”美術に!!!!! 宇川直宏展@練馬区立美術館

吉村 校長が言われたように、マン・マシーンなので、基本的には鉛筆や眼鏡やイラストレーターを使うのと、AIをつかって画像をつくるのはかわらないわけですよ。ただし、どうやったら編集力が生かされたり、自分自身が発揮できたりするのかという方に向かっているかどうかが重要であって、そこら辺を履き違えないっていうことが何よりも大事なんじゃないかなと思うけどね。

 

寺田 コロナの時に校長から、書物だってリモートだった、といわれてハッとしました。新しく出てきたように感じるリモートだっておおもとの情報があったんです。それなら、どのような方法でリモート情報と関わっていくのか、それが重要なんだなって考え直しました。

 

吉村 リモートの編集も、もっと考えたいよね。リモートワークがデフォルトになりつつある時代に、リモートワークの編集はどう面白くできるのかを考える必要がある。

 

寺田 今は揺り戻しでリモートコミュニケーションの限界が見えてきてみんなやめよう、となっているけど、面白くできる余地はあるはずですよね。

 

 

◆ビジネス・パーソンこそ、編集工学を“地”に:[AIDA]の可能性

 

吉村 ところで、[離]とは別に、寺田くんにはハイパーエディティングプラットフォーム[AIDA]の中でもAIDA師範代を担当してもらっています。僕は[守破離]の講座だけでなく、[AIDA]も数々のプロジェクトも含めてのイシス編集学校だと思っているんです。そう考えたときに、これからのイシスを担ってもらう寺田くんに[AIDA]を見ていってもらいたいと思っている。AIDA師範代を二期してみて、どうですか?

 

寺田 ビジネスとの接点には興味があるので、[AIDA]の講義はおもしろいですね。その道の編集達人たちが講師としてもっとも鋭敏なところを見せてくれることがありがたいです。それを編集工学としてとらえたときにどう見ているかを、なるべくお伝えするようにしています。座衆の皆さんはビジネスにどう応用できるかが基本のスタンスになります。そこに対して、いかに編集工学の魅力を伝えられるか、皆さんが考えている領域外に目を向けてもらえるかが、AIDA師範代の役割だと考えています。座衆のなかには、編集工学を直感的に面白いと感じていらっしゃる方が何人もいらっしゃいます。「ピンとくる」は編集工学にとってものすごく大事です。ディープなものも含めて編集工学の虜にできるといいなと思っています。

 

吉村 [AIDA]や企業研修では、どうしても短い期間や1回きりになってしまうので、編集学校に比べて受講者がなかなか大きく変わるところまで行きつかないように感じます。編集術や知識を習得することにとどまらず、世界をどういう地で見ているかが重要で、今あるビジネスを地にしていると、情報の見方や考え方が変わらないんですよね。

 

寺田 私も普段は企業で働いているビジネスマンで、いつもは会社のルールのなかで、編集力を発揮する余地を自分で見いだせなかったりします。私のアプローチの不足でもありますが、デスクに座ってしまうと所謂ビジネスモードになってしまう。編集工学を実践するためには、編集学校の外でたくさんの私状態になる稽古が継続的に必要なんだろうと思います。私も精進してます。

 

吉村 デスクに座るとビジネスマンになっちゃうし、個人では変えられないと思うのかもしれないけれども、これからは編集学校が提案をしていくフェーズになるでしょう。

 

寺田 編集では冗長性やハズレも大事にするため、効率性の追求やリスク低減の動きにどうアプローチしていけるか、がポイントかもしれません。校長がおっしゃっていた「界を限る」にヒントがあるように感じています。効率性やリスクヘッジを一部でも打ち破るだけのすごさをみせられれば、ルールを変更していける可能性があると思います。虎視眈々ですね。

 

 

◆津田一郎氏との[多読アレゴリア]、春に向けて構想中

 

吉村 AIDA師範代をやりつつ、次は、春から、津田一郎さんの[多読アレゴリア]クラブの立ち上げですね。

BPTと変分原理 ー54[守]師範が見た伝習座ー

寺田 津田さんと一緒に読書するイメージはあるんですが、最後のアウトプットのイメージがまだつかめていません。今は『心はすべて数学である』を読んでいるんですが、システムというか、系がどう動いていくか、その条件をどうつくっていくのか、めちゃめちゃ刺激的だし、編集工学とつながっていると思います。

 

吉村 津田一郎さんへの質問状をみんなでつくるのはどうかな? クラブのみんなが10個の質問を考えました、とか。津田さんに、これはいい質問だね、といってもらったりしたらよさそうじゃないですか?

 

寺田 それ、いいですね!津田先生の文章を読んだとき、常に違う世界を見るんだという姿勢がうかがえて、感銘を受けました。神経活動における情報の挙動という、極小のなかから世界観そのものを問い直すというダイナミックさがすごい。エピローグに荘子、三浦梅園、岡潔が連打されていたことにもシビれました。津田さんの問いは世界観を問うものだと思います。

 

▶津田一郎さんと松岡正剛校長の共著 

初めて語られた科学と生命と言語の秘密 (文春新書 1430)

 

吉村 寺田くんにとっても、2025年はさらに活躍の1年になると思いますが、[多読アレゴリア]をやりながら、エディストを書いてもらえるといいと思っています。

 

寺田 書けるかなぁ(笑)、ただ、今年は編集学校にとって大切な1年になると思っています。イシスの力を結集させたいですね。

 

吉村 エディットツアーのワークショップをする寺田くんの軽快さと、[離]の火元の重厚な様子とはまた異なって、”たくさんの寺田”を見せてもらっていますね。[離]の太田香保総匠も寺田くんの存在を大きく感じていらっしゃると思いますね。

 

寺田 本当をいうと別当師範代ロールは、いつものキャラクターとギャップがあるんですよね。普段は比較的柔和なほうだと思います。[離]で稽古を加速させるときや大きくフェーズを変えるときには結構頑張りました。思い切った袈裟懸けや痣をつくる張手が必要なシーンもあります。これも火元全員の連携あっての別当ロールで、このシーンになるんですけどね。

 

上杉 エディットツアーの時の寺田さんと、別当師範代の寺田さん。それだけでもすごいのに、「ジャパネットたかた」もどきまでできてしまう。その幅の広さが寺田さんの編集力をすごく象徴しているなと思っていて、やっぱり、その何か引き受ける、継ぐ、ということを体現される方だという印象を改めて持ちました。

 

吉村 別当師範代でもすでにつくってくれていますが、ぜひ次世代に継承する寺田モデルをつくってもらえるといいですね。

 

寺田 少しでも皆さんに創跡を残せるようにと思っています。

 

吉村 楽しみにしています!

 

 

其の肆はここまで!

其の伍では、流麗な編集用語解説で人々を魅了するエディスト・ライター、Mさんをゲストに放談していきます。お楽しみに~🐍🐍

 

 

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🎍2025年 新春放談🎍

其の壱 – 今年、エディストは“松岡正剛の再編集”へ向かう(1月2日公開)

其の弐 – 死者との約束を胸に、新潮流[多読アレゴリア]を動かす(1月3日公開)

其の参 – イシス随一のマエノメリな姿勢が武勇伝をつくる(1月4日公開)

其の肆 – [離]・[AIDA]・[多読アレゴリア]をまたにかけ、創跡を残す(1月5日公開)(現在の記事)

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  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。