破から波へーー51[破]玄々書【83感門】

2024/03/17(日)22:30
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第83回感門之盟「EDIT TIDE」Day2(2024.3.17)、はじめて師範ロールを全うした51[破]の師範3名に松岡正剛校長直筆の書が贈られた。松岡校長の俳号「玄月」に由来し「玄々書」と名付けられたものだ。Day1では52[守]師範たちが四者四様の表情を見せていたが、果たして今回は……?

 

 

◆中尾行宏師範 書「千破力」

 

「師範というのはなかなか難しい仕事だけれど、どうだった?」校長がマイクを向けると「自分が直接やるわけではなく、場の隙間や全体の流れを見て場をつくっていくのが難しかった」と話す中尾師範。[破]の師範をつとめながら千夜千冊の図版構成チーム(センセン隊)のメンバーとしても活躍中で、図版選びは「編集学校でやってきたことの集大成のようなもの。毎回未知に挑むギリギリ、限界までやっている感じ」だというと校長はニヤリ。「もっとやれ!千々に乱れてやってください」と激励した。

 

 

 

◆森川絢子師範 書「脇の破」

 

ふだんは金融機関で人事をしている森川師範。「師範どうだった?」との問いに「学衆さんも師範代も一気にカッと変わる瞬間が感じられた。そこに立ち会えるのがおもしろい」と人に注目するのが森川師範らしい。編集的先達には花森安治を選んでおり、雑誌やメディアの編集への関心を訊かれると「仕事としてのかかわりはないけれど、小さなころから新聞をつくって遊んだりしていた」と少女時代を振り返った。贈られた書には力強い「脇」の文字が躍動する。「[破]は必ずしもセンターを破るものとは限らない。サイドを崩し、ほころびを見出すことも必要。サイドブレイクという書を書きました」

 

 

 

◆得原藍師範 書「身破」

 

理学療法士や公認心理師といった肩書を持つ一方、遊び道具を積んだ「プレーリヤカー」をエンヤコラと引っ張って子どもの遊び場を出前するなど多彩な顔をもつ得原師範。編集的先達に柳宗悦を挙げている理由を校長が尋ねると「高尚だと思われているものを日常に持ち出して混ぜ、価値のあるものに変えていったこと」に興味があるという。「編集学校でやっていることも同じ。子どもにかかわる活動をしているのもそういう理由です」とおもいを語った。闘病中の佐々木千佳局長とともに「子ども編集学校」を盛り上げてきたことにも触れ、「3~4年をともに過ごし、佐々木局長から受け継いでいるものがあると信じて進んでいきたい」と話す得原師範の覚悟に「頼みます。得原さんの持っている身体に近い編集力に期待をしている」と校長はエールを送った。

 

 

 

森川師範と得原師範は、つぎは[離]世界読書奥義伝に進む。白川静氏によれば、師範の「範」という漢字は車を浄めて出掛けるときの姿や礼のことをあらわす。前に進もうとする者たちの格好が「範」なのだ。歩みを止めずに向かうイシスの奥の奥で、波濤のごとく押し寄せるお題に奮闘されたし。

 

アイキャッチ・ビジュアルデザイン:穂積晴明

 

  • 福井千裕

    編集的先達:石牟礼道子。遠投クラス一で女子にも告白されたボーイッシュな少女は、ハーレーに跨り野鍛冶に熱中する一途で涙もろくアツい師範代に成長した。日夜、泥にまみれながら未就学児の発達支援とオーガニックカフェ調理のダブルワークと子育てに奔走中。モットーは、仕事ではなくて志事をする。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025