イシス編集学校についての本の執筆を続けています。学衆、師範代、師範経験者の言葉に助けていただきながらの執筆ですが、その途中で、出版元になる予定の編集者から、熱意ある檄が飛ばされました。次のようなものです。
インターネット、SNSが普及している時代にあって、比較的若い世代の特徴でもありますが、「相互編集」がなぜ必要なのかの理解がうすく、理解がない現状があります。ここを飛ばすことは危険です。
コスパ重視で、答えだけが欲しい、自分が傷つくのはもっとも避けたい。
最短でコツを知りたい。
「編集する能力」をお互いに鍛えていく必然性をおそらく必要としていないのです。
平たく言えば、「なぜ一人ではダメなのか」。
この編集者からの要望で、「相互編集」こそ、今とこれからの世界が必要としていることなのだ、と私も気づきました。そこで、なぜ必要なのかについて、本に組み入れる前に編集者に以下のように伝えました。みなさんと共有し、「もっとこういうことを書いて欲しい」「相互編集の必要性をこういうことで痛感した」という意見があれば、ぜひ寄せて下さい。
まず、松岡校長の次の言葉を引用しました。
・私たちは、そして、それらは、すでに名前がついている。だから、新たな自由を加えてやるべきだ。それらは、それを待っている。
・私たち(それら)は、すでに記述された中にある。それならば私たち自身を複数の属性によって記述していくべきなのだ。
・私たち(それら)は、すでに組織化されている。
・私たち(それら)は、とっくに何かと関係づけられている
・私たち(それら)は、つねに相互関係ネットワークの中にいる。
・私たち(それら)は、もともと制限をうけている。
このように私たちが「すでに投げ出された存在」であるからこそ、〈自己編集化〉を始められる。そこに〈相互編集化〉がおこる。「私が本書を通して言いたかったことは、この点に尽きている」と、『知の編集工学 増補版』にあります。
編集工学は「自分」とか「私」というものがたくさんの他者や出来事とつながっている、と考えています。あらゆる生物が相互編集世界の中にいます。人間も同様です。その前提があるからこそ、個々人は環境や世界や他者と相互編集しなければ、「今の自分」から自由にはなりません。しかしそのためにはどうしたら良いか? 単に知識をためることでは、私たちは自由になりませんよね。知を編集能力によって、自在に使いこなすことが必要なのです。他者の体験、知見、考えとの相互交換こそ、自己編集のトリガーになるのです。
その能力を拓く仕組みが、イシス編集学校の方法です。
私は以上のように考えていますが、ご意見どんどんお寄せ下さい。
イシス編集学校
学長 田中優子
田中優子の学長通信
No.04 相互編集の必要性(2025/04/01)
No.03 イシス編集学校の活気(2025/03/01)
No.02 花伝敢談儀と新たな出発(2025/02/01)
No.01 新年のご挨拶(2025/01/01)
アイキャッチデザイン:穂積晴明
写真:後藤由加里
田中優子
イシス編集学校学長
法政大学社会学部教授、学部長、法政大学総長を歴任。『江戸の想像力』(ちくま文庫)、『江戸百夢』(朝日新聞社、ちくま文庫)、松岡正剛との共著『日本問答』『江戸問答』など著書多数。2024年秋『昭和問答』が刊行予定。松岡正剛と35年来の交流があり、自らイシス編集学校の[守][破][離]コースを修了。 [AIDA]ボードメンバー。2024年からISIS co-missionに就任。
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1月25日、今年も花伝敢談儀の日がやってきました。 「今年も」なんて書きましたが、実は私は初めて出席したのです。今まで諸コースを巡り、最後に残っていた「花伝所」をようやく受講し、終えました。 敢談とは […]
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