『キャラ者』は、”マンガ家”だった頃の江口寿史の、(まとまった作品としては)ほぼ最後の仕事。恐るべきクオリティの高さで、この才能が封印されてしまったのはもったいない。
「来年こそはマンガ家に戻ります!」と言ったのは、2016年の本の帯(『江口寿史KING OF POP SideB』)。そろそろ「来年」が来てもいいだろう。

「今の世の中に情報なんて溢れてませーん!」。バジラ高橋こと高橋秀元の声が本楼に響き渡る。
編集学校唯一のリアル講座である輪読座。今期は日本陽明学を確立した熊沢蕃山の『三輪物語』を輪読している。予備知識がなくても問題はない。バジラの図象解説で、陽明学とは何か、蕃山が中国で生まれた陽明学をどう編集して「日本陽明学」にしたのかを知ってから本に向かう。
陽明学の方法の一つ「立言」を説明しているとき、バジラは現代と陽明学を重ね合わせ声を荒げたのだった。
中国明時代の儒学者、王陽明が起こした陽明学には、三つの永久不滅なものとして「三不朽」の思想があり、「立徳、立功、立言」の三位一体からなっている。立言は有言実行と言い換えることもでき、実践を重視する陽明学では、世のために人々と共に行動するには、意見や提案を公表する「立言」が重要だとバジラは語る。「黙ってやっても自分の事くらいしかできないでしょ」と、言葉を発することがいかに大事なのかを繰り返す。
この日、バジラの体調は本調子ではなかった。高熱を出し寝込んでいたらしく、輪読座開催が危ぶまれていた。しかし、心配とは裏腹にバジラの声はいつにも増して力強かった。
近頃は、行動をするときに自分の言葉で発言することができない。そのためにコピー情報ばかりが幅を利かせているのだと、バジラは今日の社会がもつ根本に切り込む。現代への憤りが、風邪の熱を昇華させアツい想いへ転換した。
そして口にしたのが冒頭の発言だ。
蕃山の日本陽明学のベースとして、「三不朽」に「致良知説」と「知行合一」を加えたもう一つの三位一体が展開される。反乱と不満のアイダにいる「人」に対して働きかける陽明学の考えこそ現代の問題に不可欠だと、今期蕃山を取り上げた意義を語った。図象解説はその後もトコトン続き、解説だけで3時間を費やした。
輪読座は、単に古典を輪読するだけではない。『遊』創設期から松岡正剛校長の片腕でもあったバジラの「日本という方法」を交えて本と相対することができるのだ。コピペやプラスチック・ワードだらけの社会問題に対し、本や歴史を通して考えることができるのだ。そしてバジラが語る。「この輪読座自体がちょっとした陽明学の場だね」。
さあ、今こそ社会や日本を歴史を通して考えてみてはいかがだろうか。
衣笠純子
編集的先達:モーリス・ラヴェル。劇団四季元団員で何を歌ってもミュージカルになる特技の持ち主。折れない編集メンタルと無尽蔵の編集体力、編集工学への使命感の三位一体を備える。オリエンタルな魅力で、なぜかイタリア人に愛される、らしい。
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コメント
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「来年こそはマンガ家に戻ります!」と言ったのは、2016年の本の帯(『江口寿史KING OF POP SideB』)。そろそろ「来年」が来てもいいだろう。
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