宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。

司会者インタビューで対話を重ねるほどに、石黒番匠の編集の源とも言える怒りに触れている気持ちになる。この人の怒りは、「方法を身につけたなら、そんなところに留まっていてはいけないはずだ」という相手と編集への深い期待から生まれている。こういう人に叱られたい。
第89回感門之盟の総合司会を務める石黒番匠。「遊撃ブックウェア」のテーマを受けて、感門之盟をリスクに対する勇気を育む場にしたいという。これは1427夜 『王羲之 六朝貴族の世界』の「読書とは、突如として訪れる危難(リスク)に対する勇気を育むことなのだ」という一節を引用してのことだ。
守講座運営においても、リスクを恐れず不足を提示することを自ら引き受けている。
私は厳しいことや他の人が言いにくいことも言っていく。師範代や師範がそつなくこなしてしまうこともあるが、それだと縮小再生産だ。無理やりにでも不足を見つけ、先んじて取っていかないといけない。でないと編集は始まっていかない。
人に対して、イシスに対して期待がある。松岡校長が信じていたイシスの可能性に突き進んでいきたい。だから当たり前のように「何がなんでも不足を作っていく」と語る。感門之盟でも編集を生むための不足の提示を恐れない。
「私はイリンクスの人なのです」とも教えてくれた。イリンクスとは意識を官能的な眩暈状態に導き、忘我へと誘うものである。今もディスコに通い、テクノミュージックを愛好し野田努と電気グルーヴを先達として仰ぐという。テクノは同じフレーズが微妙にずれながら繰り返され、聴く者をトランス状態へと導く音楽だ。
石黒番匠はこのイリンクスを「先に別世界を現実化してしまう方法」として総合司会でも軸にしたいという。不足の先取りは、別世界を先行させる方法になる。
ホームレスの支援を行うNPOにも所属する石黒番匠は「こんな社会でよいのか」と様々感じることが多い。ただし、社会に対して反論やアンチテーゼを掲げたいというわけではない。主題ではなく方法で立ち向かいたい。マハトマ・ガンジーの言葉に「あなたが世界に見たいと願う変化に、あなた自身がなりなさい」があるが、自分自身が変容し、場を作っていくことを大切にしている。方法によって自分が変わり、別世界を創ることができる。それによって、社会変革にも手が届く。感門之盟では「イシスは社会変革の場だ」と堂々と言いたいという。この堂々と言い切るということが石黒番匠の遊撃ブックウェアであり、別世界化であり、編集は不足から始まるの第一歩なのだ。
中村 麻人中村麻人
編集的先達:クロード・シャノン。根っからの数理派で、大学時代に師範代登板。早くから将来を嘱望されていた麻人。先輩師範たちに反骨精神を抱いていた若僧時代を卒業し、いまやISIS花伝所の花目付に。データサイエンティストとしての仕事の傍ら、新たな稽古開発にも取り組み毎期お題を書き下ろしている。
この人はただの酒好きではない。「呑み比べ魔」だ。 9月20日の第89回感門之盟の総合司会を務める青井隼人師範(55[守]師範)。ビールが好きだが大手のピルスナーには手を付けない。エール製法のローカルビールを […]
さだまさしモデル準備中 総合司会任命から感門之盟当日まではとっておきの編集の時間だ。司会の方法描出のために司会チームは何日もディスカッションする。88回感門之盟の総合司会を担うのは渋谷菜穂子花伝錬成師範。司 […]
花伝所入伝生が学衆の時印象的だった稽古をトレースしていると、思いがけず発見に至った時の表現によく出会います。「まるで道から逸れて公園に遊びに来たような」、「つい焚火の火に誘われて」、「安全な木から降りて草原を走ってみる […]
子どものころ、帰宅路の途中で寄り道をしたことでちょっとした宝物を発見したり、未知に踏み出したような体験をしたことがあるのではないでしょうか。何か決められたルートや確定的なルール(左右交互に曲がるなど)から外れ、時々違う […]
コメント
1~3件/3件
2025-09-18
宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。
2025-09-16
「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
このゲホウグモには、別口の超能力もあるけれど、それはまたの機会に。
2025-09-09
空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。