飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。

「本はそもそもトワイライトです」
丸善創業150周年記念連続講演会 最終回「松岡正剛 千夜千冊の秘密」。本番ギリギリまで申し込みが伸び、1000名近くがオンラインで参加した。夏の終わりの黄昏の一夜を10shot(実は12shot)でお届けします。
●青猫
ホワイエに飾られた7つの書。鏡の中に果てしなく連なる。
●茜色の代官山
会場はKASHIYAMA DAIKANYAMAギャラリー(代官山)。陽が落ちて夕暮れが訪れる。ウォールに白く浮かび上がる文字がゲストを迎える。まもなく開演。
●庭に隠れていた少年
「ノンちゃん雲に乗る(1015夜)、アンデルセン(58夜)、アルセーヌ・ルパン(117夜)、ハックルベリー・フィン(611夜)。絵本や童話は少年少女に大きな影響を与える。本に育てられ、引っ張られ、そこに隠れようとしていた。今日はトワイライトな本を愛でながら千夜千冊を書いてきたことについて話したい」
テラスから影を引き連れて会場に現れる松岡。
●I DESIGN
「コンデンセーション、ナビゲーション、キュレーション。この3つは本がスタートした頃から芽生えていた。そうであればこの3つを編集的現在にして、どうしたらもう一度導き出せるか、と書いてきたのが千夜」
マーキングされている石岡瑛子『I DESIGN』(1159夜)を手にして。
●アフォーダンスとパフォーマンス
「本からのアフォーダンスと本自身のパフォーマンスが重なって読書を成立させている」
会場のしつらいとそこにいるゲストからアフォーダンスを受けて、パフォーマンスをする。読書という行為が会場の隅々にまで満ち満ちていく。
●ソーシャル・ディスタンスは自分の中に持つ
「ソーシャル・ディスタンスは自分の中に作っていくもの。平時において有事を忍ばせるのがソーシャル・ディスタンス。では、どうしたら自らの中のソーシャル・ディスタンスを作れるか。宮本武蔵の『五輪書』(443夜)のようなものがあっていい」それは閾値、敷居(908夜)、瀬戸際を持つこと。千夜では一冊の本でその人は何を超えて、何を敷居にしたのかなるべく書こうとした。
●ペコちゃんを感じて
今回の演出、照明は「連塾」をともに創った”藤本組”が行った。2年前に逝去された照明デザイナー藤本晴美さんの存在を会場にいる多くのスタッフが静かに感じていた。
●書物を着る 読書服とヨージ
ファッションデザイナー・川西遼平さんが作った読書服。ページのように何枚もの布が重なり合う。お経がプリントされたヨージのパンツとあわせて。写真はメアリー・カラザース『記憶術と書物』(1314夜)の読書服。
●透過する板書
大きなアクリル板は感染症対策のためならず。見方を変えると板書のツールとなる。
●カメラは5台あった
最後のステージはソファに掛けてお届けする。テーブルの上には千夜千冊エディションシリーズが顔を揃えた。定点カメラを含めて計5台のカメラが四方から捉える。
●一番読んでもらいたい一冊
「一番読んでもらいたいのを一冊だけ選ぶとしたら『情報生命』。編集は生命の歴史そのものにあった。生命こそが編集力を持っている」
●継承する青年の想い
京都の丸善の棚に檸檬を置いて立ち去った。梶井基次郎の『檸檬』(485夜)をもってエピローグを迎える。
「丸善は創業以来、早矢仕有的が”燈す”という言葉を大事にしてきた。丸善は変化をし続けてきたがこの文字は手放してない。書物の前に立つ一人の青年梶井の思いをどこかで継承しなければならない。そのような「ほんと」を超える「つもり」の世界を丸善に作って欲しい」
大人になりたくない少年と「つもり」と戯れた青年の想いを小さく、深く、燈しながら満場の拍手の中、松岡は会場をあとにした。
【関連リンク】
後藤由加里
編集的先達:石内都
NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!
写真家研究とモンタージュで写真を深める【倶楽部撮家:25秋募集】
倶楽部撮家 第2期生募集! 多読アレゴリア「倶楽部撮家」の第2期目は、「写真家研究」と「モンタージュ」を楽しみます。第1期目の夏シーズンは、自身の幼な心を起点にして、まずはシャッターを押してみることを試みてきました。次 […]
こまつ座「父と暮せば」をイシス編集学校の師範が観てみました 第2弾
こまつ座「戦後”命”の三部作」の第一弾「父と暮せば」(井上ひさし作/鵜山仁演出)が現在公演中です。時空を超えて言葉を交わし合う父と娘の物語。こまつ座がライフワークとして大切な人をなくしたすべての […]
こまつ座「戦後”命”の三部作」の第一弾「父と暮せば」(井上ひさし作/鵜山仁演出)が現在公演中です。時空を超えて言葉を交わし合う父と娘の物語。こまつ座がライフワークとして大切な人をなくしたすべての […]
【本楼紹介】世界一大きな躙り口?井戸のような書棚空間「井寸房」
松岡正剛の蔵書を配架しているゴートクジISIS館内「本楼」(東京都世田谷区)には約2万冊の日本に関する本が並んでいます。普段、一般公開されていないこの「本楼」の一部を特別にYouTubeイシスチャンネルでご紹介します。 […]
急報!鈴木寛からの事前お題発表【6/20開催『情報の歴史21』を読む ISIS FESTA SP】
知の最前線で活躍するプロフェッショナルたちは、『情報の歴史21』をどう読んでいるのか?人類誕生から人工知能まで、人間観をゆさぶった認知革命の歴史を『情歴21』と共に駆け抜ける!ゲストは鈴木寛さんです。 急報 […]
コメント
1~3件/3件
2025-08-16
飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。
2025-08-14
戦争を語るのはたしかにムズイ。LEGEND50の作家では、水木しげる、松本零士、かわぐちかいじ、安彦良和などが戦争をガッツリ語った作品を描いていた。
しかしマンガならではのやり方で、意外な角度から戦争を語った作品がある。
いしいひさいち『鏡の国の戦争』
戦争マンガの最極北にして最高峰。しかもそれがギャグマンガなのである。いしいひさいち恐るべし。
2025-08-12
超大型巨人に変態したり、背中に千夜をしょってみたり、菩薩になってアルカイックスマイルを決めてみたり。
たくさんのあなたが一千万の涼風になって吹きわたる。お釈迦さまやプラトンや、世阿弥たちと肩組みながら。