僕が編集学校の門をくぐったのは、2005年2月のこと。第11期は輪読座のバジラ高橋さんと物語講座の赤羽卓美綴師が師範代をされた期です。いま思うとスゴいのですが、当時は何が何だかよくわからないまま受けていました。もちろん破には木村学匠がいらっしゃって、吉野冊師にも大音冊匠にも、感門之盟などの場で早々にお目にかかっていたはずです。
そこから遡ること2年。2003年の千夜千冊は、0690夜アルチュール・ランボオ『イリュミナシオン』で始まり、0913夜ダンテ・アリギエーリ『神曲』で終わります。その間には、ソンタグ、野口雨情、ジョセフ・キャンベル、アウグスティヌス、空海、西行、ガルシア・マルケス、マルクス、ファノン、ヴィトゲンシュタイン、陶淵明、稲垣足穂、モンテーニュ、フロイト、土門拳、ベンヤミン…などなどなどの本があります。この頃の校長の仕事ぶりは鬼神のよう。いったいどうやったらこれほどのものが書けるのでしょうか。
そんな重厚なリストの中から、2003年を語る一冊として取り上げるのは、少々地味かもしれませんが、0719夜のこれです。
━━━━━━━━━━━━━━━━
ローレンス・レッシグ『コモンズ』
━━━━━━━━━━━━━━━━
これにしようと思った直接のきっかけは、数日前のこの記事でした。最後にレッシグの名前が出てきます。
https://www.businessinsider.jp/post-214220
少々プライベートな話をすると、僕は2000年からリクルートで働き始め、当時はひたすら求人広告を作っていました。その現場では、2003年頃に紙からWebへの切り替わりが急速に進みました。たとえば、2003年に『テックビーイング』という技術者向け求人広告誌が休刊しました。今じゃ信じられないかもしれませんが、それまではITエンジニアの中途採用ですら、紙媒体が幅を利かせていたのです。日本ではアマゾンや楽天を筆頭にECが普及しだした時期で、フェイスブックはまだ生まれてもいません(2004年誕生)。
レッシグが、コードやアーキテクチャでネット上の行動をコントロールする必要性を訴えた『CODE』や、ネット上に自由を確保する方法「コモンズ(共有地)」を打ち出した『コモンズ』を立て続けに出したのはその頃でした。早いですね~。『CODE』は原著が1999年で翻訳が2001年、『コモンズ』は原著が2001年で翻訳が2002年ですから、山形浩生さんの仕事の速さも素晴らしい。そして、松岡校長が2003年に千夜に取り上げられたのも、時代をかなり先取りしていました。
だって、荻上チキさんが数日前に『CODE』を取り上げ、法改正だけに止まらない議論が必要だと語っているのですから。ある面で、僕らは20年経ってようやく本格的にレッシグに向き合うことになったんだと思います。2003年には、それが将来の問題や可能性になることが、校長やレッシグにははっきり見えていたのですね。
(もっといえば、校長は1998年の『ボランタリー経済の誕生』で早くもネット上のコモンズの可能性に触れています。)
コードやアーキテクチャの問題はとても難しいと思います。荻上さんたちの取り組みは当然だと思う一方で、こういう仕組みが監視社会を強化したり、新たな社会問題を起こしたりする可能性も大きいですから。とはいえ、ネット空間のコードやアーキテクチャを詰めていくことはもう避けられないでしょう。
一方で、イシス編集学校がインターネット上に独自の「コモンズ」を築き上げてきたことを忘れちゃいけませんよね。20周年おめでとうございます。これからもよろしくお願いします。
次は、現在の僕の冊師・まつみち冊師のご登場です~。
米川青馬
編集的先達:フランツ・カフカ。ふだんはライター。号は云亭(うんてい)。趣味は観劇。最近は劇場だけでなく 区民農園にも通う。好物は納豆とスイーツ。道産子なので雪の日に傘はささない。
♪♪♪今日の舞台♪♪♪ 踊り部 田中泯 「外は、良寛。」 田中泯さんの踊りには、「いまここの生」を感じました。松岡正剛さんの『外は、良寛。』(講談社文芸文庫)のフラジリティには撃たれ、杉本博司さんの設えに […]
庵主・田中優子が「アワセとムスビ」で歴史を展く【間庵/講1速報】
2022年7月24日、「間庵」が開座した。庵主は、江戸文化研究家であり、松岡の盟友でもある田中優子さんだ。間庵は田中庵主が中心となり、リアル参加者の「間衆」とともに松岡正剛座長の「方法日本」を解読、継承、実践し、編集工 […]
【AIDA】リアルが持っている代替不可能な感覚情報がAIDAで鮮明になった<武邑光裕さんインタビュー>
メディア美学者・武邑光裕さんは、1980年代よりメディア論を講じ、インターネットやVRの黎明期、現代のソーシャルメディアからAIにいたるまでデジタル社会環境を長く研究する専門家だ。ドイツ・ベルリンを中心としたヨーロッパ […]
【AIDA】AIDAでは抽象度の高い議論と身の回りの話が無理なくつながる<村井純さんインタビュ―>
村井純さんは「日本のインターネットの父」である。村井さんが慶應義塾大学/東京工業大学間でコンピュータをネットワークでつなげたのが、日本のインターネットの誕生と言われている。その後も、黎明期からインターネットの技術基盤づ […]
「学校教育ができないことばかり実現している学校ですね」田中優子先生のエール!【78感門】
皆さん、まことにおめでとうございます。今日は、法政大学総長時代に卒業式で着ていた着物でまいりました。 2日目の冒頭は、田中優子先生の挨拶で始まった。優子先生は守・破・離をコンプリートし、今回は物語講座1 […]