朗読は指南だ。「イシスで一番面白い講座」と受講した誰もが口にする物語講座、稽古の果実は感門之盟の物語アワードで寿がれる。賞を射止めた作品が朗読によって明かされるのだ。ひとつの記事からまったく異なるモードの物語を表出する窯変落語賞・ミステリー賞・幼な心賞。師範のちゃぶ台返しを乗り越えて作品を作るトリガー賞、ある年にまつわる実在の人物のストーリーを紡ぐ編伝賞。部門ごとに受賞作の一部が読み上げられた後、作品名と作者が発表される。
冒頭の言葉は、今期の朗読役に託されたものだ。過去期には、2離で女優の坪井さんや、廣瀬師範、川崎師範、指導陣がロールを着替えて舞台に立った。こまつ座主宰の井上麻矢さんが物語感門のゲストとして登壇した際には、女優の熊谷真美さんが作品を読み上げたこともある。そしてここ数期、朗読を引き受けてきたのが学林局・衣笠純子だ。アワードは、劇団四季で観客を魅了してきた女優・衣笠の姿をひととき堪能できる貴重な機会だった。
▲過去期のアワードの様子
しかし、舞台は感門之盟当日だ。衣笠は今や黒膜衆を取りまとめる、式典の統括ディレクターである。いつ何が起こるかわからない戦場を長時間離れるわけにはゆかない。こうして今期、朗読役を担うこととなった守師範の尾島に、衣笠の口伝指導がはじまった。
小芝居はしない。言葉を落とさない。地の文とセリフをどう変えるか。文のこの位置に「、」がある意味をどう捉えるか。数々のディレクションに先立って衣笠が語ったのが、「朗読は指南」の言葉である。
「指南と一緒なんです。作者が書いたものを、『あなたはこう書いたんですね、私はこう受け取りました』と朗読で場に返していく。読み手の読みで、物語をメディエーションするんです」
物語世界の中で、主人公たちは口語で言葉を交わし合う。一度リテラルに結晶化された彼らの声を、朗読で、もう一度オラルに再生し直す。それらはまた場に居合わせた聞き手によって、100人いれば100通りの微妙に異なるエディトリアリティを伴いながら、脳内に像を結ぶだろう。そのプロセスはまさに、問感応答返を場で分かち合う、教室の稽古体験そのものだ。
一遍のテキストを介して、書き手と読み手は共犯関係にある。伏せられた余白の分だけ、読みは膨らみ、行間は豊かになってゆく。春に開講する[破]には、物語講座の前哨戦ともいえる「物語編集術」がある。書き手はいやというほど産みの苦しみを味わうだろう。しかし、一人で抱え込まなくていい。一字、一行、世に生み出したその先に、読み手というグルが待っているのだから。
尾島可奈子
編集的先達:おーなり由子。十離で典離ののち5年ほどかけて師範代、師範の編集道へ。煌めく編集才能に比して慎重すぎるほどの歩みは、奈良が第二の故郷ということもあり、鹿っぽいと言われる風貌のせいか。工芸ライターやまちあるき企画で活動中。
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