位置について、カマエ用意─43[花]ガイダンス

2025/04/29(火)08:00
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使いなれぬスターティングブロックに足を置き、ピストルが鳴る時を待つ。入伝式の3週間前である2025年4月20日に開催された、43期花伝所のガイダンス。開始5分前の点呼に、全員がぴたりとそろった。彼らを所長、花目付、師範たちが笑顔でむかえる。このガイダンスは、単なる説明会ではない。いきなり2名の花伝師範が、式目や演習の深層にある秘伝を講義する。その語りに揺さぶられながら、位置についた入伝生はカマエの体制になっていく。


■走路を見据える:式目を読み解く古谷奈々
花伝所における学びの過程は、Model、Mode、Metric、Making、Managementという5つのフェーズがある。

 

 

5Mと称するこの花伝式目について、花伝師範・古谷奈々が深掘りする。

M1は指南と演習リズムというフレームをつかみ、M2は回答からつかんだ見方を動かし、再解釈し、指南の言葉にしていく。M3はたくさんの意味と可能性を感じながら、指南構想を練り、M4では教室さながらの実践をする。M5は指南という方法だけではない、相互編集の場を編集対象ととらえる。
式目は道具である。初めてハサミを使った時、うまく切れなかったように、最初からわかるものではない。何度も持ちかえることで、力加減が分かってくる。フェーズを重ねていくうちに、使いにくさや分かりにくさを感じるかもしれない。そんな時は、止まるのではなく、自らを動かして向かい合ってみる。知らない、分からない、が自分を変容させる契機となるのだ。


■走行方法を変える:フィードバックという編集方法を示す岩野範昭

演習では、フィードバックが重視される。しかし、世の中のフィードバックと、編集学校におけるフィードバックは似て非なるものである。この違いを示すため、花伝師範・岩野範昭は、中村哲氏の活動を持ち出した。
中村氏は、1984年に医師としてパキスタンに赴任し、ハンセン病の治療に携わっていた。2000年にアフガニスタンが大干ばつに襲われると、活動内容を変えた。空腹を満たすため、汚い水を飲み、感染症にかかり死亡する子供。荒れ果てた故郷を捨てなければいけなかった難民。その姿を目にし、井戸を掘った。そして、荒廃した農地をよみがえらせるため、用水路の建設にのりだした。中村氏にあったのは、「アフガン民衆を救う」というターゲットである。彼らが陥っている状況の原因と解決方法を問答した結果が、医師から土地技師へのフォームチェンジだった。

 

 

▲中村哲氏は、自身の属性を増やしながらターゲットへ向かう

 

フィードバックによって、自身の情報を再編集する。そこには、ターゲットを目指す意志と、徹底的に向き合うZESTと、進む過程で内発する問いの存在がある。分からないもの、モヤモヤするものを拒絶するのではない。わたしとまわりのあいだに“縁側”をもうけ、そこに“仮置き”し、いったりきたりしながら進んでいく。

 


ガイダンス終了後にオープンしたラウンジには、入伝生からの振り返りが次々と届いている。自分の「世界の見方」「世界との関わり方」を転換するキッカケにしたい。自分がどんな方法を使っているのか、皆がどんな方法を使っているのか。もっと深掘りできる。決意表明する者。他者の方法を取り出す者。同志に刺激をうけ、自身の見方を更新する者。言葉が重なっていく。
陸上短距離選手は0.01秒を削りだすために、あらゆる可能性をためす。スタート方法の見返しもその一つだ。足幅、角度、腰の位置。どうスターティングブロックをセットしたらいいか、繰り返しを厭わず、何度でも構え直す。入伝生の振り返りに、「このフィードバックが反省の起点や道しるべとなれば」という言葉が添えられていた。文字のあいだから、入伝生も「師範代になる」ために、花伝師範の言葉を何度も咀嚼する姿がみえた。


文・アイキャッチ 中村裕美(43[花]錬成師範)

 

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