発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

〈渦潮の底より光生れ来る〉
俳人出口善子氏の句を掲げ、遊刊エディストの渦潮の底より「チーム渦」は生まれ出でた。〝イシス編集学校と社会をつなげる〟を合言葉に、2023年3月から「ISIS waveシリーズ」を連載し、編集学校で学びながらもイシスから遠ざかっていた人々をはじめ、それぞれの日常にひそむ編集に光を灯すべく活動している。
連載30回を機に全記事を分類アーカイブ化することと相成り、チーム渦の面々が集結。メンバーは人情派の問題児・角山祥道(角)、冷静沈着なバランサー・柳瀬浩之(柳)、見立てのアーキテクト・吉居奈々、直球のパッショニスタ・羽根田月香(月)の4人。アーカイブ化の全貌とともにエディストの意義にまで及んだ座談会の模様を、3回に分けて3日連続でお送りします。
(※なお吉居は所用で欠席)
■■学びを言葉にする
角:まずはエッセイシリーズ<ISIS wave その先の日常>をアーカイブ化するにあたって、この連載の意義を再定義したいですね。
柳:いまのところ[守]卒門以上~かつイシスから少し離れた方々に、イシスで学んだ編集の型を、日常でどんな風に使っているのかを書いてもらっています。一部例外はありますが。
角:最近は新人記者発掘も兼ねています。
月:書き手にとっては編集術を再発見したり、イシスと再接続したり。あと大きいのは、編集術を学ぶとどう変わるのか、皆が編集術をどう使っているのか、実例を見てもらうことで未入門の人々への働きかけになるかなと。
角:未入門の人にこそ手渡したい記事ですよね。外の比重が大きい人に編集を言葉にしてもらっているから、親しみやすいんじゃないかな。
柳:あらためて目を通してみましたが、やはり面白いですね。僕はイシスで学んだことをコンサルティングの仕事に応用することが多いのですが、記事を通して「そういう編集の型の使い方があったか」、「日常の目線ではそういう意味になるのか」と、幅が広がる発見がありました。
月:自分と属性が近い人の体験談って、参考にしやすいですものね。
柳:一方で、まったく知らない人の体験談を読むのはけっこうハードルが高い。なので属性を軸にしてアーカイブ化することで、辞書のように一目で自分とのつながりが見えると良いですよね。
角:束ね直すことで意味が強まります。
月:というわけで、以下のように分類しました。【組織とわたし】【好きこそものの】【内なる稽古】【家族のなかで】【不足から始まる】の5つです。
柳:仕事、趣味、内省、家庭、探究。シンプルでわかりやすい切り口ですね。
月:いかようにも分類できてしまう難しさはありますが、分けるってかなり楽しかったです。
角:[守]の稽古も「わける/あつめる」から始まりますからね。分類とラベリングは編集の妙味です。ではお月さんの分類をベースに語り直すとしましょう。
▲この日集まったチーム渦の面々。常にうずうずしている。
■■社会の中で自分を置き直す
【組織とわたし】
01)ルル三条で挑んだ病院編集―石川英昭
08)企業アドバイザーの実装実験―斎藤肇
10)海運マンは〝おとづれ〟に耳を澄ます―神戸七郎
21)エストニアで見つけたたくさんのわたし―神保惠美
23)わたしのイシスクロニクル―姜舜伊
26)私はもうアンパンチを繰り出さない―松林昌平
28)宗教する・編集する―中島紀美江
月:まずは属性がぱっと分かり易いよう、平易かつ解釈に広がりがあるタイトルで分けました。
角:組織とわたし。お月さんの読みが入っていますね。分類に迷ったものはありますか?
月:はい。組織をどう捉えるかは広すぎますからね。敢えてそこを狙ったわけですけど。
柳:僕は松林昌平さんが気になりました。病棟医長である松林さんの中で、アンパンチが正義を振りかざす悪のパンチに読み替えられていたところが面白い。
角:文章を書くことによって自己理解が進みますからね、松林さんの変化が見えますね。
月:リクルートから編集工学研究所に転職した姜舜伊さんのクロニクルも読み応えがありました。
角:彼女は書きたいことが溢れていて、本当はエッセイの枠でおさめるのはもったいなかった。
月:現在エストニアで外交官を務めている神保惠美さんは、文章と構成がプロ並み。丸善から外交官へと至る顛末を《物語編集術》と《BPT》にかさねながら、最後に《オノマトペ》を利かせたのは印象的でした。これがあったことで、このエッセイは彼女のものになった気がします。
角:グラグラ、ヨロヨロ、プスッ。これが神保さんの《らしさ》を際立たせた。しかもBPTの《P:プロフィール》を揺らす感覚ってけっこう難しいのえすが、彼女はそこを引き取ってPをオノマトペにした。結果、自身の中でも置き直せたんだと思います。エストニアに来て良かったんだ、って。
月:まさにこの連載の隠れた醍醐味ですね。
▲松林さんのアイキャッチ。ご本人提供の写真を編集部でアイキャッチに作り替えているが、もしかしてこの骸骨は、「ホラーマン」?
◎アーカイブ
【Archive】ISIS wave コレクション #1-30
この続き(2回目)は、明日お届けします。
構成・文/羽根田月香
レイアウト/角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
自分の思考のクセを知り、表現の幅を広げる体験をー学校説明会レポート
「イシス編集学校は、テキストベースでやりとりをして学ぶオンラインスクールって聞いたけど、何をどう学べるのかよくわからない!」。そんな方にオススメしたいのは、気軽にオンラインで参加できる「学校説明会」です。 今回は、6 […]
松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。 さて皆 […]
コミュニケーションデザイン&コンサルティングを手がけるenkuu株式会社を2020年に立ち上げた北岡久乃さん。2024年秋、夫婦揃ってイシス編集学校の門を叩いた。北岡さんが編集稽古を経たあとに気づいたこととは? イシスの […]
目に見えない物の向こうに――仲田恭平のISIS wave #52
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 仲田恭平さんはある日、松岡正剛のYouTube動画を目にする。その偶然からイシス編集学校に入門した仲田さんは、稽古を楽しむにつれ、や […]
『知の編集工学』にいざなわれて――沖野和雄のISIS wave #51
毎日の仕事は、「見方」と「アプローチ」次第で、いかようにも変わる。そこに内在する方法に気づいたのが、沖野和雄さんだ。イシス編集学校での学びが、沖野さんを大きく変えたのだ。 イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変 […]
コメント
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2025-07-01
発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。
2025-06-30
エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。
2025-06-28
ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。