【イシスな推しスポ/第1場】松岡正剛ゆかりの地も!京都モダン建築祭で、近現代の日本を知る

2022/11/07(月)23:00
img

イシス編集学校はネットの学校である。学ぶ者も教える者も日本各地に点在し、その土地で編集術を活かしている。本シリーズ「イシスな推しスポ」では、イシス人が編集を手掛けるスポット・推しスポについて紹介する。第1場は、推しメンシリーズに登場した番匠・福田容子さんが事務局長をつとめる「京都モダン建築祭」に潜入。


 

京都はいつも新しい。通りには、骨董屋とレンガづくりの教会とブルックリンスタイルのカフェが隣り合う。苔むした寺に神さびた枯山水、それだけが京都ではない。千年の古都で見るべきは、じつは近代建築なのである。

2022年11月11日(金)から13日(日)の3日間、京都モダン建築祭が開催される。京都に現存するモダン建築を一挙に公開するイベントは、今年初めての試み。京都は伝統と革新が共存する土地なのだ。この地は日本の主要都市ながら、空襲の大きな被害を受けなかった。そのため、明治期以降に建てられた洋風建築が多数現存。辰野金吾、ヴォーリズ、武田五一、伊東忠太、前川國男、村野藤吾など錚々たる建築家の作品がいまでも鑑賞できる。京都という地は「生きた建築博物館」なのだ。

 

このイベントでは、パスポートを購入すればふだんは非公開の建物にも足を踏み入れることができる。イシス編集学校校長松岡正剛ゆかりの地も多い。松岡自身が通っていた「革島医院」(初公開)や、家族が学んでいた「龍池小学校(現京都国際マンガミュージアム)」、そして悉皆屋・松岡呉服店の関係で訪れた「大丸ヴィラ」(37年ぶり一般公開)などだ。(参加建築リストは公式HPで確認できる)
専門家や文化財マネージャーによるツアーも開催されるが、イシス編集学校の学衆であれば、「豆腐で役者を分ける」さながらに30以上の建築を自分なりに分類したマイ・ツアーを作ってみるのも一興。体験記を遊刊エディストに寄稿すればまたとない編集稽古になるだろう。(送付先はedist at eel.co.jp エディスト編集部へ)

▲ヴォーリズが設計した大丸ヴィラは特別ツアーでのみ見学可能(提供:まいまい京都)

 

当日はどんな建物を見学できるのか。11月5日(土)に開催されたプレツアーでその一端を覗いてみた。観光客でごった返す四条河原町から徒歩15分、重厚な京都市役所本庁舎が見えてきた。昭和6年竣工、関西建築界の父と呼ばれる武田五一が顧問として手掛けたもの。強制疎開などによって、戦後大きく広げられた御池通りで偉容を放っている。

▲このツアーの案内役は、京都市文化財保護課の技師の石川祐一さん。京都で長年、近代建築の調査・保存に尽力。

 参加者は集まって解説を聞き、広大な前庭では子どもたちが三輪車を乗りまわして遊んでいた(撮影:福田容子)

 

▲内部は格調高い空間が広がる(提供:京都モダン建築祭実行委員会)

 

京都市役所本庁舎に背をむけると、すぐに寺町通りが現れる。ここは秀吉が寺院を集めて造成したかつての目抜き通りである。京都市が威信をかけて作った鉄筋コンクリート造の洋風建築には、隣接して庶民的な洋館が建っている。

 

現役のテーラー・加納洋服店だ。白い壁が立ち上がる、アールデコ調な洋風建築。3階建てだと素朴に感心していた参加者は、石川さんの案内にどよめいた。「これは3階建てに見えますが、じつは2階建てです。3階部分にあるのは壁だけです」。もともと町家だったものを洋風に改造した「看板建築」だというのだ。通常は客しか入ることのできない店内に足を踏み入れると、その謎が解ける。2階へつながる急勾配の階段や床の間らしきものの痕跡があり、よく見ると町家の面影を感じる。

▲店内部は撮影禁止。ご自身の目で確かめられたい。右側が案内役の石川さん(撮影:梅澤奈央)

 

聞けば、このような看板建築は、関東大震災の復興期に作られたのが始まりだという。東京では建物が倒壊したあと、新築の洋風建築をつくることができたが、京都では残っている古い町家の骨格を生かしながら洋風に改造した。「どうしても洋風にしたかったんでしょうね」と石川さん。加納洋服店はオーダーメイドテーラー。店内には長さ3メートルはあろうかという裁ち台には生地や紙型、年季の入ったアイロンなどが並び、ショーケースには仮縫いのスーツが出番を待っている。これからの紳士はスーツでっせと謳うテーラーが和風の町家では格好がつかなかったのであろう。外ではスーツを着るが、家では和服でくつろぐという大正期の人々のふるまいが、そのまま建築として残されていた。

 

建築には思想が宿る。人々の憧れや営みを、目に見えるかたちとして保存する記録装置が建築なのである。長らく京都市の近代建築の調査・保全を手掛けてきた石川さんは「建物の時代背景を知ってほしい」と話す。なぜこのスタイルが、この時代に出来たのか。建物の表層を撫でるだけでなく、背景を掘り下げることで、人々が歩んできた歴史が見えるという。

 

京都にはモダン建築が多い。それはたしかに戦災を免れたという幸運があったから。しかし同時に、建物を守ってきた人々の存在を欠かすことができない。加納洋服店では店を守る女将さんがていねいに案内をしてくれ、石川さんのように文化財保護に奔走する人々もいる。無口なはずの建築から、人々の息遣いを感じるまたとない機会である。

▲校長松岡が幼少期に通ったという革島医院。木造3階建てで、住居兼病院。京都に洋風住宅を普及させるのに一役かったあめりか屋京都点の設計による(提供:京都モダン建築祭実行委員会)

 

京都のモダン建築を一斉公開するこのイベントは、今年が一年目。実行委員長は、京都に千年続く祇園祭を大先達と仰ぎ、「新たな伝統」となるべく一歩を踏み出した。イシス編集学校界隈では、関西在住の指導陣が当日スタッフとして関わるほか、某講座のボードメンバーが東京から取材に訪れ、そのあと汁講が催されるとか。マイ・ツアーを作るもよし、体験記を寄稿するもよし、かつての教室仲間との汁講の口実にするもよし。建築祭で編集稽古をしながら、京都の祭りが産声をあげる歴史的瞬間に立ち会いたい。

 

■京都モダン建築祭

2022年11月11日(金)〜13日(日)、週末の3日間、京都に現存する30以上のモダン建築を一斉公開。パスポートで自由に見学できる特別公開(原則予約不要)、事前予約制の特別ツアーなどを実施。その他、関連企画として、全国どこからでも参加できるオンラインサロンも実施中。公式WEBサイト https://kenchikusai.jp/

 

 

参考文献:倉方俊輔『京都近現代建築ものがたり』(平凡社新書)      

倉方俊輔『神戸・大阪・京都 レトロ建築散歩』(エクスナレッジ)

協力:福田容子

  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
    イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。