タッパーウェアはそのまま飼育ケースに、キッチンペーパーは4分割して糞取り用のシートに。世界線を「料理」から「飼育」に動かしてみると、キッチンにあるおなじみの小物たちが、昆虫飼育グッズの顔を持ち始める。
吉原炎上。栄華をほこる街が火の海に消えるという衝撃のシーンで幕を開けた今年の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。
大河ドラマを遊び尽くそう、歴史が生んだドラマから、さらに新しい物語を生み出そう。そんな心意気の多読アレゴリアのクラブ「大河ばっか!」を率いるナビゲーターの筆司(ひつじ、と読みます)の宮前鉄也と相部礼子がめぇめぇと今週のみどころをお届けします。
第1回「ありがた山の寒がらす」
「元気いっぱい」。主人公・蔦屋重三郎(以後、蔦重と省略)を見ていると、そんなフレーズをぺたっと額に貼り付けたくなります。
火事を知らせる半鐘をつき、禿たちが助けたいと言った稲荷をかつぎ(火事場から逃げるのに…)、幼い頃、優しくしてくれた元・花魁、今は落ちぶれた女郎が餓死したことに憤慨して、女郎屋や引手茶屋の主人達の宴席の場に乗り込み、食べていけない女郎たちへの炊き出しを求める。断られると「とにかく吉原に客が戻ればいいんだ!」と思いつき、老中の田沼意次に、吉原以外、つまり許可を受けていない私娼街の取り締まりを働きかける。
そして田沼意次に諭されるわけです。お前は吉原に客が戻るように何か工夫をしているのか、と。これが蔦重が江戸のメディア王、江戸文化のプロデューサーとなる出発点となりました。
燃える吉原もなかなかのものでしたが、目をひいたのは蔦重の幼なじみにして松葉屋の花魁・花の井(演・小芝風花)の花魁道中。
思い出したのが小林恭二『カブキの日』です。歌舞伎の演目「籠釣瓶花街酔醒」は田舎者が吉原の遊女・八ツ橋に一目惚れ、通いつめるものの、結局、八ツ橋に愛想を尽かされ、それを恨んで斬り殺してしまう、というお話。花魁道中のさなかに八ツ橋に微笑みかけられたのが、一目惚れ、恋に、いや沼に落ちた瞬間でした。
『カブキの日』では、こう書かれています。
八ツ橋の艶姿をみた次郎左衛門は忘我の境に達する。
次郎左衛門の恍惚は八ツ橋にも伝わる。
八ツ橋は次郎左衛門にむけて振り返り、にーっと笑みを浮かべる。
この笑いこそ、謹厳実直に生きてきた次郎左衛門の身を破滅させ
る運命の笑みだった。
カブキにはさまざまな笑いがある。ヒーローの笑い、悪人の笑い、
実役の笑い、若衆の笑い、町娘の笑い、赤姫の笑い。それぞれ高度
に様式化されており、所作はもとより表情筋の一本一本に至るまで
計算され尽くしている。
しかし、この八ツ橋の笑いはどれにも属さない不可思議な笑いだ
った。
もちろん、女形が演じる歌舞伎の世界と、本物の女性の笑いとは違うのでしょう。けれど、一方で食べることにもことかく闇の部分を持ちつつ、華やかに彩られる場は「虚構の世界の美」という点で重なるものがあるのではないでしょうか。
あの花の井の笑みが蔦重の生きる世界の一端を象徴しているように感じました。
そして…ドラマで笑みを受け取ったのが、何と鬼平。吉原の遊びのルールを思いっきり無視して…、若き日の鬼平は野暮だったんですねぇ。
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その三十七
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その三十六(番外編)
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その三十六
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その三十五
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その三十四
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その三十三
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その三十二
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その三十一
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十七
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十六
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十四
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十三
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十一
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その九
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その八(番外編)
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その八
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その六
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その五
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その四
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その三
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その二
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その一
大河ばっか組!
多読で楽しむ「大河ばっか!」は大河ドラマの世界を編集工学の視点で楽しむためのクラブ。物語好きな筆司たちが「組!」になって、大河ドラマの「今」を追いかけます。
曽我兄弟! 四年前の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、本当は頼朝への謀反の企みだったものを、義時がうまく仇討ちの美談に仕立てあげていました。その義時を演じた小栗旬が信長として見守る能舞台で演じられたのが「曾我物」。豊臣 […]
それは、かつての安寧が無情に解体していく風景だった。逃げるべきか、抗うべきか。幻想が零れ落ちた断絶の先で、生き残るための冷徹な理(ことわり)の音が響く。彼は今、光さす表層を去り、世界の裏側で血を流す闘いへと踏み出した。 […]
1月4日(日)20時。多くの人が「あ、ジブリ?」と思ったに違いありません。秀吉といえば「猿」。ではありますが、まさか、その猿を全面に出してのオープニング。 さて歴史をふかぼれば宝の山。史実と史実の間にこぼれ落ちたもの […]
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その四十九(こぼれ話)
「すぐに日本橋に移ってしまうからね(忘れられちゃうのよ)」。そう語ったのは、「べらぼう江戸たいとう大河ドラマ館」を「大河ばっか!」メンバーで訪れた折、足を延ばした江戸新吉原耕書堂の先にあった、お茶飲み処の女主人でした。 […]
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その四十八(最終話)
死を美しく語るための装置は、もう起動しない。代わりにそこに立ち現れたのは、意味を与えようとする私たち自身が、つまずき続ける風景だった。泣くべきか、笑うべきか、心を決めかねた終わりの先で、不意に始まりの音が響く。私たちは […]
コメント
1~3件/3件
2026-01-27
タッパーウェアはそのまま飼育ケースに、キッチンペーパーは4分割して糞取り用のシートに。世界線を「料理」から「飼育」に動かしてみると、キッチンにあるおなじみの小物たちが、昆虫飼育グッズの顔を持ち始める。
2026-01-22
『性別が、ない!』新井祥
LGBTQなどという言葉が世間を席巻するはるか以前、このマンガによって蒙を啓かれた人も多いのでは?第一巻が刊行されたのが2005年のことで、この種のテーマを扱った作品としてはかなり早かった。基本的に権利主張などのトーンはほぼなく、セクシャルマイノリティーの日常を面白おかしく綴っている。それでいて深く考えさせられる名著。
2026-01-20
蛹の胸部にせっかくしつらえられた翅の「抜き型」を邪険にして、リボンのような小さな翅で生まれてくるクロスジフユエダシャクのメス。飛べない翅の内側には、きっと、思いもよらない「無用の用」が伏せられている。