東京の大岡山エリアといえば、東京科学大学(旧・東京工業大学)のある学園都市。にもかかわず、なんと書店がなかったという。そこにできたのが青熊書店だ。
青熊書店は、2025年3月15日に、自由が丘から移転して、大岡山に新装開店した。店主はイシス編集学校師範の植田フサ子。植田は熊本出身であり、夫で同じくイシスの師範・岡村豊彦は青森出身だから「青熊書店」である。大岡山北口商店街、大通りの一本裏にある細い道に面して、青熊の看板をかかげ、扉を開けてお客様を迎えたこの2か月の日々を聞いた。
青熊書店の店主:植田フサ子さん。カウンターも背のカップボードも喫茶店からひきついだもの。
―大岡山、大きな大学があるのに、書店ゼロだったとは…。
植田:本屋さんができたんですね! と喜んで入って来てくださる方が多いんです。かつては書店がいくつかあったそうなのですが、ツタヤさんができた後、個人書店は閉店してしまい。けれどそのツタヤさんも撤退して、書店のない街になってしまったと聞きました。大岡山の本好きには、無念が渦巻いていたようで、当店を歓迎してくださるんです。
取り寄せの注文もよくあります。「これお願い」って新聞広告の切り抜きをもってこられて。
―昔の町の本屋さんみたい!イマドキの個性的な独立系書店、と私は思うのだけど、地元の方たちは、昔ながらの書店の機能も期待しているんですね。
植田:ええ、ふつうに昔ながらの役目も果たしてます。本好きの方たちは、とっても興味をもってここにある本を見てくれます。「どんな感じで選書しているんですか?」って聞いてくれるんですよ~。
―それって、コンセプトを問うてくれるってことですよね。
植田:そうなんです。だから「土地と人です」って言って、話すのですが、そのたびに、ああ自分はそういう思いでこのお店をつくったんだ、と原点に立ち戻ります。「土地と人」というコンセプトは、50[破]を学衆として再受講したときにプランニング編集術で練ったものです。
青森県の林檎の香りがするコーナー。植田師範の夫・岡村豊彦師範は青森出身、CD5万枚以上をもつコレクターでもある。
あの時、書店をつくろう、自分の仕事にしようと考えて、本気でプランニングしました。稽古で書いたものを何度も読み返しています。コンセプトは一生大事!! だけど、忙しいと忘れるんです…(笑)
自分でコレダ! と決めたことに立ち戻って、コンセプトから現実を起こしてゆくんです。何を薦めたいか、何を選ぶか、自分の色をつくるのが大切。でも世の中に求められるものに応えるのも必要です。本当にこまやかな相互編集が大事だなーって。
―お店をするって、たしかに毎日がナマの相互編集!「土地と人」の土地は、青森と熊本だと承知してますが、人というのはどういうこと?
植田:力を入れているのはエッセイ、随筆です。書いた「人」の魅力がでているもの。紀行もです。旅には「人」も出ますしね。そういえば本も人の行動モデルを観察するように読むのが好きです。
詩歌の本も増やしたい…。
―力のあるエッセイや紀行は、書き手のものの見方、コトにあたっての振る舞い方が見えますね。詩歌には、作者のカラーやスタイルが確固としてありますし、なるほど、人を感じる本とはそういうことか。
植田:「力を入れている分野」と聞かれると、「ぜんぶ!」って言ってしまうのです。欲張りなので。でも言い方を変えると、どんな情報も編集次第で何かしらの「道」ができるって信じているところがあって、異質なもの同士の化学反応を愉しんでいるふしもあるのです。
―フサ子さんの手にかかれば、組み合わせ編集で「土地と人」になってゆく…。
植田:基本の編集姿勢は「レパートリー」⇒「カウンター」⇒「パレット」です。守の稽古の基本、あつめてわけてならべる、はいつも心にあります。そしてあつめすぎがち(笑)
詩歌のコーナーには、天野陽子師範の歌集『ぜるぶの丘で』が凛とたたずむ。
若い方たちは、古典、名著を求めているなあとも感じます。先週の雨の日も、若い男性が入って来て「カフカの『変身』ありますか?」って。「あったっけ?」と思いながら「あるとすればその辺り」って言ったら、あった!!昭和の文学や海外文学、有名なものを読んでおきたい、という若い読者にも応えたい。
―今日(5月5日)も、大勢のお客さんが次々来店しています。自由が丘時代からの常連さん、連れ立ってやってきた2人のマダムは本を選び、お菓子やお茶もたのしそうに選んで、ホントに遊びに来ているみたいでした。フサ子さんと話し込んでゆく方が多いですね。
植田:人と本が出合うキッカケをつくることが、愉しい!!本の話をしたそうな若い人もいれば、90代のお客さんもいるんです。その年齢まで本が読めるって、すばらしいですよね。
気分で選べるお茶、棟方志功グッズ、「何者からかの手紙」など小さな愉快なものたち。
神保町のPASSAGEで働いていたときから「いかに自分がこの空間の装置の一つになるか」ということを意識していました。お客さまがその空間の主役となるためのワキに徹したいと。本屋に入って本棚を眺めるときって、自分と本との対話みたいなのが始まりますよね。そういう時間の空気の粒になるのも好きです。感門団のロールをやるとそういう「黒子編集」みたいなの鍛えられますよね。感門団経験、めっちゃ活きてます(笑)
―お客様方はじーっくり店内を一周して、また反対周りで一周して、一冊か二冊の本をもってカウンターに来る、そこからフサ子さんとの会話がはじまって、あと2冊、3冊と手が伸びてゆく…、青熊書店の愉しみ方だなあと拝見してました。本が数珠つなぎになる語りがすごい!どの本もフサ子さんが選んだ本だからできることですね。お客様とのやりとりも、お店の雰囲気も、もうずっと前からここにあったみたい。
植田:このお店、昨年夏まで喫茶店だったのです。昭和50年代から40年以上つづいていたそうです。
(と話している間にも、「ここ!本屋になったんだね!喫茶店のマダムはどうしたの?」と声をかけてくる通りがかりの方がいた)
マダムが引退されて、このお店を借りることになり、ダークブラウンの壁や、カウンター、カップボードなどはそのまま引き継いでいます。オープン前、棚に本を収めてみたら、なんだか本が生き生きしてみえて、あ、この場所でよかったんだな、って思えたんです。
―本とフサ子さんが場所を得て、このお店も本とフサ子さんを得たのですね。
喫茶店だった40年の重みが、「土地と人」を感じる本にふさわしい。青熊書店、大岡山にじんわり溶け込み中だ。
青熊書店
https://aokumabooks.theshop.jp/
https://www.facebook.com/aokumalibrairie
大岡山北口商店街/青熊書店
http://www.oookayama.or.jp/aokumasyoten
イシスの遊び心も、松岡校長の面影も、見えかくれする本棚が待つ。
編集学校人であると名乗れば、フサ子師範がアツく励ましてくれるはず。イシスのトポスにぜひ足を延ばしてみてほしい。
原田淳子
編集的先達:若桑みどり。姿勢が良すぎる、筋が通りすぎている破二代目学匠。優雅な音楽や舞台には恋慕を、高貴な文章や言葉に敬意を。かつて仕事で世にでる新刊すべてに目を通していた言語明晰な編集目利き。
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