昆虫の巨大な複眼は、360度のあらゆる斜め目線を担保する無数の個眼の集積。
それに加えて、頭頂には場の明暗を巧みに感じ取る単眼が備わっている。
学衆の目線に立てば、直視を擬く偽瞳孔がこちらを見つめてくる。

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
姜舜伊さんがイシス編集学校を知ったのは、学校の母体、編集工学研究所がクライアントだったから。そこからあれよあれよと巻き込まれ、基本コース[守]で学び、AIDAを経て、応用コース[破]に進み、気づくと編集工学研究所に転職していた。
イシス受講生が編集的日常を語る、エッセイシリーズ。第23回の「ISIS wave」は、題して「わたしのイシス・クロニクル」。姜さんの約8年の編集的人生を、ひと息にどうぞ。
■■壊し続ける・肖り続ける・創り続ける
かれこれ7年前、2016年のことですが、前職のリクルートマネジメントソリューションズで急遽、編集工学研究所(編工研)を担当することになりました。当時はまだ提携して間もなく、共同事業をイチから始めるタイミングでした。専任として、社内外へのプロモーション、サービス企画・開発、そして販売方針決めなど、全てに関わりました。
▲リクルート時代のオンラインセミナーのひとこま。左が姜さん。右は編工研の安藤昭子社長。
「担当する以上は編工研のことを勉強して来い」との上司の命で、2017年、基本コースの[守]に入門しました。何よりも驚いたのが師範代の“圧倒的な”寛容さと柔軟さ。その頃、新人クンのOJT(職場内指導)に手を焼いていた私は、毎日が指導と説教の無限ループ。やるべきことを一緒に決めて合意したはずなのに、いっこうに動かない。行動しないということは、期待している周囲への裏切りだと思っていた当時の私にとって、許せない行為でした。
一方で、編集学校での私は毎回提出が遅れ、稚拙な回答を送り続けるという、新人クンと全く同じことをしていたわけです。それでも師範代はまず褒めて、面白がって、そして最後にワンポイントのアドバイスをくれる。やる気や行動のもっと手前に、相手の存在を丸ごと受け入れるというカマエ。師範代と自分との違いを見せつけられました(笑)。(新人クンとは後日めでたく和解しましたが)
もちろん、肝心な「編集の型」の学びもありました。
当時、新規事業や企画づくりを活性化する人材・組織開発支援に多く関わっていました。そんなとき、《ルル3条》をこっそり提案書に忍ばせたり、受講者へのフィードバックに活用したりしました。ルール(規則)、ロール(役割)、ツール(道具)を用いることで、場や仕組みを編集し直すことが可能になるのです。受講者のビジネスアイディアの構想に対し、どれほど新規性が高いかをルル三条で検証してもらったこともあります。シンプルだけれど、意外な盲点を突くフレームとして《ルル3条》は大活躍でした。
2022年は、AIDAへ自費で参加しました。AIDAは、一流のボードメンバーやゲストと間近でお会いできること、そして壮大なテーマを巡って自分をボコボコにしてほしいという思いから関心がありました。期間中はコロナ感染や交通事故と立て続けに「死」を間近で経験したのもあり、私の人生観そのものが、AIDAの目指す「壊す・肖る・創る」で再構築された感じがします。AIDAシーズン3の合宿で、ゲストの文芸評論家・安藤礼二さんがおっしゃった「自分の中の身近な問題を掘り下げることで、新たな発見がある」という言葉にも、強い後押しをいただきました。そろそろ自分の身近な問題をもっと大事にしてみてもいいかしら、と赦しに近い感覚が芽生えたのもこの時でした。長年ずっと外に外にと目を向けて何者かになろうと足掻いていた私が、自分の内と向き合い深めていこうと思えたことは、人生の転換点となる出来事でした。
▲AIDAシーズン3最終日に、共に走り抜けた平野しのぶさんと。
そして2023年の春。編工研の皆さんから「とにかく行ってみたら」と後押しされ、応用コース[破]に進みました。入門してみると、圧倒的に[守]よりも、書く、書く、書く。文字数や構成のルールもあり、文章を書くことの難しさに四苦八苦していました。ところが、書き続けているうちに頭よりも先に手が勝手に動くという謎の感覚を初めて体験しました。書きながら「え、自分ってこんなことを考えていたの」と驚くことが何度もありました。確か以前AIDAで、社会学者の大澤真幸さんが「本当に言いたいことはなかなか言葉に出てこない。でも、文章を書いているうちに、あぁそうそう、自分ってこう考えてたんだよね、を改めて発見することがある」というようなことをおっしゃっていた記憶がありますが、それに近い。自分の頭が考えているよりも先に、身体の方が私のことを知っているのかもしれません。
身体に尋ねる機会は、これからもたくさん訪れそうです。
文・写真提供/姜舜伊(39[守]本読ブランコ教室、50[破]モモはしる教室)
編集/角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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2025-07-27
ただ今フランスのマルシェあちらこちらで縦縞の赤肉メロンが山盛りだ。自然界が生んだデザインはじつに美しい。赤肉にくるりと生ハムを巻けば、口福ともいうべき大人の欲望が満たされる。
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九州出身のマンガ家は数多いが、”九州男児”っぽさを前面に押し出している作家といえば、松本零士に小林よしのり、そして長谷川法世ということになるだろう(みんな福岡だが…)。なかでも長谷川法世『博多っ子純情』は、その路線の決定版!
これこれこの感じ。まさにこれが九州男児バイ!(…と、よそ者の目には見える…)