自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
市庭(いちのにわ)では文物を交換することを神が見届けることによって、別の世界と交流できると考えられたからだ
松岡正剛『見立て日本』「市場」
神ならぬ「終活読書★四門堂」「多読ジムClassic」「大河ばっか!」3クラブが合同でが仕立てたのが、別典祭最大の市「本市」だ。
イシス編集学校の各講座に、「出遊本」の協力を請い願い、新たな出会いのためのムスビを約束した。
それまで潜在していた力が目に見えてあらわれてくること、それが産霊だった。
松岡正剛『見立て日本』「産霊(むすび)」
あちらこちらから集まった種々多様な本は700冊以上。ここから「本の相談室」棚に並べる150冊ほどを抜いて、550冊ほどをセットにしていく。学林堂に集まって本を触る2日間とラウンジでのやり取りによるムスビのプロセスは、まさに「秘密基地でBPT」の連続。
まずは各クラブの「…っぽい本」が選ばれると、「三間連結・三位一体・二点分岐・一種合成」の編集思考素を駆使した三冊組みが次々にできていく。時に「地と図」の運動会が起こり、「コンパイルかエディットか」が問われては組み直しをいとわぬ<編集は終わらない>状態が続いていった。
十七世紀に元三大師(良源)に起源を求めた百通りの籖が各地の観音霊場におかれたことで流布したもので、五言四句の漢詩によって吉凶を示した。その観音菩薩ないしは元三大師のお告げを民衆はよろこんだのだった。
松岡正剛『見立て日本』「籤と運」
セットされた本たちは、「別典祭」という本の祭典にふさわしく「おみくじ本」として、出会いの「セレンディプ度」とともに、お告げによるレコメンドを重視した。
「終活読書★四門堂」の野嶋真帆堂守がデザイしたおみくじしおりの表面には、多読アレゴリア・ボードの結司として奔走しつつ「倶楽部撮家」を率いる後藤由加里瞬姿の本楼写真とともに、各クラブが選りすぐったセイゴオ語録がちりばめられている。
ではどのようなお告げが記されていたのか、少々、明かしてみよう。
■黄泉の国から有頂天まで巡りたい人は、この四冊を読むべし
『町田康詩集』町田康(角川春樹事務所)
『田辺聖子の古事記』田辺聖子(集英社)
『ヤマケイ文庫定本 黒部の山賊』伊藤正一(山と渓谷社)
『遊廓と日本人』田中優子(講談社)
■からくりの心で未来を覗く人は、この三冊を読むべし
『東芝の祖 からくり儀右衛門』林洋海(現代書館)
『機械の神話:技術と人類の発達』ルイス・マンフォード(河出書房新社)
『シリコンバレー精神 グーグルを生むビジネス風土』梅田望夫(筑摩書房)
■役者より物語の導き手に注目する人は、この三冊を読むべし
『私が食べた本』村田紗耶香(朝日文庫)
『本に読まれて』須賀敦子(中央公論新社)
『私の世界文学案内』渡辺京二(筑摩書房)
各クラブの個性と遊び心がにじむ、妙味あるご託宣となっているのではないだろうか。
「いったい運の正体がどういうものかはわからないけれど、みんなどこかで幸運との出会いを待っている」
松岡正剛『見立て日本』「籤と運」
別典祭<壱の間>の奥に置かれた古めかしい薬箪笥。そこにおみくじが入っている。運を求めて訪れた人は、まずその薬箪笥の前で迷う。39ある引き出しのうち、どこを開ければ、自分にぴったりの本と出会えるのだろうか。引き出しに書かれた「大黄」「人参」「甘草」といった薬の名は処方と関係するのだろうか(まったく関係ありません)。
「この引き出し!」と決めて、中を覗く。おお、赤、緑、ピンク。様々な色のおみくじがあって、また迷う。「えいっ!」と一枚を引いて、裏をめくる。
お告げの言葉と共に記載された番号を伝えると「はい、○番の袋です」と渡される。袋の中をみて、「この本は読んだことがなかったです」「この間イギリスに行ったばかりなので嬉しい」「園芸には興味がなかったけれど」といった声があがる。それぞれの結果を楽しみながら、「そうなるように頑張ります」「もしかしたらそうなのかも」など、おみくじのお告げと本とを結びつけ、本と自分との関係を探っていた。ちょっとした編集ワークが早速始まったのだ。
では、最後になってしまったが、この企画の与件としてなくてはならない本たちをご寄贈くださった方々をご紹介したい。
本が新たな本と出会い、そこに新しい意味が生まれ、その意味を三冊(以上もあるが)の本として別の人が受け取り、そこにまた新しい物語を紡いでいく筈だ。
そのきっかけを作ってくださった方々に心から感謝を捧げます。ご協力ありがとうございました。
【本をご寄贈くださったみなさま】
青井隼人さん、阿曽祐子さん、板垣美玲さん、猪貝克浩さん、岩崎大さん、太田香保さん、大武美和子さん、笠井麻代さん、木村久美子さん、後藤絵理さん、後藤由加里さん、佐藤雅子さん、鈴木康代さん、高橋英子さん、田中晶子さん、田中香さん、田中優子さん、高本沙耶さん、戸田由香さん、野嶋真帆さん、畑本浩伸さん、八田英子さん、東村雅史さん、古谷奈々さん、北條玲子さん、細田陽子さん、増岡麻子さん、翠川辰行さん、港谷武広さん、森山智子さん、米山貴則さん、若林牧子さん、渡會眞澄さん(お名前の五十音順です)
写真:後藤由加里(「倶楽部撮家」)/相部礼子(「大河ばっか!」)
大河ばっか組!
多読で楽しむ「大河ばっか!」は大河ドラマの世界を編集工学の視点で楽しむためのクラブ。物語好きな筆司たちが「組!」になって、大河ドラマの「今」を追いかけます。
それは、かつての安寧が無情に解体していく風景だった。逃げるべきか、抗うべきか。幻想が零れ落ちた断絶の先で、生き残るための冷徹な理(ことわり)の音が響く。彼は今、光さす表層を去り、世界の裏側で血を流す闘いへと踏み出した。 […]
1月4日(日)20時。多くの人が「あ、ジブリ?」と思ったに違いありません。秀吉といえば「猿」。ではありますが、まさか、その猿を全面に出してのオープニング。 さて歴史をふかぼれば宝の山。史実と史実の間にこぼれ落ちたもの […]
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その四十九(こぼれ話)
「すぐに日本橋に移ってしまうからね(忘れられちゃうのよ)」。そう語ったのは、「べらぼう江戸たいとう大河ドラマ館」を「大河ばっか!」メンバーで訪れた折、足を延ばした江戸新吉原耕書堂の先にあった、お茶飲み処の女主人でした。 […]
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その四十八(最終話)
死を美しく語るための装置は、もう起動しない。代わりにそこに立ち現れたのは、意味を与えようとする私たち自身が、つまずき続ける風景だった。泣くべきか、笑うべきか、心を決めかねた終わりの先で、不意に始まりの音が響く。私たちは […]
息を詰めるような恐怖は、もう描かれない。代わりにそこに立ち現れたのは、声を上げる必要すらない恐怖だった。誰も叫ばず、誰も罰せられず、ただその存在だけが語りの中心から退いていく。そして世界は、すでに取り返しのつかない〈更 […]
コメント
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2026-01-13
自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
2026-01-12
午年には馬の写真集を。根室半島の沖合に浮かぶ上陸禁止の無人島には馬だけが生息している。島での役割を終え、段階的に頭数を減らし、やがて絶えることが決定づけられている島の馬を15年にわたり撮り続けてきた美しく静かな一冊。
岡田敦『ユルリ島の馬』(青幻舎)
2026-01-12
比べてみれば堂々たる勇姿。愛媛県八幡浜産「富士柿」は、サイズも日本一だ。手のひらにたっぷり乗る重量級の富士柿は、さっぱりした甘味にとろっとした食感。白身魚と合わせてカルパッチョにすると格別に美味。見方を変えれば世界は無限だ。