タイトル 紫~ゆかり~への道◆『光る君へ』を垣間見る 其ノ三

2024/06/14(金)19:00
img

事実は一つ。であっても、それに対する解釈は無数に。「なぜ」と「どうやって」は見る人の数だけあるのでしょう。大河ドラマもまた、ある時代・ある人物に対する一つの解釈です。他の解釈を知れば、より深く楽しめるに違いない。
中宮・定子を懐かしむ一条天皇に同情した行成に「頭を冷やせ」と冷たく言い放つ道長。その一方で、越前に行ったまひろ(後の紫式部)のことを忘れられない道長。今はまだ硬軟入り混じっていますが、このあと、道長はどのように青年の柔らかさを失っていくのでしょう?


 

◎第23回「雪の舞うころ」(6/9放送)

 前回(6/2放送)の終盤で起きたのは、宋人たちの通事(通訳者、ですね)・三国若麻呂の殺人事件。犯人として宋人たちのリーダーの朱仁聡が捕まったこと。そして「朱様は犯人じゃない!」と証人を連れて駆け込んできたのが、為時パパに鍼灸治療を施した周明です。そう、「え? 日本語話せるじゃない」と、まひろと同じことを視聴者全員が思ったに違いない。

 結局のところ、宋人たちの進出を快く思わない越前介・源光雅が偽証を強いたことによるもので、朱も早速、釈放されます。ここで都からの天下りトップ=為時と、地元生え抜きのセカンド=越前介・源光雅との確執、いよいよ激化か、と思いきや、宋人たちに大人しく帰国してもらうというミッションを背負った為時側の事情もあってか、はたまたそもそも為時とはそういう人なのか、温情判決により穏やかに、素早く事件は解決へ。
 これがどうつながっていくか、というと、周明とまひろの仲がぐぐっと近づいていくわけです。なぜ、周明は日本語を話せるのか。周明、生まれは対馬、父親に海に捨てられ、拾ってくれたのが宋の船。宋で死ぬほど働かされたため、逃げ出して医師の元へ。このあたり、まひろが夢見るほど宋の国がすばらしいというわけではないことがほのめかされているのですが、まひろはそれでも、宋は実力主義の国(科挙のことを指していると思われます)で、「もっと知りたい、教えて」とねだります。かくして、宋の言葉を教わるまひろ。


 そしてまひろのモテ期到来?!となるわけです(ああ、こんな下世話な言葉を使っていいんだろうか…)。


 ある日、周明と海岸を散歩しながら宋の言葉を習っているところに登場するのが、調子がよく、いつもまひろをからかって怒らせる親戚のおじさんのような宣孝。宋人を見に越前まで行くぞ、と言いつつ、なかなか来なかったわけですが、ついに来た。一目で(おそらく)周明とまひろの仲を見抜く。そしてまひろに会うと「違う世界、新たな望み、未来が見えて、まだまだ生きていたいと思ってしまう」と、あらら、これっておじさんの思い告白? ついに言ってしまう「都に戻ってこい、妻になれ」。


 宣孝が元々、ノリのよい存在のせいか、コミカルに描かれてはいますが、『源氏物語』で玉鬘に懸想する光源氏の姿が重なる、というのは言い過ぎかもしれません。しかし中年に差し掛かり、本来なら落ち着いた生活をおくれる筈の源氏が、玉鬘に心動くのは、玉鬘の若さに備わる未来や望みに心ひかれたからではないでしょうか。

 

 一方、周明は心に思うところにあってのまひろへの接近のよう。

 宋人たちは、果たして望み通りに貿易開始できるのか、はたまた為時は道長の指示どおりに宋人たちを追い返せるのか。そもそも、この時代の貿易って? と思ったら、この本をぜひ。

 

◆『紫式部と王朝文化のモノを読み解く 唐物と源氏物語』◆
河添房江/角川ソフィア文庫

「国風文化」。遣唐使廃止で「日本の文化」確立、と思ってしまいそうになるが、けして外国からのものをしめだしたというわけはない。『枕草子』に「まだ御裳、唐の御衣奉りながらおはしますぞいみじき、紅の御衣どもよろしからむやは。中に唐綾の柳の御衣、葡萄染の五重襲の織物に、赤色の唐の御衣、地摺の唐の薄物に…」と唐物尽くしで語られているのが、中宮・定子の衣装。なんと「唐」という言葉が繰り返されていることか。そういえば、『伊勢物語(少し時代がさかのぼるが)』の東下りにも「から衣着つつなれにし妻しあれば…」という歌があったなと思う。たきしめる香、書物、ガラス、陶器、インテリア、はてはペットにいたるまで、貴族たちの身の回りには舶来品があふれていた。この本では「国風文化とは、鎖国のような文化環境で花開いたものではなく、唐の文物なしでは成り立たない、ある意味では国際色豊かな文化だった」と書かれている。舶来のものを
使いつつ、上手に日本の文化に根ざすように移し替えていった、それが国風文化なのだろう。

 

 

 

 



紫~ゆかり~への道◆『光る君へ』を垣間見る 其ノ一
紫~ゆかり~への道◆『光る君へ』を垣間見る 其ノ二

  • 相部礼子

    編集的先達:塩野七生。物語師範、錬成師範、共読ナビゲーターとロールを連ね、趣味は仲間と連句のスーパーエディター。いつか十二単を着せたい風情の師範。日常は朝のベッドメイキングと本棚整理。野望は杉村楚人冠の伝記出版。