何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

建築会社の設計部からキュレーターへ。
転身のアイダからあふれてきた対角線を次々企画にする岡部三知代が、
編集建築したギャラリーを通じて問いかけるコラム。
藤元明は、対話や協働のプロセスを重んじるアーティストだ。編集学校では「情報はひとりではいられない」と言うが、アートも一人ではない。アートと社会の関わりによる次世代の社会変革の可能性を探る活動家ともいえる。
その表現はメディアにとらわれない。モノではなく行為そのものをアートにしてきた。その彼に、SOCIAL GOODとは何か…と問いかけた。地球温暖化やエネルギー問題、不均衡な経済格差等の一歩も後に引けない社会現実の中で、人々の意識と行動とのギャップに、アートはどう働きかけることが出来るのか…。彼との対話の中で、海洋ごみの問題に目を向ける企画が生まれた。
海洋ごみ(海ごみ)の問題は海にあるのではなく、陸の人間の「行動」によるものである。人々は、安い、軽い、便利という直近のメリットによりプラスチックを大量に消費し、図らずもそれがごみとなって海に流出している。論じられる海洋ごみの問題は、実態が数値に表れず、得体の知れないマイクロプラスチックの行方は目に見えない。海洋ごみに関する環境意識調査でも8割の人は海洋ごみ問題を意識しているが、自らの「行動」と海洋ごみの関連性に実感が伴わない。*1
藤元はそれらの現実と社会意識のギャップを可視化し作品としてきた。
今回の制作にあたり、藤元は海洋ごみが絶え間なく漂流する海岸線を歩き、ごみと向き合う人の声を拾い、ただ事実を集め、現実と向き合った。また科学的根拠を求めて、漂流する海流ごみのシミュレーションをアートにした。一見美しいイメージによるアプローチは感覚的に人の心を揺さぶり質感に訴える。
しかし、すぐにもその感覚は絶望に代わり、愚かな人間の非力を映す鏡となる。社会に善意を尽くしたいと願う自分は、環境を破壊する欲望の猛者でもある。
世界は戦争や震災により「破綻」と「復興」を繰り返し、そのたびに科学技術はイノベーションを起こしてきた。藤元ら70年代生まれの世代は、映画やアニメーションで繰り返される、その循環のイメージが刷り込まれ、最期に「希望」を見せる物語を受容してきた。しかし、環境問題が悪化するスピードは人類と生命の歩みを遥かに超え、再生の前にエネルギーは枯渇し、人類が滅亡するのではないのかとさえ思える。藤元はそれを、悪者のいない絶望だという。向き合う絶望の先にある答えは未来にしかない。
この絶望にどう向き合うのか。誰にとっても他人事では無いはずである。社会生活にアートの関わりがなぜ必要とされるのか…。科学や政治、数学や経済だけでは解けない課題に対するアーティストからの真摯な「問い」に耳を澄ましたい。
*1日本財団 海洋ごみに関する意識調査(2018年11月実施)より
岡部三知代(ギャラリーエークワッド 副館長/主任学芸員)
展覧会 藤元 明 「陸の海ごみ」開催中(~2019.11.14)
岡部 三知代すっぴんロケット
編集的先達:トーヴェ・ヤンソン。師範代時代は小さい子どもをかかえ、設計担当として建築現場をヘルメットをかぶりながら駆け巡り、編集稽古をポリロールした。ギャラリーの立ち上げをまかされ、奔走し、学芸員となって、メセナアワード2014を受賞。その企画運営は編集学校で学んだ編集力が遺憾なく発揮されている。
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ずっと家にいると、雲行きや気温などの外気の状況を察知して、自分の体調に気付き気を整える。そもそも本来の人間らしさだと思うが、エアコンで温度管理されたオフィスのガラス箱の中でブラインドを閉め、均質な照明の下で閉じ籠ってい […]
建築会社の設計部からキュレーターへ。 転身のアイダからあふれてきた対角線を次々企画にする岡部三知代が、 編集建築したギャラリーを通じて問いかけるコラム。 編集は、あいだにある。あいだでこそ、メッセー […]
コメント
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2025-10-02
何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
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作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)
2025-09-30
♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。
2025-09-24
初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。