昔ながらの街並みを残す北国街道からBIWAKO PICNIC BASEの看板を見つけて暖簾をくぐると、思いのほか広い空間があらわれる。高い天井に梁が巡り、奥には中庭がある。2024年9月7日(土)15名ほどが、この場に集った。共通するのは、滋賀に浅からぬ縁があることだ。
●既知の近江から未知の近江へ
子どもの姿をよく見かける/山のある景色が落ち着く/歴史を分けた土地がたくさんある、、、。
「みなさんの好きな近江を幾つでも出して」とナビゲーターの米田奈穂が促すと、最初こそ逡巡していたものの、徐々に手元の白紙が埋まっていく。他者が出した滋賀に、一同が「それそれ」と頷き、白紙がさらに埋まっていく。
「滋賀本からも、近江っぽいさを集めてみよう」と米田がさらに促す。この日のために、BIWAKO PICNIC BASEの主、竹村光雄とナビの2名が集めた滋賀関連本は優に50冊を超えた。思い思いに本を選んだ面々が、一心に本から言葉を選びだす。「そうそう、シャギリの音!」と幼かった頃の思い出を呼び覚ます者がいる。傍らでは、建部大社や安土城などの歴史建築に、湖北ならではの小鮎にと、ペンを走らせる手が止まらない。
●異物と対話から新たな近江へ
白紙が言葉で埋まったところで、新たなお題の出題だ。グループに分かれて滋賀のキャッチフレーズを考えよという。ナビゲータの阿曽祐子から段取りが指定される。1)グループメンバー全員の書き出した言葉からお気に入りの近江を2つ選ぶ。2)ナビが用意したオブジェを1つ選ぶ。3)3つの情報からキャッチフレーズをつくる。与えられた時間は僅か10分だ。
お面型のマグネット、川で拾った植木鉢、新幹線シートのミニチュア、、、書き出されたたくさんの言葉と近江とは何の縁もなさそうなオブジェを前に、それまでの5倍速の対話が繰り広げられ、キャッチフレーズが生み出された。
「芸能と神々の砦、近江」
「自然と文化で創りだす賑やかな近江」
「光と神輿の一期一会」
イシス編集学校では、情報編集のプロセスを「情報収集→情報の関係づけ→情報の構造化→情報の表現」4段階で捉える。今回、一同で近江というテーマのもと、この4段階の情報編集プロセスを体験した。そこにスパイスのように添えられたのが、オブジェという異物だ。ありきたりな言葉から脱するためには、ときにナンセンスともいえる異物の投入が有効にはたらくからである。「オブジェを入れ込むのに最後まで苦労した」と嘆くどの顔にも、作品を形にした嬉しさが滲む。場の温度の高まりとオブジェが果たした隠し味の効能を確認したナビの2名がニンマリと笑う。と、そのとき、参加者に混じっていた福家俊孝が「この4段階のステップを疎かにするといいモノができない」と呟いた。
●茶入れに潜む情報編集
近江ARSメンバーでもある三井寺執事の福家俊孝は、この日、もてなし担当として、三井寺茶を携えて場に駆けつけた。まずは、到着した参加者たちに大きめの茶器にいれた冷たい白茶でもてなす。やわらかい味と暑さを沈める効能は、残暑の厳しい天候にぴったりだ。ワークの合間には、中庭で烏龍茶の茶入れを実演した。茶器ひと揃いと三井寺の井戸水を持ち込み、茶菓にあわせて発酵度の低い烏龍茶を選んだ。茶葉にお湯を注いで蒸らす間には、600年の時間を経て今に味を届ける三井寺の茶木の来し方と加工方法を解説。語りを終える頃には、程よい温度になった烏龍茶が香り立ち、小さな茶器に注がれた。叶 匠寿庵の和菓子「標野」の梅味とちょうどよいハーモニーをなした。
福家の一連のデモンストレーションにも、情報編集の4段階のプロセスが潜んでいたことに参加者がハッと気づく。滋賀も、日常の活動も、どのようなものにも、このプロセスが動いている。そこに分け入れば、いくらだって世界と出会いなおすことができる。
(写真:對馬佳菜子、文:阿曽祐子)
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申込締切:2024年10月13日(日)
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