43[花]迷いから確信へ、師範代の扉を拓く

2025/07/31(木)17:56
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 8週間で式目を終える密なる花伝所。43[花]の入伝生は、編集を加速させ、最後の図解ワークの課題まで走り抜けた。外部の情報を取り込み、世界の見方を変え自己へも編集をかけてきた彼らはいま、この先に続く編集道を前に悩み、立ちすくんでいる。

 

 図解ワークとは、『千夜千冊エディション 少年の憂鬱』(角川ソフィア文庫)を読み解き、A4ペーパー1枚に図解するという課題である。テキストで進めてきたこれまでの編集稽古や指南とは違いイメージをビジュアル化していく。このイメージメントという編集は、時間と空間、著者と松岡校長、幼き頃の自分と現在の自分、いくつもの存在と対象のあいだで、エディティング・モデルの交換を誘発する。

 

 43[花]で選ばれた課題本は、表紙からしてチグハグで、未熟だった幼い頃のわたしたちを思い出させる。誰もが経験した少年少女時代。「小さなもの」がどうしても気になって意味を与えてみたくなる感情、「かわいそう」や「ふしあわせ」から目が離せないと思える気持ち、どれもたくさんのわたしに通じる“幼な心”である。ここに登場するのは、そうした宝箱にある数奇なモノと暗い色合いが匂わせる寂しさの数々である。それらは、入伝生の迷いと確信の“さしかかり”と重なっていた。提出された図解には、そうした痕跡が残されている。

 

 わかくさ道場のN.Cは、「少年少女の場合は、超部分の〈ある〉が〈ない〉まで覆ってしまうようだ。テクマクマヤコンのコンパクトがあれば、だれだってアッコちゃんに変身できた」と語る。オトナの鎧をするりと洗い流して、次なる編集の道へと走り出す。くれない道場のY.Aは、読中「大人になってしまった私たちがもう一度、その感覚を取り戻す道があるのか」と自問する。その彼女は図解を通じて“幼な心”が自ら光を放っていること、母の微笑みや読書の存在が成長しても変わらぬ“私の原点”であったことに気づく。そして、世界との接続を図り出すのだ。

 

 図解ワークで孤独に遊び、妄想に耽った入伝生も、いよいよ次のステージへ踏み出すときがきている。泣き顔を見られたくなかった少女、しろがね道場のS.Yは涙を拭いてむくっと起き上がる。そして、内側に抱えたフラジリティの花火玉を打ち上げて、新たな編集道への決意表明とも言える火花を散らしたのである。

 

アイキャッチ/大濱朋子(43[花]花伝師範)

文/新坂彩子(43[花]錬成師範)


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