編集かあさんvol.24 恐竜の名前 

2021/06/29(火)09:17
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「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。



 バージニア・リー・バートンの絵本『せいめいのれきし』を子どもたちと何度も読んでいる。
 恐竜はだいたい2億年前に生きていたこと、人類の祖先が生まれたのはすごく長めに見てだいたい200万年前という話をしていると、長女(8)が、「恐竜の名前、どうしてわかったの。ティラノサウルスとかトリケラトプスとか」と質問してきた。「だって、人間がうまれた時に、もう恐竜は絶滅してたんだよね」。


 「この大衝突のあと、地球はさむくなり、恐竜たちは死にたえてしまいました。鳥類に進化したなかまをのぞけば、博物館で化石のすがたでしか、恐竜にであうことはありません。」(中生代 白亜紀のおわり)

 人類は生きた恐竜を見ていない。その通りだけど、そもそも恐竜の名前はぜんぶ人間がつけたものだからとサラっと教えると、長女は「えっ」とのけぞるほど驚いた。
 何に驚いているのかわからないまま、化石になった恐竜の骨が土の中から見つかった時このするどいツメを持った肉食の恐竜はすごく強そうだから暴君っていう意味を持っている「ティラノサウルス」ってつけたことや、ほとんど骨しか残ってないけど、だいたいこんな姿かなと想像して絵に描かれているということなどを補足した。

 

ティラノサウルス(恐竜)
『せいめいのれきし』改訂版より


 長女、そうじゃないと首を振る。「名前って、恐竜がつけたんじゃないの?」 
 ああ、そういうことだったのか。恐竜の名前はぜんぶ人間がつけたんだよと繰り返す。
「じゃあ、恐竜どうしはなんて呼び合ってたの?」
 うーん、それはわからない。
 そもそも呼び合っていたのかどうかもわからない。
「でも、困るんじゃない? 名前が無かったら」
 ふと気づいて、動物の名前も人間がつけたんだよと付け加えた。例えばゾウやキリンっていう名前も。ゾウは自分がゾウって人間に呼ばれてることは知らないと思う。ゾウのぬいぐるみを指しながら話した。
 「ええーっ」。長女は床に倒れこんだ。「じゃあ、ゾウは自分のこととかお互いのことをどう呼んでるの?」
 恐竜と同じで、どう呼んでるのかそれは分からない。違う方法で呼んでいるのかもしれないし、呼んでいないのかもしれない。
 長女、立ち上がりながら「ゾウが自分にゾウってつけて、ウサギがウサギってつけたんだと思ってた、そうじゃなかったらもともと名前がついていると思ってた。どっちでもないなんてびっくりした」と繰り返す。 

 あまりに「当たり前」すぎて、伝えようと思ったことがなかったことにヒヤリとした。本棚から『知の編集工学』を出して開いた。
 「私たちは、そして、それらは、すでに名前がついている」。
 赤ペンでマーキングしてある。
 名前をつけること(naming)は、<自由編集状態>の終わりであり、はじまりなのだ。この話をするのはもう少し先だと思うが、遊びと読書が鍵穴を形作りつつあることに気がついた。


○編集かあさん家の本棚 


(左)初版『せいめいのれきし』
バージニア・リー・バートン 文・絵
いしいももこ訳

(右)『せいめいのれきし 改訂版』 
まなべまこと監修

 

 初版刊行から半世紀たち、新たな科学的知見を加えて本文を改定した版が2015年に出版された。監修は恐竜研究の第一人者・真鍋真氏。もっとも大きな違いは「恐竜」という言葉が入ったことだが、長男(13)は、冥王星が惑星から外れていることに最初に注目した。天王星の直径なども改められている。初版から改訂版の間に探査機ボイジャーが到達し、正確な大きさが分かったのである。

 

プロローグは天体の誕生から

 


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  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg