「六十四編集技法」という方法一覧がイシス編集学校にある。そこには認識や思考から記憶や表現のしかたまで、私たちが日夜アタマの中で繰り返し使っている技法が並んでいる。それらを一つずつ取り上げて、日々の暮らしがいかに編集に彩られているかを紹介したい。
千光寺を背に記念撮影するカップル、商店街を走り回る子供たち、坂の町を見下ろす猫。みんな違っていた。
一昨年、棚の飾りと化したカメラを手に写真講座に参加した。参加者全員で尾道の町を歩いて、撮った。与えられたお題は、気になるモノにひたすらシャッターを切ること、なぜ撮ったか理由説明できることの二つだけ。与件は同じなのに、出来上がった写真にはその人だけの尾道が写っていた。
違うのは当然だが、自明の理こそ六十四編集技法(以下、64技法)でひも解いてみよう。
町を歩き、興味のあるものを収集する。それらをなんらかの基準でふるいにかけ、シャッターを切る。この行為は、「02選択(sellect):収集された情報から必要な一部を引き出す」にあたる。
必要な一部を決める基準は一人一人違うので、異なる景色が選択される。基準は個人のアタマの中にあり、無自覚に設定されている場合が多く、あえてお願いして言葉に置き換えない限り知る術はない。しかし、写真は数枚並べると、いつどこに関心が向き、どう動いたのか、注意の軌跡を描き出す。人物中心である、町の雰囲気、風や光を捉えているなど、人それぞれの選択の特徴が浮かび上がる。
シャッターを切ることを、情報選択の編集稽古だと捉えれば、互いの持ち味に学びあうことも出来る。そうすれば写真の腕も編集力も上達して一挙両得ではないか。密かに淡い妄想を抱いている。
※六十四編集技法が掲載されている書籍
『知の編集術』 (講談社現代新書)
『知の編集工学 』(朝日文庫)
『インタースコア: 共読する方法の学校』(春秋社)
しみずみなこ
編集的先達:宮尾登美子。さわやかな土佐っぽ、男前なロマンチストの花伝師範。ピラティスでインナーマッスルを鍛えたり、一昼夜歩き続ける大会で40キロを踏破したりする身体派でもある。感門司会もつとめた。
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