中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
 
                                                                                 
        
        
         
                         
                8週間で式目を終える密なる花伝所。43[花]の入伝生は、編集を加速させ、最後の図解ワークの課題まで走り抜けた。外部の情報を取り込み、世界の見方を変え自己へも編集をかけてきた彼らはいま、この先に続く編集道を前に悩み、立ちすくんでいる。
図解ワークとは、『千夜千冊エディション 少年の憂鬱』(角川ソフィア文庫)を読み解き、A4ペーパー1枚に図解するという課題である。テキストで進めてきたこれまでの編集稽古や指南とは違いイメージをビジュアル化していく。このイメージメントという編集は、時間と空間、著者と松岡校長、幼き頃の自分と現在の自分、いくつもの存在と対象のあいだで、エディティング・モデルの交換を誘発する。
43[花]で選ばれた課題本は、表紙からしてチグハグで、未熟だった幼い頃のわたしたちを思い出させる。誰もが経験した少年少女時代。「小さなもの」がどうしても気になって意味を与えてみたくなる感情、「かわいそう」や「ふしあわせ」から目が離せないと思える気持ち、どれもたくさんのわたしに通じる“幼な心”である。ここに登場するのは、そうした宝箱にある数奇なモノと暗い色合いが匂わせる寂しさの数々である。それらは、入伝生の迷いと確信の“さしかかり”と重なっていた。提出された図解には、そうした痕跡が残されている。
わかくさ道場のN.Cは、「少年少女の場合は、超部分の〈ある〉が〈ない〉まで覆ってしまうようだ。テクマクマヤコンのコンパクトがあれば、だれだってアッコちゃんに変身できた」と語る。オトナの鎧をするりと洗い流して、次なる編集の道へと走り出す。くれない道場のY.Aは、読中「大人になってしまった私たちがもう一度、その感覚を取り戻す道があるのか」と自問する。その彼女は図解を通じて“幼な心”が自ら光を放っていること、母の微笑みや読書の存在が成長しても変わらぬ“私の原点”であったことに気づく。そして、世界との接続を図り出すのだ。
図解ワークで孤独に遊び、妄想に耽った入伝生も、いよいよ次のステージへ踏み出すときがきている。泣き顔を見られたくなかった少女、しろがね道場のS.Yは涙を拭いてむくっと起き上がる。そして、内側に抱えたフラジリティの花火玉を打ち上げて、新たな編集道への決意表明とも言える火花を散らしたのである。
アイキャッチ/大濱朋子(43[花]花伝師範)
文/新坂彩子(43[花]錬成師範)
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イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
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松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を数名で分割し、それぞれで読み解くシリーズです。今回は、9月に行われ […]
3000を超える記事の中から、イシス編集学校の目利きである当期の師範が「宝物」を発掘し、みなさんにお届けする過去記事レビュー。今回は、編集学校の根幹をなす方法「アナロジー」で発掘! この秋[離]に進む、4人の花伝錬成師 […]
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2025-10-29
 
                                                                                中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
2025-10-28
 
                                                                                松を食べ荒らす上に有毒なので徹底的に嫌われているマツカレハ。実は主に古い葉を食べ、地表に落とす糞が木の栄養になっている。「人間」にとっての大害虫も「地球」という舞台の上では愛おしい働き者に他ならない。
2025-10-20
 
                                                                                先人の見立て力にひれ伏すしかないと思って来た「墨流し」。戯れに、Chatさんに「蝶のスミナガシを別の見立てで改名するにはどんな名前がいいですか?」と尋ねてみて、瞬時に現れた名答に打ち拉がれております。