悠久の慈愛、ガメラ、乾いたミルフィーユ、邪心を吸う木、生きる死ぬ、安定打坐、カルシウム姫……。
共通点がない。意味の分からない言葉の組み合わせすらある。この7つの言葉が分かるのはこの広い世界を見回してみてもたった7人だけだ。
2024年1月20日、大宮盆栽村にその7人が集った。イシス編集学校[守]コース、マーボ梁山泊教室のリアル汁講が盆栽美術館で行われた。参加者は4人の学衆と師範代の阿部紳作、番匠の阿曽祐子、師範の佐藤健太郎だ。
集合時の4人の学衆の頭には問いが渦巻いていた。阿部が掲げた「編集で盆栽を愛でる」というテーマになぜ盆栽なのかと思うことは至極当然。阿部以外全員が盆栽の素人。編集と盆栽の間に関係を見出すのは困難で、当日になっても疑問は消えるはずもない。
それでも4人が集ったのは問い=お題の魔力であり、阿部のエネルギー故だろう。誰よりも汁講を楽しみにし、暮れから指南の合間を縫って、入念に準備を重ねていた。盆栽美術館に下見に出かけるほどの力の入れようだ。学衆たちは圧倒的熱量に絆されたに違いない。
誰よりも盆栽汁講を楽んだ阿部は本気で遊ぶことこそ、本気で学ぶことだということを参加者に背中で魅せ続けた。
さて、改めて冒頭の7つの言葉を見てみよう。
悠久の慈愛、ガメラ、乾いたミルフィーユ、邪心を吸う木、生きる死ぬ、安定打坐、カルシウム姫……。
これは1つ目の編集ワークでの作品たちだ。参加者が盆栽美術館の作品の中から気に入ったものを1つ選び、さらにネーミング編集する。盆栽については門外漢である参加者は、美術館主催のギャラリートークで知識をつけ、屋外の盆栽を眺めて名づけのワークに挑む。
作品を見てみると、全体を見た印象を鷲掴みにしたものもあれば、部分に肉薄して名づけたものもある。ユーモアに走ったものもあり、盆栽に精神性を見出したものさえある。触発した盆栽を眺めたくなるのはもちろん、名付け親の顔も見たくなるではないか。編集は方法の束であるだけでなく、それぞれの数寄の表象でもあるのだ。
後半のワークは盆栽四季の家に場所を移して実施した。お茶菓子を摘まみつつ、師範の佐藤による盆栽ミメロギアに挑む。「ガーデニング・盆栽」「ゴルフ・盆栽」「文才・盆栽」という3つのお題を通して「たくさんの盆栽」を掴み取る稽古だ。
数多くの名作が生まれたが、とびきりのものを紹介しよう。
お祝い保険のゴルフ・盗難保険の盆栽
ゴルフと盆栽を「保険」という切り口で揃えた水嶋の作品だ。どこかのどかな盆栽村にはたくさんの防犯カメラがあった。物々しくも感じるが、高い価値を持つ盆栽を飾っているとするなら当然だ。盆栽村に訪れたからこそ、発見できた関係性がユーモラスに描かれる。盆栽を眺める解像度が高まる契機となったことだろう。
アイキャッチ画像で用いた盆栽の写真は49[守]師範代福井千裕が本楼で写したもの。盆栽は日本という方法の精華。阿部の編集道はずっと盆栽に照らされていたといっても過言ではない。
予定していた次第を終え、帰路に就く学衆の頭の中に当初の疑問は跡形もなかった。編集を通じて盆栽を知ることができ、さらに盆栽を通じて編集を深める。そんな稀有な時間を共有することができたからだ。阿部は盆栽汁講を通じ、数寄をとことん突き詰めることが編集のエンジンになることを自らの背で示した。
もう一つ忘れてはならないことがある。お題に取り組むことが「かわる」機になるということだ。盆栽汁講の前と後では参加者と盆栽と編集の関係は変化し、「わかる」のだ。阿部が手渡した編集が今度は学衆の枝を伸ばしていく。
文/佐藤健太郎(52[守]師範)
写真/阿曽裕子(52[守]番匠)、阿部紳作(52[守]師範代)、福井千裕(49[守]師範代)
◎第52期[破]応用コース◎
●期間 :2024年4月22日(月)~2024年8月11日(日)
●申込締切 :4月7日(日)
●申込先 :https://es.isis.ne.jp/course/ha
●問い合わせ:isis_editschool@eel.co.jp
佐藤健太郎
編集的先達:エリック・ホッファー。キャリアコンサルタントかつ観光系専門学校の講師。文系だがザンビアで理科を教えた経歴の持ち主で、毎日カレーを食べたいという偏食家。堀田幸義師範とは名コンビと言われ、趣味のマラソンをテーマに編集ワークを開催した。通称は「サトケン」。
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