多読ジムでは、本の中身が凝縮されている「目次」を使ってパラパラとめくり、短時間でたくさんの本を読むことができる「目次&マーキング読書」をキホンの”キ”として教わります。
松岡正剛『多読術』(ちくまプリマー新書)で紹介されている通り、読書力は「精読」や「熟読」だけで深まるとは限りません。逆に、ひょこひょこ読む「狭読」や、底辺を広げて読む「広読」なども実を結ぶのです。
今回、「ニッチも冊師も」の連載に合わせて、冊師ロールを通して、積もりに積もった積読本の目次読書にチャレンジしました。本のテーマは、「脳」「数学」「芸術」の3つです。それぞれのテーマから3冊選び、それら9冊に1冊をプラスワンした10冊の文庫と新書を目次読書しました。
それでは、「脳の島」「数学の島」「芸術の島」に向けて、”宝探し”をするような気分で、積読の冒険に出発します!
実況は畑本ヒロノブがお届けいたします。
<「脳の島」の3冊>
『脳の意識 機械の意識』渡辺正峰/中公新書
『思い出せない脳』澤田誠/講談社
『脳の中の過程 解剖の眼』養老孟司/講談社
まずは「脳の島」に上陸です。
脳の意識の解明は、まだまだ未開拓の分野、大航海時代さながらのフロンティアが広がっています。『脳の意識 機械の意識』、人間の意識を機械へと移植することで、人間が恒久の存在になれる予感を漂わせます。脳といえばロボット、そして脳といえば記憶です。
『思い出せない脳』は、記憶力にお悩みな方は必見。記憶の処方箋は十分な睡眠であることが明かされます。では、脳とは何か。脳とは、一言で言えば、生物としての合理性をもつ情報処理デバイスなのです。
脳の機能に加え、さらに解剖学の歴史、科学の本質を一本槍で捉えたのが『脳の中の過程 解剖の眼』です。脳への興味は尽きませんが、解剖で取り出された脳は、ご承知の通り、単体ではポンコツであります。それはパソコンのCPUが単体だと何もできないのと同様のことです。脳も総合システムの要素であるという見方が欠かせません。
ところで、解剖学者・養老孟司さんは、テクノロジーに頼りすぎた人間の観察力の低下が深刻であり、痩せゆくイメージメントに対して、警笛を鳴らします。
そんな私は、一番目の宝島からわからないこと尽くしでもうアタマの中がクルクルパーになりかけています。でも、これでいいんです。読書は、打率三割上々!
目次の中で気になったワードを「拾読」して、将来「熟読」するときの中継フラッグを設置できました。
<「数学の島」の3冊>
『物語数学史』小堀憲/筑摩書房
『数学とはどんな学問か?』津田次郎/講談社
『計算する生命』森田真生/新潮社
お次に上陸したのは数学の島です。
ギャンブルで使う確率統計や、物理現象で使う微分、積分などのパワーストーン(ワード)がゴロゴロ落ちていそうです。
数学の歴史は才能きらめく天才たちが生涯をかけて抽象化、厳密化しました。
彼らに対してスーパースターのイメージがありませんか。『物語数学史』を読むと、意外とエゴイストな一面が見つかります。全知全能の魔物を想定した天才ラプラスだってナポレオンにおべっかしていたのです。
それでは、現在の数学者がどうなのか気になりますね。
『数学とはどんな学問か?』の数理科学者・津田一郎さんは50年間ものあいだ数学を恋人にしてきました。とっても一途。読み進めると、数式仕立てのゴールドマスクを被れるかもしれません。
そういえば、津田さんは10月に校長・松岡正剛と対話しながらカオスを語る超濃厚な書物を共著されていました。
私たちはカオスのように非線形で乱雑な運命に振り回される一方、脳内ではコンピュータのように整然として美しい光景を再現できます。そのような「計算」にスポットライトをあてたのが独立研究者・森田真生さん。
『計算する生命』を読むと、私たちはガジェット(電子機器)内部の高速演算の結果に支配され、人類の機械化計画が進んでいるように感じます。将来、脳内チップも導入して高性能なサイボーグへとモデルチェンジしそうですね!
<「芸術の島」の3冊>
『火の誓い』河井寛次郎/講談社
『原色の呪文 現代の芸術精神』岡本太郎/講談社
『眼の哲学・利休伝ノート』青山二郎/講談社
最後は芸術に魅了されてアグレッシブな活動していたゴーストたちと出会える島です。彼らの言霊に触れるだけで汗ばみそうです。
1冊目は大正から昭和時代に活躍した陶芸家・河井寬次郎のエッセイ『火の誓い』。陶芸の要素である土と火への祈りが込められていました。
執拗なまでに安定感と重量感のみなぎった面影を持つありとあらゆるモノとコトの背後に置かれたレアな美を発見できます。
河井と同じく妥協ナシで高速に突きすすんでいた昭和時代のアーティストって誰を思い浮かべますか。「芸術は爆発だ!」で有名な岡本太郎ですね。
『原色の呪文 現代の芸術精神』を読むと戦後、芸術のスジが致命的に見失われていた暗黒時代があったのです。岡本は矢継ぎ早に訪れる人生の障害と徹底的に対決し、人類への遺産ともいえる太陽の塔を建て、将来を照らしましたね。
強い光を放つ財宝を探し当てたとき、本物か偽物かを判別できるでしょうか。万物を見通すメガネが欲しくなったので、骨董収集家・青山二郎の『眼の哲学・利休伝ノート』を手に取りました。
青山は高価なモノを日用品と同じように使い、日々、物の語り声を聞いていました。習慣を模倣することで、お宝の価値を鑑別できるようになります。
脳・数学・芸術の島への冒険からの帰り。持ち帰る珍しい品の価値がまだわからない葛藤が残りました。
帰り支度に読んだ『人はなぜ「美しい」がわかるのか』(筑摩書房)を積読本から取り出します。橋本治がナビゲーターとなって美しさが無数にあることを紹介しています。
それぞれの感性をベースにした美を再び掬いだす見方を掴み、安心して冒険の旅を終えました。
目次読書を通じて、お宝の匂いがプンプンする書物たちのキーセンテンスを見つけながら、3つの島を探検しました。
多読ジムでは一般公開イベント・共読オンラインが開催されています。ナビに従って目次の充実した文庫や新書を使って読み、参加者全体の振り返りを通じて20冊を超える本を読めます。
多読な冒険にチャレンジしたい方は、来年からジムにご参加ください。
■info
☆多読ジム
・入門編02・冬のお申し込みはコチラ
イシス編集学校、未受講の方のためのコースです。
【定員】10名
【申込資格】イシス編集学校 未受講者
【プログラム開催期間】7週間/2024年1月8日(月)~2月25日(日)
【開講日】2024年1月8日(月)
【申込締切日】2023年12月26日(火) まで
【受講費】月額11,000円(税込)
・season17・冬の通常コース(受講資格:突破以上)お申込みはコチラ
畑本ヒロノブ
編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。
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