43[花] 緑を蘇らせた師範代から学ぶ

2025/07/23(水)08:55 img
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リスクヘッジではなく、リスクテイク。

リスクマネジメントではなく、チャンスマネジメント。

花伝式目が伝える「マネジメント」の要訣である。

世の中のマネジメントは、失敗を減らし、成功確率を高め、成功の横展開に向かう傾向があるが、花伝式目はその逆をいく。どんな状況も「チャンス」と捉える想像力をもって、多様なまたとない変容をおこすことを「マネジメント」と考える。

 

今期、43[花]では最後の式目にあたる「マネジメント」の題材を増やした。

[守][破]の教室事例に加え、社会編集の事例を持ち込んだのだ。なぜか。日々生きるフィールドでも、師範代として活躍する方法を入伝生に考えてもらうためだ。花伝式目の型はイシス編集学校に閉じたものではない。日常の対話が変わり、有事に強くなり、機会を生み出せるようになる。実際の師範代登板と並行して日常がみるみる変わってゆく。

採用したのは、戦乱と干ばつに苦しむアフガンで、36年間人道支援を行った中村哲さんの偉業。資料にしたのは、大澤真幸さんの著書『資本主義の〈その先〉へ』。最終章である「第5章〈その先〉へ」で、著者の見方とともに中村哲さんのアフガンでの活動が描かれている。

 

43[花]の入伝生たちは、著書の中で扱われた中村哲さんのアフガンの活動を[守][破][花]の型で捉え直し、自らのお題づくりに挑んだ。

くれない道場のY.A.は、お題づくりの準備として、中村哲さんの視線に注目し、要約を試みた。

 

中村哲さんは、アフガニスタンの現地共同体に「内在」しつつも、日本人としての「外在」性も保持していた。

この〈内在+外在〉という二重性こそが、現地の相克的な関係や視線構造を撹乱し、「私たち」を再定義し直すような圧倒的な視線=効果を生み出した。

これは、通常であれば外部の支援者が持つ「上から目線」とは異なり、同時に苦しみを共有する「共苦」からの視線でありつつも、共同体を“斜めから”見ることによって、内部の自明性を揺さぶり、新たな共鳴や交響を生み出した。

 

キーワード、ホットワードをギュッと詰め込んだ要約である。

医師としてアフガンに渡った中村哲さんは、現地で持続可能な灌漑施設の建設方法を追い求めた。そして、日本の江戸時代の方法を持ち込み、1600本以上の井戸を掘削し、25km以上の用水路を建設した。〈内在+外在〉という二重性によって、砂漠化した大地に緑を蘇らせたのだ。

 

大澤真幸さんはそれを「斜めから見返される」視線と名付けた。こちらが見た時、斜めから見返される視線は目が合うことはなく、内部の人にとって謎と化す。この謎の視線は、内側の争いに向かう視線の注目を奪い、争いを消失させる。それだけではない。さまざまな角度から視線を注ぐことができる。臨機応変な斜めからの視線は選択肢に富むのだ。その選択可能性は不確実性に賭ける勇気となり、リスクテイクへ向かえる。「斜めから見返す」視線は花伝式目のマネジメントに必要な視線なのであり、師範代のまなざしなのだ。

 

なぜ「見返す」ことができるのか。中村哲さんは現地の人であり、日本から来た外来者であったように、教室の師範代は元学衆であり、外部からまなざしを注ぐことができる者なのだ。花伝式目が伝えるのは、学習者であり指導者であるという両極性の中で生きる方法だ。あらゆる斜めから見返すためには、元学衆としての記憶を外部からの視線で何度も捉え直し、ありえた回答を何通りも想像し続けることが欠かせない。

 

目下、43[花]の入伝生たちは、8月2日の敢談儀に向かい『千夜千冊エディション 少年の憂鬱』の図解づくりに挑んでいる。これまでの記憶を千夜千冊に描かれたさまざまな幼な心に重ねている。中村哲さんの二重性の方法を持ち込めば、それらを外部からの視線で捉え直し、場を引き受ける決心の図解になるだろう。次なる道を高らかに語る多様な図解が並ぶ景色を背に次の扉を開いてほしい。

 

アイキャッチ/角山祥道(43[花]錬成師範)

文/古谷奈々(43[花]花伝師範)


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  • 古谷奈々

    編集的先達:鷲田清一。しぶとく、しつこく、打たれ強い。スリムなのにタフでパワフル。切符切って伝票切って、定期売って決算締めての駅員と経理のデュアルワーク経歴あり。現在は中川政七商店のショップコーディネーター。

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