蛹の胸部にせっかくしつらえられた翅の「抜き型」を邪険にして、リボンのような小さな翅で生まれてくるクロスジフユエダシャクのメス。飛べない翅の内側には、きっと、思いもよらない「無用の用」が伏せられている。
「今の世の中に情報なんて溢れてませーん!」。バジラ高橋こと高橋秀元の声が本楼に響き渡る。
編集学校唯一のリアル講座である輪読座。今期は日本陽明学を確立した熊沢蕃山の『三輪物語』を輪読している。予備知識がなくても問題はない。バジラの図象解説で、陽明学とは何か、蕃山が中国で生まれた陽明学をどう編集して「日本陽明学」にしたのかを知ってから本に向かう。
陽明学の方法の一つ「立言」を説明しているとき、バジラは現代と陽明学を重ね合わせ声を荒げたのだった。

中国明時代の儒学者、王陽明が起こした陽明学には、三つの永久不滅なものとして「三不朽」の思想があり、「立徳、立功、立言」の三位一体からなっている。立言は有言実行と言い換えることもでき、実践を重視する陽明学では、世のために人々と共に行動するには、意見や提案を公表する「立言」が重要だとバジラは語る。「黙ってやっても自分の事くらいしかできないでしょ」と、言葉を発することがいかに大事なのかを繰り返す。
この日、バジラの体調は本調子ではなかった。高熱を出し寝込んでいたらしく、輪読座開催が危ぶまれていた。しかし、心配とは裏腹にバジラの声はいつにも増して力強かった。
近頃は、行動をするときに自分の言葉で発言することができない。そのためにコピー情報ばかりが幅を利かせているのだと、バジラは今日の社会がもつ根本に切り込む。現代への憤りが、風邪の熱を昇華させアツい想いへ転換した。
そして口にしたのが冒頭の発言だ。
蕃山の日本陽明学のベースとして、「三不朽」に「致良知説」と「知行合一」を加えたもう一つの三位一体が展開される。反乱と不満のアイダにいる「人」に対して働きかける陽明学の考えこそ現代の問題に不可欠だと、今期蕃山を取り上げた意義を語った。図象解説はその後もトコトン続き、解説だけで3時間を費やした。
輪読座は、単に古典を輪読するだけではない。『遊』創設期から松岡正剛校長の片腕でもあったバジラの「日本という方法」を交えて本と相対することができるのだ。コピペやプラスチック・ワードだらけの社会問題に対し、本や歴史を通して考えることができるのだ。そしてバジラが語る。「この輪読座自体がちょっとした陽明学の場だね」。
さあ、今こそ社会や日本を歴史を通して考えてみてはいかがだろうか。
衣笠純子
編集的先達:モーリス・ラヴェル。劇団四季元団員で何を歌ってもミュージカルになる特技の持ち主。折れない編集メンタルと無尽蔵の編集体力、編集工学への使命感の三位一体を備える。オリエンタルな魅力で、なぜかイタリア人に愛される、らしい。
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岡田敦『ユルリ島の馬』(青幻舎)