毎日のようにお題が出題され、それに即答することが求められる。これが、父(井上ひさし)からこまつ座を継いで、16年間やってきたことのすべてだったと、井上麻矢さんは語った。
「守学衆の時は、コップが何に使えるか答えてどうなるの? と正直思っていましたが(苦笑)、こまつ座を任されるようになって、守で学んだことがすべてだったとわかりました。この16年間は、守の型の応用でした」
7月14日に本楼とオンラインを結んで行われた、53[守]特別講義「井上麻矢の編集宣言」。麻矢さんは自身の半生を駆け足で振り返りながら、こまつ座の継承が青天の霹靂であったことを明かした。
「ただの会社員が、突然、演劇を任されたんです」
周囲には「こまつ座を3日で潰す」と突き放す声もあった。だが、目の前には引き継がなければならない、井上ひさしの遺志と作品があった。ではどうするか。麻矢さんが語ったのは、「型が私を支えてくれた」というそのことだった。
「父、井上ひさしも、常にお題を背負っていた」と麻矢さんはいう。
こまつ座は、全国を回る劇団だ。費用がかかるから大勢の役者を連れて行けない。最大で8人のコンパクトなユニットの芝居で、かつ観客には笑ってもらいたい。「ではどうする?」というお題だ。
「条件や制約は、発想を狭めてしまうと思われがちですが、違うと思うんです。条件があるから、発想が始まる。型も同じです。型があるからこそ、発想は広がっていきます」
学衆時代の麻矢さんは当時、型の有用性に疑問を持ちつつも、ひたすら即答し続けたという。教室では常に最初に回答し、1回では飽き足らず、2度も3度も再回答を送った。知らず知らずのうちに、麻矢さんの中に「型」が残った。
例えば、人に何かをお願いするとき、必ずそこに「物語」を作って、物語ごと手渡した。麻矢さんはこれを「パッケージ化」という。まずシソーラスを集め、それを関係づけ、物語を作り、パッケージにして伝える。守の稽古そのものだ。「物語」が人を動かし、そこに共鳴が起こるという。
芝居もそうだ。ただ上演するのでは、芝居は消耗品になってしまう。必ず「パッケージ化=編集」して観客に手渡し、観客をその物語=渦に巻き込んでいく。
守の型は「大きな世界」に向かうためのチケットだったのだ。
角山祥道
編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama
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