〈突破者が書く!第6弾〉突破したその先の景色は?【78感門】(水谷知世)

2022/04/01(金)18:00
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 12時55分。あと5分で始まる。私はそわそわしながらパソコンの前に座った。部屋に差し込む日差しは柔らかに、豪徳寺の本楼にて、感門之盟が始まった。軽快なレコードのスクラッチ音とともに、リミックスされた映像が次々に流れる。安倍首相、新型コロナウイルス、エヴァンゲリオン。政治も社会も文化も混ざり合うスタートは、あらゆるものが編集の対象であることを伝えている。
 突破した学衆、全力でロールをやりきった師範代、編集工学を支え、編集を愛するすべての人たちが、全国、いや海を越えて集まった。4ヶ月間の稽古と指南を讃えあうお祭りは祝福の色につつまれていた。
 惜しみない愛と情熱の指南を受けた学衆として、見逃せないものがあった。万事セッケン教室率いる堀田師範代へ贈られる先達文庫である。汁講でお会いしたとき、先達文庫の魅力を嬉しそうに語ってくれた師範代。「表舞台は苦手」とぽろりとこぼしてくれた弱気な姿は、本番では少しも感じられなかった。堀田師範代がこれまで積み上げてきた指南の熱こそが涙とともににじみ溢れ、石鹸の香りとともにふわりと私まで届いた。アイヌの衣装に身をつつみ、誰よりもこの場を楽しむ姿に、最後の最後まで編集の奥深さを教えていただいた。
 本楼は、編集の喜びも苦しみも湧き上がる不思議な空間である。ただ、根底にあるのは稽古を楽しむ人を等しく尊重し、受け入れてくれるということ。
 「たのくるしい」
 型を使い倒せていない私には、まだ苦しさがつきまとう。だが、この4ヶ月間走り抜けられたこと、バンジーズという頼もしい仲間がいることをいつだって思い出そう。自分の不足に不甲斐なく思う日も、編集の真髄に少しだけ触れることができたあの感覚が私を励ましてくれる。いままで目に見えていなかったものが立ち現れるあの瞬間は、編集をすることでしか味わえないのである。
 松岡校長の「体験したことを思い出すことが編集である」という言葉は私の胸に深く刻まれた。忘れてしまっては意味がない。目にしたこと、感じたことを振り返り、多様な角度から捉え直し、自分の言葉で語れるようになったとき、その体験はさらに輝きが増す。
これからもたのくるしく、もがきながら新しい景色の探索に出よう。いざ新しい私に会いに行こう。

 

 

文:水谷知世(47[破]万事セッケン教室)

撮影:上杉公志(エディスト編集部)

編集:師範代 堀田幸義、師範 新井陽大(47[破]万事セッケン教室)


▼番記者梅澤コメント

 

突破者5名全員がエディスト記者となった万事セッケン教室、「最後といえば私です!」と水谷さんがエントリーに滑り込みました。指南にあたったバニー新井師範は、「水谷さんの言葉のカラフルさ・豊穣さ・求道者としての熱情が遺憾なく発揮」と手放しで讃えていました。

教室の合言葉となっていた「たのくるしい」。破の稽古を象徴するような表現ですが、バニー師範から「たのくるしい稽古を、水谷さんがどう受け止めたんでしょうか」と、ご自身の言葉で言い換えるよう指南が入りました。それを推敲するなかで水谷さんは、クロニクル稽古のたいへんな道のりと、「やりきったときの爽やかな達成感や、自分の歴史がきれいに整理された気持ちよさ」を思い出したんですよね。

まさにこれが、「体験したことを思い出すことが編集」というリコール・リミックス・リプリゼンテーションの実践でした。4ヶ月の稽古を振り返ってこの記事を書いたとき、稽古について水谷さんのなかで新たな輝きが生まれましたね。校長の言葉をすぐに実践してみる瞬発力のよさが光る創文でした。
最後には「書くまでは腰が重いけれど、やっぱり書くと楽しいんです!」と満面の笑み。編集のたのくるしさを知った水谷さんなら、これから先も「いままで目に見えなかったものが立ち現れる」その瞬間をその目でしかと目撃なさることでしょう。
 
▼堀田師範代に贈られた先達文庫とはなんだったのか。この記事でチェック。

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025