日常にひそむ物語の入り口 ─【破講座】エディットツアー

2024/03/15(金)18:00
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物語はたったひとつのシーンから生まれる。歴史も映画も噂話も、いくつものシーンを折り重ねた層のようなものでできている。

 

わたしたちは、日々流れてくる災害や紛争の映像から、遠方で起きている惨状を思い描く。こうなってしまった原因を歴史のなかに探したり、何もできない自分に罪悪感めいたものを感じたりしながら、どこまでいっても「当事者以外の他者」であることに愕然としたりもする。

 

自分以外の何者かになってみたい。わからない世界をわかりたい。[破]の稽古を体験した者なら、【物語編集術】にその方法が潜んでいることを知っているはずだ。

 

 

仮想が現実に問いかける

 

立春という節目をすぎた2月14日、イシス編集学校[破]の指導陣によるエディットツアーが開催された。

 

[破]のカリキュラムのひとつである【物語編集術】の方法を使って、参加者に「物語が始まる瞬間」を自ら生み出してもらおうという試みだ。

 

原田淳子学匠は千夜千冊『息吹』(テッド・チャン)をひいて、「ファンタジーは現実の世界に問いを投じる方法だ」と訴えた。

 

SFはありえない世界をありえるように仮説して語られる。ありえそうもない物語は、経済の常識や倫理的な問題を、現実の世界に生きるわたしたちに突きつける。

[破]学匠 原田淳子

 

物語という方法をつかえば、いまいる社会の見え方が変わってくるかもしれない。

 

バレンタインデーでもあるこの日、卒門を終えたばかりの52[守]学衆に用意されたプレゼントは、世界に新たな問いをたてるための物語編集という方法だった。

 

 

物語の種となる日常の「破れ目」


作家の村上春樹氏は、キーとなるセンテンスを生み出し、その一行に導かれるようにして物語を描くのだという。

 

村上春樹著『神の子どもたちはみな踊る』「かえるくん、地球を救う」を引用

 

 

日常を破る一行は、どのようにして生まれるのか。

 

村上氏は、疑問に思うような出来事や、うまく説明がつかないような事象を集積し記録しておくのだという。

 

イマジネーションというのはまさに、脈絡を欠いた断片的な記憶のコンビネーションのことなのです。(略)「有効に組み合わされた脈絡のない記憶」は、それ自体の直感を持ち、予見性を持つようになります。そしてそれこそが正しい物語の動力となるべきものです。

 

村上春樹『職業としての小説家』より

 

昨夜みた夢のように、脈絡のない記憶の連鎖のなかに「ありえそうな」関係が浮かび上がってくる。物語の始まりとなる一行は、記憶の断片の組み合わせによって生みだすことができる。

 

古代の人々は、みたことのない現象に遭遇すると「神様が隠れた」「天の支柱が壊れた」と考えた。人間は、ありえそうもないことに戸惑いながらも推論し、仮の前提を見いだし新たな脈絡をつくる。

 

見たことのない世界を理解するためには、新しい物語を創造する必要があったのだ。

 

「異質」や「違和」は日常に潜んでいる世界の裂け目です。日常が揺らぐような「兆し」から物語が動き出します。

番匠 野嶋真帆 

 

 

物語の「兆し」を生み出す

 

エディットツアーの参加者たちは、ワークをとおして物語の「兆し」となるシーンを次々と生み出した。

 

【お題】物語の兆しとなる「ありえそうもない」出来事から、「ありえる」シーンを描いていみよう。それぞれWHY(どういうことか)、THEN(どうなるのか)を記すこと。制限時間は3分。

 

 

【参加者IH】夢の中で行った公園に行くと、自転車の籠に花束が入っていた。それは、夢の中で一緒に遊んだ彼からの贈り物だった。


【野嶋番匠】メッセージ性をもった花束を、夢と現実をつなげるアイテムとして活用し、夢かウツツかわからないようなシーンを創出した。

 

 

 

【参加者KJ】忘れ物を届けたら、それはお前のだろうと言われた。なぜか。届けた忘れ物は「自転車」で、私がイエロージャージを着ていたからだった。

※イエロージャージはツールドフランスでトップを走る選手が着用するもの。

 

【野嶋番匠】ツールドフランスのルールを土台にひとつのシーンを生み出した。イエロージャージが超部分となってその世界観を表している。

 

 

 

 
あなたの脳裏には、いま、どんな記憶の断片が浮かんでいるだろうか。筋立てするよりも先に、その断片を気ままに組み合わせて配置してみるといい。思いもよらない物語が動き出すかもしれない。
 

最後に、ひとりの参加者が、デヴィッド・フォスター・ウォレスの著書『これは水です』を取り上げてこう語った。

 

自分たちはインターネットの海のなかにいながら、インターネットがなにか語れずにいる。インターネットのなかを泳いでいる魚のようだ。

【参加者KT】

 

日常のなかにある違和感や揺らぎを探してみよう。そこから別の物語を描くことができれば、いまいる海の外へ出られるかもしれない。

 

わからない世界をわかりたいなら、まずは3月20日のワークショップに足を踏み入れることをお勧めする。春分という特別な節目となるこの日に、[破]の世界を覗きに来てほしい。

 

 

[破]の編集術の一端を体験できるワークショップ

【カクカタル・伝える力の磨き方】
■日時:2024年3月20日(水・祝)14:00-16:00

■費用:1,650円(税込)
■会場:リアル(本楼)
■定員:先着20名
■対象:どなたでも参加できます

■お申込み:<破>エディットツアー2024年3月20日

 

 

[破]応用コース申し込み受付中!

https://es.isis.ne.jp/course/ha

※クレジットカードがご利用になれます。
※学割制度、再受講割引制度があります。
※毎期20名限定、23歳以下の学生の方は受講料が半額になる『U23』割引があります。(先着順)

 


  • 阿部幸織

    編集的先達:細馬宏通。会社ではちゃんとしすぎと評される労働組合のリーダー。ネットワークを活かし組織のためのエディットツアー も師範として初開催。一方、小学校のころから漫画執筆に没頭し、今でもコマのカケアミを眺めたり、感門のメッセージでは鈴を鳴らしてみたり、不思議な一面もある。