[週刊花目付#004] ホドがある。

2020/11/17(火)10:11
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週刊花目付

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2020.11.09(月)

 

 編集稽古における言葉の密度冗長性について関心を持っている。

 

 言葉については、「濃度」となると意味を孕むので計測が難しいが、「密度」であれば文字数でカウントしてスコアすることができる。ならば定量的なデータを基に「ISIS版セイバーメトリクス」(*)のような解析が行えないだろうかと、29[花]以降、全ての入伝生の道場演習の発言データを計測している。
 測定しているのは、応答速度、発言数、自由発言量、振り返り(FB)発言量だ。これらの測定値に簡素な関数をかませて「冗長度」「発言頻度」「言語密度」を導出している。このうち、発言頻度は入伝生が師範代登板した際の担当可能学衆数を、言語密度は指南文の濃度を定量的にシミュレートできそうだ。

 

 ISIS版セイバーメトリクス構想はまだまだ基礎研究の段階なので、今は詳細を公開することは控えたいが、どうやら活発な言語コミュニケーションの為には適度な冗長性が有益らしい、という仮説は発表して良いだろう。
 要するに「無駄話は無駄ではない」、ただし「無駄話にはホドがある」ということだ。その「程」の範囲は、私の試算だと概ね45%±15%のスコアにゴルディロックスを見出せそうだ。
 テキストであれオーラルであれ、会話を弾ませようとするなら、発言の4割を無駄話に割くつもりで臨むとホド良いだろう。

 

セイバーメトリクス

「セイバー」(SABR)は「アメリカ野球学会」(Society for American Baseball Research)の略称。ベースボールにおける様々なデータやスタッツを統計学的に分析し、選手についての評価やチームとしての戦略を立案するための測定基準(metrics)とする手法。
米メジャーリーグでは、全ての球場に軍事技術を転用したデータ解析ツール「スタットキャスト」が配備され、選手の動きのみならずボールの位置・方向・速度・回転数をもスコアし、リアルタイムでの解析が行われている。

 

 さて34[花]の演習模様はといえば、第2週を終えた時点で冗長度53.2%を計測している。これは花伝所の過去5期を通して、群を抜いた無駄話の多さを示している。まぁ、伸び伸びと励んでいると見ることにしておこう。

 とはいえ老婆心ながら、花目付からは以下の言葉を差し入れておきます。編集学校設立時の校長ディレクションだ。無駄話の「質」に着目していただきたい。

 

「ふつうの感想を言わない。いいですねではなく、みかんの香りがしますねと言うようにしてほしい」

 


2020.11.11(水)

 

 深夜、くれない道場で「メトリック問答」が起こった。

 

 「メトリック」(Metric)とは、花伝式目5Mの3番目に掲げられる指南術の骨法で、「」「測度感覚」と説明されている。
 こと指南に限らず、メトリック無くして編集方針を構想することは出来ない。それは分かるけれど、この聞き慣れない術語の意味するところがしっくり掴めない。多くの入伝生がモヤモヤと迷い込む、式目演習の難所である。

 

 困難との遭遇に及んで、クレナイジャーイエローことIKが、個人知を結集した共同知で立ち向かうことを道場の仲間へ呼び掛けた。抱え込んだ「?」について、手掛かりを闇雲に取材して回るのではなく、互いの仮説を共有することを提案したのだった。そのアブダクティブなカマエが鮮やかだった。

 くれない道場の5人衆は、逆紅一点NMの発案で、5名5様のエディティング・キャラクターを「赤・青・黄・黒・桃」にラベリングし「編集戦隊」に擬えている。

 

 そういえば、かつてのヒーローは孤独だった。ゴジラも鉄人も、ウルトラマンもランボーも、世界の重みを一身に背負って吠えていた。戦隊モノの登場は、悪も正義も一様ではないことに気づいたからなのかも知れない。世界と「わたし」との関係は、一対一では語れないのだ。
 多様性を受容し、それぞれのユニークネスを描出しようとするなら、そこにもまたホドが見え隠れする。

 

 

2020.11.12(木)

 

 「編集は楽しく、切なく、色っぽく

 

 冨澤陽一郎道匠の遺訓が、34[花]の編集術ラボへ転生した。
 花伝式目M2「Mode」での演習模様を、吉居奈々錬成師範がカットアップして、【楽】【切】【色】の3様にスコアしたのだ。入伝生たちの悩みや発見や躍動が、生々しい体温や湿度や肌触りをともなって立ち現れるように感じた。いつだってホドは傍らにあって、カマエをもたらし、ハコビを誘う。

 

 花Q林では、山田細香錬成師範がカリントウの次鋒を務めた。建築設計を生業とする山田らしい、スタイリッシュな大喜利だ。遊び心あるポップなQに、入伝生たちがメタフォリカルなEで応じた。

 

__『構造化』とかけて○○ととく。そのこころは?
 「ナスカの地上絵とときます。俯瞰で線を引きましょう」
 「クレーとときます。両方とも線がキモ」
 「きのことときます。軸が決め手です」
 「タコとときます。どちらも8なんです」

 

 さて、座布団は誰へ運ばれるだろう。ホドの良い問いはゲームをメイクする。

 

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  • 深谷もと佳

    編集的先達:五十嵐郁雄。自作物語で語り部ライブ、ブラonブラウスの魅せブラ・ブラ。レディー・モトカは破天荒な無頼派にみえて情に厚い。編集工学を体現する世界唯一の美容師。クリパルのヨギーニ。

  • 【追悼】松岡校長 「型」をめぐる触知的な対話

    一度だけ校長の髪をカットしたことがある。たしか、校長が喜寿を迎えた翌日の夕刻だった。  それより随分前に、「こんど僕の髪を切ってよ」と、まるで子どもがおねだりするときのような顔で声を掛けられたとき、私はその言葉を社交辞 […]

  • 花伝式部抄_22

    花伝式部抄::第22段::「インタースコアラー」宣言

    <<花伝式部抄::第21段    しかるに、あらゆる情報は凸性を帯びていると言えるでしょう。凸に目を凝らすことは、凸なるものが孕む凹に耳を済ますことに他ならず、凹の蠢きを感知することは凸を懐胎するこ […]

  • 花伝式部抄_21

    花伝式部抄::第21段:: ジェンダーする編集

    <<花伝式部抄::第20段    さて天道の「虚・実」といふは、大なる時は天地の未開と已開にして、小なる時は一念の未生と已生なり。 各務支考『十論為弁抄』より    現代に生きる私たちの感 […]

  • 花伝式部抄_20

    花伝式部抄::第20段:: たくさんのわたし・かたくななわたし・なめらかなわたし

    <<花伝式部抄::第19段    世の中、タヨウセイ、タヨウセイと囃すけれど、たとえば某ファストファッションの多色展開には「売れなくていい色番」が敢えてラインナップされているのだそうです。定番を引き […]

  • 花伝式部抄_19

    花伝式部抄::第19段::「測度感覚」を最大化させる

    <<花伝式部抄::第18段    実はこの数ヶ月というもの、仕事場の目の前でビルの解体工事が行われています。そこそこの振動や騒音や粉塵が避けようもなく届いてくるのですが、考えようによっては“特等席” […]

コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。