【田中優子の学長通信】No.01 新年のご挨拶

2025/01/01(水)07:00
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 あけましておめでとうございます。

 

 イシス編集学校は今年、25周年を迎えました。その記念の年に、私たちは松岡正剛校長のおられないお正月を迎えました。たとえようのない寂しさです。

 でも、校長が25年間にわたって創り上げ、磨き上げてきた稽古と指南の方法を、私たちは持っているのです。これからもそこに出入りしつつ、それぞれが自分の編集能力を深めていくことができます。この蓄積を少しも無駄にしないように、皆で徹底的に使いましょう。その蓄積をそれぞれの能力とし、それぞれの「人としての深み」にしていきましょう。

 

 昨年の1225,26日には、本楼と書斎等で、校長と志や活動をともにした方々が集うお別れの会「玄月惜影會」が開催されましたね。私も、校長と長い縁のある多くの方々に再会し、その縁の数と長さと深さを、改めて思い知りました。研究者、文筆家、写真家、企業経営者、政治家、音楽家、報道・放送界の方々など、本当に多くの方々が玄月惜影會に足を運んでくださり、校長の事績の多様さに改めて驚いておられました。

 

 その多くの事績のひとつが、イシス編集学校の方法の確立でした。イシス編集学校は、それぞれが自らの持っている編集能力を知り、自らの力で拓いていくための方法が躍動する場所です。その基盤となる千夜千冊には1850夜の蓄積があります。私たちはこの1850の扉をいつでも開けて、そこから才能を拓く稽古の種を、見つけ出すことができるのです。

 

 私自身、多くを学んできました。守、破、離、多読ジム、風韻講座、花伝所を稽古しながら、この社会にある学校教育とは全く異なる能力の拓き方があることを、実感しました。学校制度ともっとも違う点は、互いを「受け容れる」ことでしょう。受け容れることによって互いの感性と価値観と能力を交叉させ、自らの枝をそこから新たに伸ばし育てることができる点です。それぞれが多様となり、深くなります。その可能性が満ちているのが、イシス編集学校なのです。

 

 これは世間でよく言われる「ほめれば育つ」とは違います。ほめるのは、言葉だけでも可能です。しかし他者を感じ取り他者の連想の中に入って、ともにそれを認識しながら自らが育つことは、イシス編集学校という場があってこそ、できることなのです。

 

 この場が今まで学衆たちの中に何を引き起こし、何をもたらしてきたか。今年から私はそれを発信していくつもりです。どうか皆さん、皆さんの中に起こった変化を、私に伝えてください。 

 

学長 田中優子

 

田中優子学長による新年のご挨拶を動画でもご覧いただけます

 

 

 

  • 田中優子

    イシス編集学校学長
    法政大学社会学部教授、学部長、法政大学総長を歴任。『江戸の想像力』(ちくま文庫)、『江戸百夢』(朝日新聞社、ちくま文庫)、松岡正剛との共著『日本問答』『江戸問答』など著書多数。2024年秋『昭和問答』が刊行予定。松岡正剛と35年来の交流があり、自らイシス編集学校の[守][破][離][ISIS花伝所]を修了。 [AIDA]ボードメンバー。2024年からISIS co-missionに就任。

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コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg