命名記念!倶楽部撮家『昭和の作家力』を撮る

2023/06/03(土)08:00
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 筆名、芸名、俳号、四股名。ハンドルネームから名門の名跡まで、世には様々な名付けがある。千夜千冊エディション『昭和の作家力』(角川ソフィア文庫)で取り上げられた41名の作家の中では、実に18名が筆名で活動をしていた。もしも、江戸川乱歩が本名の平井太郎で筆を執っていたら、三島由紀夫が平岡公威の名で活動していたら、文学史に残る昭和の名作は生まれていたのだろうか。

 ISIS編集学校において”名付け”の最たるものは、師範代に授与される「教室名」である。世界でただ一つしかない教室名は「学匠ただいま!教室」から「近場のダイモーン教室」まで。不思議な教室名ゆえに、全く新しいワールドモデルがそこに誕生する。名付け親は、校長松岡正剛。どこにもない教室名は、虚にいて実を行う方法日本のエンジンとなる。

 

 そして、この度ISIS編集学校に新しい名前が誕生した。その名は、倶楽部撮家。くらぶさっかと読む。作家ではなく撮家である。昨年夏にひっそりと発足したエディストカメラ部は、倶楽部撮家に突如”出世魚”をした。命名はもちろん校長松岡。突然の改名にメンバーは慌てふためきながら歓喜した。そして、撮家性を追い求めるべく、倶楽部撮家拝命記念として、全8名で『昭和の作家力』の撮影に挑んだ。それぞれの写真とともに今回の撮影ポイントと編集的先達撮家を添えている。肩の力を抜いて楽しんでいただけたら幸いである。

 

 

宮坂由香
宮坂由香
編集的先達撮家:アンリ・カルティエ=ブレッソン
 日本が疾走を好んだ昭和に、痛みも弱さも引き取ってものの底をあゆんだ作家たちのらしさを、車のヘッドライトと登山用の赤いヘッドライトを用いて表現した。生きた記憶を言葉に滲ませ続けた彼らのフィルターを通して見る令和に、昭和の面影はあるのか?町を歩いて生まれた問いは、当時生まれた撮影の手法「アレ・ブレ・ボケ」に潜ませた。


 

牛山惠子
牛山惠子
編集的先達撮家:ソール・ライター
 『昭和の作家力』を五感で3A(Analogy, Affordance, Abduction)してみたら、まだ日が高いのにバーに誘われた。眼光鋭くも美しくしどけない人々が酒をあおる、夜通しのおしゃべりが始まる場所。撮影は開店前のレストラン。窓から入る夕方の光と卓上シャンデリア、両方の光を浴びる退廃をイメージしながら。


 

林朝恵
林朝恵
編集的先達撮家:ヴィットリオ・ストラーロ
 昭和の影を探しに新宿ゴールデン街を彷徨ってみたが、溢れているのは観光客。令和の空間に圧倒されて、家路に着いた。本をめくると「脆うさ」という言葉が目に止まり、敗戦も失恋も闘争も銀幕のスクリーンにあった時代を思い浮かべていた。撮影は、「ガラス越しのキスシーン」を並べてPCのスクリーンに映し出し背景に。部屋を真っ暗にし、小さいライトで『昭和の作家力』を照らし、舞台挨拶をしてもらった。


 

西村慧
西村慧
編集的先達撮家:テリ・ワイフェンバック
 京都でたまたま入った小料理屋が古き良き昭和テイストにあふれていたので、人がいないテーブルを使わせてもらって撮った一枚。スマホ撮影では平坦になってしまうところをフィルターを使い、あわせて色味を抑えた設定にして、色彩を失いつつあるイメージを撮影してみた。


 

 

阿久津健
阿久津健
編集的先達撮家:クリストファー・ドイル
 窮屈な場末の路地にも関わらず、中望遠レンズ一本のみで向かった。ツールこそが、方法と表現の二点分岐を決定づける。自ずとブツ撮りではなく「本のポートレート撮影」の趣きとなった。昭和文人の通ったゴールデン街のほど近く。煤と喧騒、すえた匂い、古びたネオンに臨む道端のゴミ箱に身を預ける。ふたりの憂いを包む、梅雨の予感の夜の湿度が、果たして写り込んだかどうか。


 

福井千裕
福井千裕
編集的先達撮家:星野道夫
 日付が変わったころ家を出た。字紋の「影」に思いを巡らせながら自転車でウロウロ、目はキョロキョロ。すぐによさそうな場所を見つけ撮影したがいまいち。それからはピンとくる場が見つからずやがて夜が明けてしまった。きょうはここまでか…諦めかけたとき、たまたま通りかかった開かずの門。赤錆にまみれながらも南京錠の鍵穴だけは錆びついていない。そこへ本を置いた。門は開かないんじゃない、開けようとしなかっただけなんだ。


 

後藤由加里
後藤由加里
編集的先達撮家:アニー・リーボヴィッツ
 『昭和の作家力』とは堕ちていく力だ。堕ちていくことを許されていると言ってもいい。中也と乱歩と三島がそのことを教えてくれた。「堕ちる」を撮るため、はじめて多重露光に挑戦。最後にノイズを加えることで、フィルム感を出すことを試みた。あぁ、どこまでも堕ちて行きたい。


 

木藤良沢
木藤良沢
編集的先達撮家:ヴィム・ヴェンダース
 そこは六十年代に建てられた団地の片隅。エレベーターのない建物を階段でのぼり、撮影をはじめた。あやうい場所だった。風の強い日で、煽られたかとおもえば、すでに本はなかった。気ままにとんでいった。帯はかろうじて留まったが、手のとどくところにはなく、途方に暮れた。そこを撮らずにはいられなかった。ほったらかしの「五地」(基地・団地・墓地・遊園地・戦地)は、いまは見てみないふりをされるだけだという。




 くらぶさっか【倶楽部撮家】

 ISIS編集学校のカメラ好きな師範・師範代で構成されているカメラマングループ。主な活動内容は、ISIS編集学校イベントや書籍の撮影である。撮影した写真や動画は遊刊エディストやISIS編集学校Instagramを中心に発信している。2022年6月に後藤由加里、林朝恵、木藤良沢の3名によって、倶楽部撮家の前身であるエディストカメラ部を創立。同年7月に阿久津健、9月に福井千裕、牛山惠子が加入。2023年3月に宮坂由香、西村慧が仲間入りした。それぞれ東京・長野・大阪を拠点に活動している。2023年5月、校長松岡正剛により倶楽部撮家と命名される。


 

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  • 後藤由加里

    編集的先達:小池真理子。
    NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!