何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

「このエディションフェアがすごい!」シリーズ、第25弾はジュンク堂書店大阪本店。フォトレポートを届けてくれるのはイシス編集学校師範の網口渓太さんです。フェア開催期間は8月15日まで。
◇◇◇
大阪の人間には「本を読まない」イメージがついて回るらしい。読むよりしゃべる? 食べる? 騒ぐ? そのイメージを覆すのが、堂島アバンザの2・3階を占めるジュンク堂大阪本店。JR大阪駅から約8分ほど歩いたビジネス街にあります。
堂島は、江戸時代には諸藩の「蔵屋敷」が集中し、世界初の先物取引所「堂島米会所」があった、商都大阪の中でも古くから経済が栄えていた場所です。堂島アバンザのオープンスペースのベンチには、オフスタイルの老若男女に混ざってスーツ姿のビジネスマンもくつろいでいます。
水と緑で涼し気な裏庭には、ミラーガラスと石で構成されたボール型の建造物が。実はこの不思議な建物こそ、堂島のルーツとされる薬師堂です。諸説ありますが、堂島の地名の由来は「御堂のある島(中洲)」であったこととされています。アバンザ建設の際に現代的なビルと調和を図るため、リ・デザインされました。
この薬師堂に、木村蒹葭堂や山片蟠桃も大願成就を願っただろうか。ヅーフ・ハルマを抱えた緒方適塾の学生たちは? プラトン社の直木三十五も? 梅棹忠夫や小松左京や石坂泰三は万博成功を祈って?大阪に、知の系譜がないなんて、誰にも言わせない。
かつてさまざまな悩みを抱えた人が堂島に集ったように、今は入門書から全集まで揃うジュンク堂書店大阪本店に、本との出会いを求める人が向うといったら言い過ぎでしょうか。3階の専門書フロアでは、ビジネスマン向けの専門書から思想哲学、科学工学、意匠関連本まで、不足を埋める本が揃います。
編集学校学衆必携が一度に揃う棚
上『感情史とは何か』『感性の歴史』『情動はこうしてつくられる』
下『中秋の秋』『すばらしい新世界』『わたしを離さないで』
人文、歴史、文芸をまたいで情動の端緒を問う展示。売り場の各所に、こうしたツワモノ書店員さんのこだわりのディスプレイが)
千夜千冊エディションフェアが開催されている2階は一般書とコミックのフロア。子供たちが喜んで入っていきたくなる絵本コーナーが設けられ、出版社のフェアがにぎやかに展開されています。アカデミックで図書館のような3階に対し、アットホームで町の公園のような雰囲気です。そんななか、際やかなエディション棚に行き交う人の視線が集まります。
青や緑の夏のフェア色のなかで、黒く渋い松岡校長のポスター。3つの棚が連なる千夜千冊エディションフェアにはイシス編集学校の赤いミニフライヤーも添えられています。
今回フェアの棚を担当してくださったのは文芸書担当の佐々木梓さん。いただいた名刺には「西日本文芸書ジャンルアドバイザー」という耳慣れない肩書きが。新規店の棚を一から作っていくときに図面を引いてレイアウトを考えたり、出版社の担当者が直接お店に出向けない地方の書店に代わりに本の情報を送ったり、研修をご担当されたり、古典から最新流行までが入り乱れる文芸のジャンルを「鳥の目」と「虫の目」でケアされているのです。フェアの棚も年間30件程を管理されています。
大阪本店のレイアウトを説明する佐々木さん。メイン通路にある新刊や話題書が並ぶ棚の裏側には、書店員さんこだわりの本が置かれているという仕掛けを披露。
そんな棚づくりに精通した佐々木さんはどんなことを意識してエディションの棚組みをされたのでしょうか。各棚の一番端には千夜千冊エディションが置かれ、水平方向に関連本が連なります。目線の高さ、ど真ん中の棚で目立つのは『感ビジネス』。ナシーム・ニコラス・タレブの『ブラックスワン』とレナード・ムロディナウの『たまたま』が並びます。「メイン客層であるビジネスマンに響くようにいいところに置かせていただきました。千夜千冊エディションは巻が目立たないので、意図的に棚の順番を決めてます」という佐々木さん。
となりの『本から本へ』の棚では知的探求心に刺さるテーマの本をラインナップ。千夜千冊をはじめて知るお客様にもフェアの棚をきっかけに読書の幅を広げていただきたいので、文庫や新書になっているベーシックな関連本を中心に棚を組んでいるそうです。2階に訪れるお客様の目線でありながら、3階にありそうなジャンルの本へも関心を促す、佐々木さんのプロフェッショナルなナビゲートです。コミックを買いに来た学生の中から令和の山片蟠桃や小松左京が生まれるかもしれません。
フェア棚の中で佐々木さんの好きな一冊はダン・アリエリーの『予想通りに不合理』です。ずっと売れているのを日々みかけただけあって愛着があるのだとか。好きな千夜千冊エディションは、しっかりと読んでみたい分野なのでと選ばれた『芸と道』。今月発売予定の『資本主義問題』も気になっているようです。メイン客層の注目度も高そうな内容ですから、刊行後のフェアの棚も見逃せません。棚を作りながら、テーマの知の基本と本質的な部分を押さえられそうな本を選びつつ、意外かもしれないけれどさらに深い学びに入っていける本を入れている千夜千冊エディションの特徴に気づかれたとか。佐々木さんご自身も、一般の方に向けたメインの棚、こだわりを加えたサブの棚と、棚にメリハリをつけるよう心掛けているそうです。本棚をつくる佐々木さんと本をつくる松岡校長の姿が重なった瞬間でした。
取材後、カメラ担当の野嶋番匠と裏庭の薬師堂へ。コロナ退散と千夜千冊エディションフェア繁盛を祈願しました。
文:網口渓太
写真:野嶋真帆
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エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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