巣の入口に集結して、何やら相談中のニホンミツバチたち。言葉はなくても、ダンスや触れ合いやそれに基づく現場探索の積み重ねによって、短時間で最良の意思決定に辿り着く。人間はどこで間違ってしまったのだろう。
『象を飲み込んだうわばみ』
白墨ZPD教室のIさんから、用法4の振り返りとして15週間の編集稽古に向き合った自分へのネーミングが届いた。あの「星の王子さま」に出てくるうわばみだ。用法1、2、3はお題の意図もあやふやなまま回答していたが、用法4になって、やっと飲み込めた感があると、丸っと飲み込んだ自分をあの絵と重ねた。うわばみと自分の身体性をリンクさせてヴィジュアルも想起させる力強いネーミングだ。私はすぐに「飲み込んだ」にアフォードされる。身体へ入れることで、何かが起きる。世界は見ているだけでは、見ているだけだ。そもそも見えないもの、隠れているものの方が多い。星の王子さまも「かんじんなことは目に見えない」といっている。耳を澄まして、匂いを嗅いで、触れて、味わって五感をフル回転させながら、自分の体内へ入れている。インプットしている。38番のお題だってそうやって身体に入れてきた。
教室のみんなの顔が少しずつ見え始めてきた用法1の中盤。【005番:公園仕立て】の出題後すぐに地元のバンナ公園へ行った。その公園には、遊具だけでなく多くの鳥類や昆虫が生息し、亜熱帯の珍しい植物が要素としてあり、遊んだりハイキングしたり蛍も観察できる機能がある。属性は、292ヘクタールほどの面積を持つ山一個分の自然公園だ。守学衆の頃は、そのような「要素・機能・属性」にしか注意のカーソルが向かなかったが、今、あらためて公園の前に立つと、それ(公園)は巨大なモンスターのようだった。恐る恐るいくつかある入り口の一つから車で分け入る。緑の木々がトンネルのように両サイドを覆う小道は、喉の奥の食道だ。モンスターの体内を通りながら、カーソルを研ぎ澄ます。途中、分岐する小道はまるで臓器のように秘密めいていた。猫のように日向ぼっこしている三羽のクジャクに挨拶をすれば、怖さよりも自分もそのモンスター(公園)の一部になっていくようで胸の高鳴りを感じた。
現在52[守]では、全教室が集う別院にて渡辺恒久番匠より【全員参加★打ち上げ企画】が出題されている。お題は、仮想の「お店」のイメージを、「要素・機能・属性」を使ってみんなで言葉を加えながら膨らませるものだ。教室の膜をとっぱらい、卒門した学衆が次々に勢いよく飛び込んでいる。負けじと師範、師範代、番匠、学匠も加わり、怪しい香りがムンムンと漂うお店が今日も増幅している。生命体のように自己組織化を始めるお店を見ていると、こういう場は、面白がって自分をそちらへ投げ込んだほうがいいと思わざるをえない。自分も場(トポス)に飲み込まれる快感というものがあるのだ。52[守]という一期一会が、自分が飲み込まれることでどんなものになっていくか、私は愉しみでならない。ほら、今だって、飲み込まれた情報生命体が乱れた場を整えようと、回答を投稿順に並べ替えるロール(学級委員)を自発させた。泣きそうになりながら、仲間から励まされながら、ここで、この先も続く関係が生まれていく。些細な振る舞いもその場を共振させていく。震え、揺さぶり、揺さぶられ、私たちは何かになっていく。
飲み込まれるのは怖いだろうか? 教室でふかふかとした居心地の良いふるさとのような原郷を感じたのなら、ちょっとくらい怖い、危険な場への冒険を私は勧める。原郷は、いずれ旅立たなくてはいけないのだから。
インプットしたら、何かが起こっている。そのことを知っている私たちは、自分の体内のブラックボックスにも自分を取り巻く場へも意識的になっていけるはずだ。うわばみは、半年間かけて飲み込んだ獲物をこなす。『象を飲み込んだうわばみ』Iさんは、進破宣言をした。この先の半年間の[破]で、インプットした用法をこなして自分の知肉へとしていくのだ。進破前だが突破後のアウトプットへの期待もダンゼン高まる。
Iさんも別院へ集まる学衆も、遠くだと思っていた卒門ターゲットを超えた今、次のターゲットへ、もっと遠くへ、視界を広く見まわしているのだろう。
(黒板に描いたアイキャッチの絵・写真/大濱朋子)
<石垣の狭間から◆52[守]師範代登板記 バックナンバー(全7回)>
にんじんしりしり――石垣の狭間から◆52[守]師範代登板記#04
飲み込む――石垣の狭間から◆52[守]師範代登板記#05
大濱朋子
編集的先達:パウル・クレー。ゴッホに憧れ南の沖縄へ。特別支援学校、工業高校、小中併置校など5つの異校種を渡り歩いた石垣島の美術教師。ZOOMでは、いつも車の中か黒板の前で現れる。離島の風が似合う白墨&鉛筆アーティスト。
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コメント
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2025-12-16
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