▼チョコレートプラネットの「【記録映像】悪質クレーマー『サンタが来ない!』というコント、ご覧になった方はいらっしゃるでしょうか。Youtubeで見られます。
このコントのタイトル、よく読むとキュンキュンしませんか。いかついオジサンが区役所にやってきて、「うちの子のところにサンタが来ない!役所は何やってんだ!」と喚くんです。困り果てた職員が、「サンタっていうのは、実は親がフリするもので……」と、隠されてきた真実を慎重に開示していく。「そんなこと学校で教わらなかった!」と驚愕するオジサンを見ながら、「サンタという秘密」の甚大さにゾクっとしました。
▼夜のうちにサンタクロースがやってきて、枕元にプレゼントを置いて去っていく。その舞台裏を秘密にするために、大人たちは社会全体で結託しているようにすら思えます。家庭の域を超えた連携プレー。この連帯力は、いったいどこから湧いてくるんでしょうか。
▼レヴィ=ストロースの『火あぶりにされたサンタクロース』をご存知の方も多いと思います。1951年、フランスはブルゴーニュのディジョン大聖堂で、サンタの人形が「異端の象徴」として火刑に処せられた事件。この珍妙な出来事を前に、レヴィ=ストロースもペンをとらずにはいられなかったと見えます。火あぶりを執行した聖職者たちは至って真面目で、サンタのせいで神聖なクリスマスが異教化し、馬鹿騒ぎになっていることを告発したのだそう。
こんな話を聞くと、サンタって何だか傾国の美女のように蠱惑的な存在なのかと思えてきますよね。
▼サンタクロースは、子供達の笑顔のために気前よくギフトをばらまく妖精。だけど贈与経済の常識が教えるとおり、贈り物は「もらいっぱなし」はできない仕組み。だからかつて子供だった誰もが、大人になったら今度は自分がサンタになって、もらったものを”pay it forward”しなきゃならないんですね。それを知らずに大人になると、区役所でクレーマー扱いされてしまう。
▼大人と子供を架け橋する「贈与循環の象徴」なのだとしたら、サンタさんにはぜひ今後も大いにご活躍いただきたいところです。貨幣経済にもポリコレにも負けずに、この時代を生き延びて欲しい。
いまや宗教多様性の観点から「メリー・クリスマス」さえ言いづらくなった世の中だけど、赤服白髭の贈与おじさんには、市民権が与えられてもいいんじゃないでしょうか。だって、一時は火あぶりにまでされたんだもの。もはやキリスト教専属とは言い切れないですよね。もしかして、クリスマス専属じゃなくたって、いいかもしれない。市場経済の馬鹿騒ぎの中を、颯爽とソリに乗って駆け抜ける贈与オジサン。そのマル秘存在を手放さないまま、資本主義の先に向かう社会だったら、いいな。
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遊刊エディスト新企画 リレーコラム「遊姿綴箋」とは?
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山本春奈
編集的先達:レオ・レオーニ。舌足らずな清潔派にして、万能の編集ガール。定評ある卓抜な要約力と観察力、語学力だけではなく、好奇心溢れる眼で小動物のごとくフロアで機敏な動きも見せる。趣味は温泉採掘とパクチーベランダ菜園。愛称は「はるにゃん」。
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