編集かあさん家では、松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前」している。
連れだって本屋へ
ゴールデンウィークの後半、新しい千夜千冊エディション『昭和の作家力』と、マンガ『王様ランキング』の続刊を買うべく駅前の本屋に行く。子どもたちも誘ってみる。
長男(15)は「『星ナビ』出てるし、行く」。ちょっと渋った長女(9)は「なんでも好きな本を買ってあげるから」と約束すると、ついてきた。
私が文庫棚を見ている間、二人でマンガ棚をぐるぐるまわる。
「文豪ストレイドッグス」や「推しの子」というタイトルが聞こえてきた。
長女が文庫棚にやってきて、「ねえ、2冊買っていい?」と尋ねてきた。
いいよというと「やったあ!」
『ちいかわ』の2巻と5巻を持ってきた。なぜ、途中の巻なのと聞くと、表紙と帯を見て決めたという。長男は『星ナビ 6月号』を買う。
『星ナビ 6月号』と『ちいかわ2』に挟まれる『昭和の作家力』
表紙読み
帰宅して、クッションに腰を下ろすとすぐに、買った本をトートバッグから出して表紙と目次読書をする。
長女もマンガのビニールを破って読みはじめる。
「見てみて! めっちゃかわいい。うさぎもいる!」
長女はおもしろい本にであうと、実況中継しはじめる。
それを聞きつつ、『昭和の作家力』の表紙写真を眺める。モノクロ。映画のスチール写真だろうか。カバー見返しに『また逢う日まで』(1950)とある。著者写真もモノクロで暗い色調、タバコをくわえている。字紋は「影」。これが「昭和らしさ」なのかなと長男に、話しかけてみる。
edit gallery と著者写真を読む
「『昭和の作家力』って、わからなくて、なんかおもしろい。聞いたことない。前は『本から本へ』みたいに、もうちょっとわかりやすいタイトルじゃなかったっけ」という。
「昭和っぽい」とは
長男は、歴史に興味を持ち始めた数年前から「なんか、昭和っぽい」「昭和って感じがする」と時々言うようになった。
編集かあさんは昭和52年生まれで、昭和の記憶がある。
平成19年生まれの長男にとっては半ば歴史だが、「らしさ」はつかんでいるらしい。これってどういうことなのか。
夜、皿洗いしながら、何に「昭和らしさ」を感じるのか、どうやってつかんだのかを聞いてみた。
きっかけは音楽だったらしい。
テレビの音楽番組で、美空ひばりやピンクレディーなどの昔の曲を耳にした時、「どうしてこの曲がヒットしたのかな」と思った。調べてみたら昭和のヒット曲だった。
アニメのガンダムやドラえもんは、今も新シリーズが作られている。見たい気持ちにならない。「なぜ新しいものをつくらないのだろう」という疑問がわきあがる。手塚治虫のマンガなども、絵があわない。
長男の感覚では、令和の作品と昭和の作品は、ぜんぜん手触りがちがう。
違和感から時代感覚へ
みんながいいと言っているものや、名作とされる作品の良さがわからない時、理由が気になってしかたなかった。いつその作品が生まれたのかを調べ、昭和時代のものだから、あるいは○○年代のものだから、なじめないのかもしれないと捉えると、違和感ではなく、別の視点で見られるようになった。
わからないものに対して、時代のラベルをつけることで、自分との間に対角線を引く方法を手に入れたとも言い替えられる。
新しい情報に触れたら、そのラベルは更新される。
坂本龍一の訃報で、いっときあちこちから流れてきたYMOの音楽は、「レトロフューチャーって感じがした」。昔の人が思い描いていた未来イメージって、こんなのだったのかな。昭和にもこんな音楽があったんだと思ったそうだ。
長女は長男に比べると、いろいろなものになじみやすい性質である。たとえば、ドラえもんも好きだし、マンガならなんでも読めるというところがある。時代感覚のつかみ方や歴史への興味のあり方も異なってきそうだ。
テレビ以前とテレビ以降
さらに聞いてみると、長男にとっては、昭和、平成、令和よりも濃い時代の区切り線があるという。それは、テレビ放送の開始以前と以後である。
「テレビ放送が始まってからの文化は、今と地続きだという感覚がする。テレビがなかった時代の人達は、ぜんぜんちがう考え方を持ってた
んじゃないかな」。NHKの「映像の世紀」や「サブカル史」を見て、さらに強く思うようになったそうだ。
テレビの本格的な放送が始まったのは1953年。私にとっては、それほど注目したことのない区切りだった。
「本をよく読む人にとっては、大正時代や明治時代も地続きなのかもしれないね」と長男が付け加える。言われてみればその通りで、私にとっては中島敦や夏目漱石もそれほど遠い存在ではない。
1953年(『情報の歴史21』より)
小説を読みはじめる
長男は、最近、小説を読んでいる。
朝井リョウが日経新聞夕刊に連載している「推し活」をテーマにした群像劇である。昭和について話してみて、令和を「地」にした小説だから入りやすいのかもしれないと気づいた。
日経新聞夕刊に連載中の『イン・ザ・メガチャーチ』
編集かあさんのほうは、ヤマザキマリのレコメンドを読み、安部公房を再読し始めた。戦後がこれ以上ないぐらい濃密に描写されている。
「昭和を知りたいなら、けっこうおすすめ」とつい語るが、実際に読みはじめるのは後でもいいと思う。
まずは歴史の授業やドキュメンタリーで、時代を「らしさ」とクロニクルの両方からつかむことが、いつか昭和の作家たちの作品に手を伸ばす土台になるだろう。
アイキャッチ撮影協力:
ブックスペース(シェア型書店)「奈良町 ふうせんかずら」
編集かあさん、「スタジオらん」棚出店中です。
一番下、ゾウが目印。三冊屋も展開中です。
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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