中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
                                                                                
        
        
        
                        
                イシス編集学校に現れたマレビト、武邑光裕氏が送る特別講義。「インタースコア力」と、「ミメロギア特別賞」のEdistに続き、本Edistでは、その講義の様子をお伝えする。
武邑氏は、講義の導入に、社会科学者のアーノルド・ミッチェルが提唱したVALS(Values, Attitudes, and Lifestyles)分析を取り上げた。この分析は、ライフスタイルを外部指向型と内部指向型と、その両者の感受性を統合した統合型の3つに分け、そこからさらに細分類していく。人々の社会活動を予測することができる革新的な分析方法だった。
この日、本楼で参加した8割の人が、統合型と自己分析したことに、武邑氏は嬉しそうに頷いた。この統合型の人(以下、統合者)は、自分の核となる価値観を育み、流行に飛びつかず、物事を多面的に見る。アーノルドは、この「みんな」とは別のものを選ぶライフスタイルが、社会の中で決定的な役割を果たすと評した。武邑氏も、この統合者に注目していたのだ。
イラスト:VALS分析 外部指向型と内部指向型と統合型
1983年の調査時、人口の2%とされた統合者は、現代では主流となり、その活動に人やお金が集まってきている。たとえばApple社やNikeのCMを見てほしい。前者は「Think Different」、後者は「Just Do It」と広告し、独自の視点を誇る統合者に向けた宣伝が強調されている。また、ドイツ発のカルチャーマガジン『032c』は、独特のモードで築いた雑誌スタイルを元に、雑誌社としては異例のアパレルブランドを立ち上げた。自己表現を追求するイベントである、アメリカ、ネバダ州で行われるバーニングマンには、世界中から8万人を越える人が集まる。
武邑氏は、こうした新たな文化の表出を、ルネッサンス3.0に向かう兆候として見る。この文化の特徴は、オリジナルからの「小さな変更」だ。16世紀のイタリアで起こったルネッサンス2.0も、表現が出尽くし停滞していた様式に、変化を加えることで開花した。この模倣からの編集は「マニエリスム」と呼ばれ、ほんの少ししか変わらない「マンネリズム」の語源として揶揄もされたが、これこそが世界編集の兆しだった
ファッションデザイナーでDjのヴァージル・アブローは模倣からの「小さな変更」、すなわちマニエリスムを「革新的と見なされる文化的貢献を生み出す」方法として打ち出した。そこに必要な変化は、たった3%でよいと見抜いた。この目盛りがとても小さかったため、コピーを作っていると批判する声もあった。しかしアブローは一見無関係な組み合わせによって、最終結果に大きな効果を生む3%の編集をし続けた。それはたとえば、元の音楽を変えるDjのリミックスや、アブローがデザインしたIKEAのストッパー付きのイスとしてあらわれる。
現代は、ネットを介していつでも、どこでも、誰とでもつながる事ができる「Big Flat Now」だ。 だからこそ、今まで到底組み合わせ得なかったもの同士が出会い、3%の変更が革新的となる。それを生み出してきたのが『032c』やアブローのイスだ。
イシスの[守]コースでも、1人の師範代と10人程度の学衆からなる教室が、ネット上のBig Flat Nowで繋がる。そこでは、学衆がお題に回答し、師範代が指南を返す、という応答を繰り返す。回答は一人で頭を捻るだけでなく、他学衆の回答や指南を共読し、模倣を起点とすることが推奨される。そして模倣に「小さな変更」をかけることで、今までにない回答が次々と生まれる。
それを存分に活かしたのが番選ボードレール「即答・ミメロギア」だ。1人で数百の回答を生む者が何人も現れる。個々人が独自の表現を尽くす教室は、さながらネット上のバーニングマンだ。統合者が8割のイシスでは、マニエリスム根付き、すでにルネッサンス3.0を顕在化させている。
文/遠藤健史(52[守]師範)
イラスト/阿久津健(52[守]師範)
写真/後藤由加里
                            
イシス編集学校 [守]チーム
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かなりドキッとした。「やっぱり会社にいると結構つまんない。お給料をもらうから行っておこうかなといううちに、だんだんだんだん会社に侵されるからつらい」。数年前のイシス編集学校、松岡正剛校長の言葉をいまもはっきりとはっきり […]
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週刊キンダイvol.018 〜編集という大海に、糸を垂らして~
海に舟を出すこと。それは「週刊キンダイ」を始めたときの心持ちと重なる。釣れるかどうかはわからない。だが、竿を握り、ただ糸を落とす。その一投がすべてを変える。 全ては、この一言から始まった。 […]
55[守]で初めて師範を務めた内村放と青井隼人。2人の編集道に[守]学匠の鈴木康代と番匠・阿曽祐子が迫る連載「師範 The談」の最終回はイシスの今後へと話題は広がった。[離]への挑戦や学びを止めない姿勢。さらに話題は松 […]
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2025-10-29
                                                                                中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
2025-10-28
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2025-10-20
                                                                                先人の見立て力にひれ伏すしかないと思って来た「墨流し」。戯れに、Chatさんに「蝶のスミナガシを別の見立てで改名するにはどんな名前がいいですか?」と尋ねてみて、瞬時に現れた名答に打ち拉がれております。