「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
お題と重なる
9月に京都で、本のポップをつくるワークショップをした。イシス編集学校の[破]コースを突破したばかりの坂口弥生さんが参加してくれて「次は何か一緒に企画しましょう」と意気投合した。
やりとりするうち、紅葉の京都を歩くハイキング企画にかたまる。イシス編集学校のラウンジで呼びかける文章を考えていると、[守]コースのお題「オノマトペでハイキング」と重なった。
ハイキング中に感じたことをオノマトペで表現して、記録してみたらどうだろう。写真で撮れないものが残せそうだ。ことばが育つには、カラダとつなげることが最初の一歩になるという「子どもイシス」の実践とも重なる。
「オノマトペでハイキング in 紅葉の京都」は親子参加歓迎とした。待ち合わせの叡電修学院駅に、大人4人、子ども3人の7人が集まった。
苔のオノマトペ
北白川の住宅街を抜け、最初の見どころは鷺森神社だ。参道が、赤い紅葉、黄色い紅葉、銀杏のトンネルになっている。子どもが手に一枚の葉っぱを持っている。
「これ、落ちたて。落ちてくる瞬間を見て、すぐ拾ったんだよ」
何の変哲もない葉っぱに価値が宿る。
目の覚めるような赤
神社を抜けると、修学院離宮の横に差し掛かる。東に見える山は、紅葉のパッチワークに彩られている。
「北が比叡山、こちらが今からのぼる瓜生山(うりゅうやま)」と、ガイド役の弥生さんが教えてくれる。
「山が黄色、茶色、緑の三色になってる」
曼殊院の前にも真っ赤なモミジの木が幾本もあった。苔に散り紅葉が美しい。
目の高さに苔がある。見た目はフカフカ。触ってみると思ったよりもかたくモサモサしている。
子どもも誘ってみる。
「この感触をオノマトペにしてみると?」
聞いてみる。
「コショコショ!」
なるほど! 触発されて大人たちももう一回触ってみる。「サワチクって感じかな」という<回答>が生まれた。
曼殊院の苔を触る
山に入る
瓜生山の登山口には柵があった。マウンテンバイクで山を走る人が増えてきたからだという。柵をすり抜けていくのは、禁をやぶっ
ているようなワクワク感がある。
体を滑り込ませるように山に入る
道には、地面が見えないほど落葉が積もっている。
カサカサどころではない量で、ザクザク、ザリザリ、ズリズリ、進んでいく。
下の方に小さな流れがあり、砂地に野生らしきミカンの木がある。
降りていく。数えきれないほど実っている。
「食べられるのかな?」
「サバイバルだ!」
一人一個、ミカンを手に持ってハイキング道に戻る。
食べかけの小さな柿が落ちてる。どこからだろう? と木の上のほうを見上げる。
いろんな形のどんぐり、謎の小さな黒い実やキノコがポコポコ飛び出している枯れ木を見つける。
学校の遠足じゃないので、寄り道し放題だ。
モジャモジャ帽子のどんぐりを見つける
「なりきり」でパワー回復
柿を食べたのは、鳥か、猿か、熊か。
熊よけの鈴はカラカラ鳴っているけれども、万が一ということもある。
「もし、熊が出たらどうする?」
「にぎやかにしてたら、熊も近づきにくいじゃないかな」というと、女の子たちがYOASOBIの「アイドル」をスマホで流して、声をそろえて歌い出した。
ちょっと小高くなっているところや、歩きにくいところをあえて進み、冒険気分を盛り上げる。
大人は歩くことに集中しがちだけれど、「なりきる」ことで湧いてくるエネルギーがあるのだな。
予想よりも暖かくなってきて、ぽわんぽわんとした陽気の中、だいぶ汗をかいたところで、視界が開けた。
「妙」「法」、宝が池を望む
送り火で「妙法」が灯される山や、宝が池などが眼下に見渡せる場所で一休みする。
丸太のベンチに座った時のオノマトペを聞く。
「フゥ~」かなと予想していると、「モミモミ」と返ってきた。ふだんの椅子とは違うおしりの感触なのだった。
丸太のベンチでひとやすみ
木にのぼる
瓜生山の頂上には、小さな祠があった。その前の開けた場所でお昼にする。
斜めに生えている木がある。数年前の台風で倒れたと思われるが、しっかり生きている。
弥生さんがさっとのぼり、幹に腰掛ける。他の大人ものぼる。
最初は「お父さん、あぶないよ~!」と言っていた子どもたちも、しばらくすると真似してのぼりはじめた。
すぐに慣れて、お弁当のおにぎりを持って上がり、「いいでしょ!」と木の上で食べ始めた。
木の上で何を話していたのだろう
五七五にする
お弁当を食べた後、記憶に残っている感覚をオノマトペにしてスケッチブックに書きこみあった。オノマトペを見ながら、大人は五七五を作って、これまでの道のりを振り返った。
シラカワのモミジトンネルオチバロード
ヒラヒラと落ちてくる葉をキャッチする
ビッシリとうろこみたいなキノコの木
ほろにがい山の途中で野のみかん
おにぎりを木の上で食べ笑顔かな
山頂でおひとつどうぞチョコボール
遠くからオオオ…というような不思議な叫び声のようなものが聞こえてくる。猿だろうか、なんだろうと言いながら、帰路につく。
下りは一瞬
1時間半ほどかけてのぼったが、下山は15分ほど。ズザザザザと、子どもたちは転がるようなスピードで、大人よりもずっとはやく下って行く。
道がわからなくても、あらそって先頭を行く。
転がるように下っていく
狸谷不動尊の脇に出た。本堂の奥は岩窟になっていて、石造りの不動明王の眼光の鋭さにドキリとする。山頂に届いた不思議な声は祈祷の声だったとわかる。
狸谷不動尊を出ると、急に人里に戻った感覚があった。観光客の人波にまじりながら、詩仙堂、圓光寺を通り、一乗寺まで歩く。
「宮本武蔵っていう剣豪がこのあたりで決闘したと言われてる」と話す。
一乗寺駅が見えたところでハイキングはおしまい、解散となる。名残りを惜しみながら、それぞれの暮らしの中に戻っていく。
来年の紅葉も歩きたい。きっとみんなの言葉、また少し変わっているだろう。
子どもが撮影した、曼殊院前での一行
頂上で書き込みあったスケッチブック
写真協力:泉谷よしあき
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松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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