宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。

食欲の秋、芸術の秋、読書の秋。秋といえば?もいろいろあるが、イシス編集学校にとって外せないのが「感門の秋」だ。イシス流の卒業式「感門之盟」まであと6日。春開講の講座の修了を寿ぐ一大イベントだけあって、直前1週間はことさら用意が加速する。世田谷豪徳寺のISIS館は不夜城と化し、登壇者たちは編集エンジンをぶん回し、数百人の関係者たちが編集ハイになるヤバイ1週間だ。
8月25日(金)、感門団あてにメールが届いた。タイトルは「82感門の映像制作にご協力ください(言葉集め)」、送り主は学林局の衣笠純子、中を開くと「編集アンソロジー」をリニューアルするため素材となる言葉集めにぜひ力を貸してほしいという内容だった。編集アンソロジーとは、多様な分野の著名人が語る「編集」の言葉を集めて仕立てた映像で、感門之盟のオープニングなどで使われてきた。だが2014年に制作してからまもなく10年ということで、このたび新バージョンをつくることになったという。言葉集めの〆切は9月1日(金)、1週間の勝負だ。
1週間後、クラウド上のスプレッドシートを開くと追加された言葉はたった20ほど。これでは映像がつくれない。さらに1週間の〆切延長が決まった。でももし次の週も20しか集まらなかったら…。「ぜひお力添えを…!」「ご協力をお願いします!」衣笠のメールに切実味が増していく。そして迎えた9月8日(金)、スプレッドシートを開くと言葉は200を超えていた。衣笠から感門団に送られたメールには「ありがとうございます!」が3度も書かれていた。
9月10日(日)の夕方、ISIS館2Fの学林堂を訪ねると、黒背景に白抜きされた文字がずらりとテーブルに並んでいた。それを眺めていたのは編集工学研究所の映像ディレクター小森康仁だ。感門団が言葉を集めたスプレッドシートを衣笠から引き継いで映像につかう素材を選りすぐり、要約や翻訳が必要なものは編集をかけて、1枚1枚プリントアウトしたという。このあと関連する映像の素材を集め、素材からあらたな映像を組み立て、音楽もあてるといった編集が待っている。制作期間はたった3日間。「ここからどうなっちゃうんだろう…」と筆者がつぶやくと、「ね、どうなっちゃうんだろう」とにこにこ笑う小森だった。
▲ふだんは「黒膜衆」というロール名で裏方としてイシスのイベントを支えている小森。黒服姿を見かけることが多いが、この日はピンクのTシャツが新鮮だった。しかもピンクがやたらと似合う。
▲ISIS館3Fの小森の仕事場。ここで数々の名映像が生み出されてきた。筆者は[守]の学衆時代にはじめて参加した感門之盟で、小森が手がけた[花伝所]のムービーをみて涙。以来、感門之盟で流れる花伝所ムービーの大ファンである。ふだんどんなふうに仕事をしているのか仕事道具を触りながらいろいろ教えてくれた。しばらくここにいると、デスク周りでもピンク色の小物がいくつも目についた。「ぼく、ピンクが好きなんで(あははは!)」。大きなからだで子どもみたいに笑ってくれるMr.チャーミング♪
あらたな編集アンソロジーがお披露目されるのは、9月17日(日)。感門之盟2日目のオープニングだ。
(・・・その後、どうなったのか。つづきはこちら)
福井千裕
編集的先達:石牟礼道子。遠投クラス一で女子にも告白されたボーイッシュな少女は、ハーレーに跨り野鍛冶に熱中する一途で涙もろくアツい師範代に成長した。日夜、泥にまみれながら未就学児の発達支援とオーガニックカフェ調理のダブルワークと子育てに奔走中。モットーは、仕事ではなくて志事をする。
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コメント
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2025-09-18
宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。
2025-09-16
「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
このゲホウグモには、別口の超能力もあるけれど、それはまたの機会に。
2025-09-09
空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。