リスクも不確実性も見たくない。だから、小さく分解し、分散する。では、見えなくなったらなくなるのか。
新NISAの導入以来、賑やかな個人向け投資の世界では、卵を一つの籠に入れず、時間と空間でリスクを分散させることが推奨されている。ビジネスの世界も同じだ。不確実性をとことん嫌い、短中長期の計画を立て、予実管理は微細を極める。コンプライアンスにデューデリジェンス、リスク分散の方法も百花繚乱だ。
10月5日、第1回創守座「教室編集のイメージとマネージ」で、54[守]師範の奥本英宏(アイキャッチ写真)は編集学校の教室は生物の有機的な活動の場だと喝破した。この見立ては伝習座ニュースタイルでの津田一郎氏の講義ともつながる。「生命は相互作用しながら、世界を記述していく」ものだとしたら、師範代は教室をカオスとして見ていかねばならない。
びっしりと書き込まれた教室カレンダーを手に交し合う54[守]師範代たち。それぞれの見方がまぜこぜになることでカオスが生じ、開講後のイメージが光速に動き始めた。
カオスとリスクを可能な限り捨象するビジネスの世界の組織で過ごしてきた師範代にとって、複雑系を志向し、取り込もうとする組織のマネージは未経験だ。そこで、コーナーを担当する奥本と福澤美穂子は、師範代に事前お題を課した。15週間の教室カレンダーをベースにし、フライヤー作成で描き出した教室像をターゲットとする。その上で教室に外部情報をもたらす勧学会や別院というツールを取り込んだシナリオを作らせた。
事前課題でみっちりとイメージを広げさせたところで、奥本のレクチャーでぐるりと見方を変え、一気呵成にワークへと持ち込む。用意が尽くされているからこそ、師範代同士の対話が過熱した。奥本と福澤によるコーナーの仕立てそのものが、師範代に外部性を取り込ませ、教室をカオスで見るための骨法をつかませる仕掛けだった。
対話の果実を引き取りつつ、福澤は教室運営に別バージョンのシナリオを持つことの必要性を訴えた。教室は生きものだからこそ、事件も停滞も起きる。必要なのは想定外や予想外を編集し、シナリオを動的に書き換えていくことだ。自らの失態も失敗も見せ方次第ではキャラクターを突出させる縁になる。生身の人間が生み出す凸凹こそ、生成AIが生み出せないチャームだ。うまくいっている場合も例外ではない。教室をいきいきとさせるべく、果敢にリスクを取れと、福澤は発破をかけた。不確実性は有機体としての組織を活性化させる種でもある。
師範代の発表を受けとめ、しなやかにやわらかく檄を飛ばす54[守]福澤美穂子師範。
54[守]が開講し、師範代たちが意を尽くして設えた教室に学衆の声が届き始めた。回答という不確実性が取り込まれ、指南と絡まりあって複雑性を増していく。師範代がリスクを恐れずに踏み出す一歩が教室に命の息吹をもたらす。54[守]の20教室が描き始めたそれぞれのカオス曲線から目が離せない。
文/佐藤健太郎(54[守]師範)
写真/阿久津健(54[守]師範)・佐藤健太郎(54[守]師範)
◆イシス編集学校 第54期[守]◆(※まだ若干名の残席あり)
稽古期間:2024年10月28日(月)~2025年2月9日(日)
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu
佐藤健太郎
編集的先達:エリック・ホッファー。キャリアコンサルタントかつ観光系専門学校の講師。文系だがザンビアで理科を教えた経歴の持ち主で、毎日カレーを食べたいという偏食家。堀田幸義師範とは名コンビと言われ、趣味のマラソンをテーマに編集ワークを開催した。通称は「サトケン」。
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