麻田剛立、自在のコスモロジー【輪読座第四輪】

2023/01/29(日)21:28
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近代天文学の基盤となるケプラー第三法則を独自で発見し、幕府の暦にはない日食を予測し的中した天文学者、麻田剛立。彼のコスモロジーは西洋にならいながらも全く異色のもの編み出した。そこにあった方法とは一体何であったのか。

 

世界同時年表『情報の歴史21』から見た麻田剛立。フランス革命、天王星の発見、 山東京伝、喜多川歌麿が見開きに並ぶ。

 

輪読座第四輪は三浦梅園と深い親交にあった麻田剛立にフォーカスした。彼こそが梅園のメソッドを持って宇宙観を東洋独自のものへ昇華したからである。

 

世界同時年表『情報の歴史21』から見た三浦梅園。ダブルページには百貨全書、 大英博物館、清水焼、柄井川柳が並ぶ。

 

麻田は1734年に豊後国に生まれた。三浦梅園が1723年に生まれているので、11年後である。儒学者の父、綾部安正を持ちながら、幼少から天文に興味持ち、のちにオランダ貿易でやってきたグレゴリー式望遠鏡で月面のスケッチをする。「月面に池何箇所も御座候」と記録したそのクレーターは、現在でもアサダという名がついているほどの、江戸を代表するアストロノマーである。

 

18世紀、西洋の宇宙観は天動説(太陽中心説)か地動説(地球中心説)かという対立がおさまっていなかった。宇宙の中心が、太陽なのか、地球なのかという大問題である。

しかし、麻田剛立は両方を学びながらも、二者択一にとらわれなかった。両者を反観合一したのである。つまり、天動説と地動説を観測者の座標変換の問題と考え、両者のあいだにあるコスモロジーを数学的に証明してしまったのである。

観測者による座標変換とは、ホームに立つ人から見た通過列車なのか、列車に乗っている人が見た去っていくホームの人なのかということである。すると、どちらが世界の中心に位置しているのかは本質的な問題ではない。麻田は反観合一と考えることで、西洋のように中心の絶対軸を設けるのではなく、中心の不在をそのままに主と客の関係性を転換したのだ。

 

地動説をとなえたコペルニクスの宇宙モデル「運図」(左上)と天動説をとなえたティコ・ブラーエの宇宙モデル「転図」(右上)。その両者を反感合一しハイブリットにした「五星距地之奇法」(中央下)。

 

西洋の神話はに必ず唯一の創造主がいる。GODは必ず大文字でなくてはいけないのである。日本はそうではない。多神多仏が対になりながら物語が興っていくのである。そもそもの根幹が「1」ではなく「2」からスタートするのである。

三浦梅園の反観合一という思想は、二項対立で行き詰まった世界に風穴を開ける特効薬になりうるのではないだろうか。

 

西洋と東洋の根源的な思考の違いを精緻に射抜いている。脱20世紀のために、我々は梅園に学ばなくてはいけない。

 

 

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日本哲学シリーズ 輪読座「三浦梅園『玄語』を読む」

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  • 山内貴暉

    編集的先達:佐藤信夫。2000年生まれ、立教大学在学中のヤドカリ軍団の末っ子。破では『フラジャイル』を知文し、物語ではアリストテレス大賞を受賞。校長・松岡正剛に憧れるあまり、最近は慣れない喫煙を始めた。感門団、輪読小僧でも活躍中。次代のイシスを背負って立つべく、編集道をまっしぐらに歩み続ける。

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