39[花]師範が選ぶ「春に読みたい千夜千冊」

2023/04/28(金)13:00
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 これでフィナーレです。昨年夏から始まった「○○に読みたい千夜千冊」シリーズは四季を巡り、春を迎えました。今回は春ということで講座名に「花」を背負っている[ISIS花伝所]の師範たちが、春に読みたい千夜千冊(通称ハルセン)を選びました。撮影はエディストカメラ部。新メンバーに師範代 福井千裕、宮坂由香、西村慧を迎え、カメラ部も新しい季節を迎えました。それでは、遊刊エディストに先行してISIS編集学校のInstagramFacebookで連載公開をしたハルセンをまとめてお届けします。

選本:39[花]師範

撮影:エディストカメラ部


 

0419夜『枕草子』清少納言

 春はあけぼの。これって『扉』じゃないかしら。枕詞は私たちに埋め込まれている。桜のピンクもケナリの山吹も。清少納言の勝手気儘な編集談義に花さかせ、放埓に数奇を語ってみるのもよきかなの春。春”が”あけぼの。

選者 平野しのぶ

写真 福井千裕

 

0947夜『春宵十話』岡潔

 AGI元年から年明けて今春。感門之盟でもこの話題が舞っていた。真っ正面から『人工知能』(1602夜)も面白いが、微酔い加減に「情緒の数学」を味わうのはどうだろう。演繹と帰納での発展に、地の転換が課題T(Target)へのP(Profile)を動かす。

選者 蒔田俊介

写真 林朝恵

 

1068夜『美学入門』中井正一

 あはれ、余情、幽玄、粋、そうした「心身脱落」にみる美。それは「さやけさ」「かるさ」「あわさ」でもあるという。目を閉じそっと和三盆など舌にのせ、春にひそむさやかな哀感を静かにざわめかせたくなる一夜。

選者 江野澤由美

写真 宮坂由香

 

0385夜『剣禅話』山岡鉄舟

 春は、さみしい。世が華やぐ時こそ、冬を感じてしまう。花咲く空より土の中、未熟な今に藻掻く。だけどそれで良い。啓蟄をすぎても潜ったままで、精神の編集人へ研鑽する。ひたすら武士道だけを考えた鉄舟のように。

選者 内海太陽

写真 木藤良沢

 

0108夜『絶対安全剃刀』高野文子

 春先に感じる”そわそわ”には、指先の小さな動きが取り返しのつかない”ぞわぞわ”を引き起こしてしまう予感が混ざる。萌えいずる季節に忘れ過ぎゆくものへのまなざし方を、少女の幼な心にたずねたい。

選者 梅澤光由

写真 後藤由加里

 

1066夜『複雑性とパラドックス』ジョン・キャスティ

 太陽光のエネルギーが強まりエントロピーが高まっていく時期。天気は不安定、百花繚乱、進学や異動など人事にも煩わされる。秩序がゆるみ、体もあたたかにほぐれてくると注意のカーソルも周期を外れる。あちらへこちらへ、偶然に身を寄せて、非線形な方法と遊びやすい。

選者 中村麻人

写真 西村慧

 

1704夜『苔のむすまで』杉本博司

 新たな一歩を踏み出して違う景色を見たくなる。その場に留まり変わる景色に目を凝らすのもいい。同じ景色を見て交わすのも面白い。目の前だけでなく斜めや後ろを見ても発見がある。じっくりシャッターを切りたい季節。

選者 森本康裕

写真 牛山惠子

 

0010夜『内なる神』ルネ・デュボス

 入学、入社、異動に引っ越し。新たな場所に身を移す季節こそ、ともにしたいデュボスの「場所論」。今いる場所でも懐かしい郷土でも、感覚と記憶に浸ることができれば、ひらめきが自ずと舞い込んでくる。

選者 古谷奈々

写真 林朝恵

 

0833夜『論理哲学論考』ルードヴィッヒ・ヴィトゲンシュタイン

 18の春、孤独さの中で頑なになっていた私は、今も一人道に迷い続けている。なぜなら「10マイル先に見える教会の塔の方向に歩いて行きましょう」と誰かを誘えないからである。(参照:近視の人『反哲学的断章』)

選者 深谷もと佳

写真 後藤由加里

 

1497夜『カラヴァッジョ』宮下規久朗

 春は混沌から生まれる死と再生の物語だ。せぬ隙から溢れるカラヴァッジョの魔術に溺れ、闇と光をみつめたい。

選者 小椋加奈子

写真 木藤良沢

 

0012夜『テスト氏』 ポール・ヴァレリー

 桜散る「雷鳴の一夜」に撃たれたい。世界も自分もわからないことだらけだが、「あいだ」にある方法を発見できれば共生できる。詩人の世界と言葉と方法を閃光のごとく身体に通したい。

選者 林朝恵

写真 阿久津健

 

0935夜『失われた時を求めて』マルセル・プルースト

 催花雨の夜、マドレーヌは突然やってきた。必死で想像していたときはわからなかったのに。わたしのマドレーヌは、19世紀キューバ音楽の生演奏の音であった。プルーストが本書に捧げた40代の日々が、千夜のコンブレの時間を経て、みんなに繋がろうとしている。

選者・嶋本昌子

写真 福井千裕

 

アイキャッチ写真:宮坂由香

 

◆「○○に読みたい千夜千冊」シリーズ

 エディストライターが選ぶ「夏に読みたい千夜千冊」

 49[破]師範代が選ぶ「秋に読みたい千夜千冊」

 50[守]師範が選ぶ「冬に読みたい千夜千冊」


  • 後藤由加里

    編集的先達:小池真理子。
    NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!