イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
イシス編集学校には、九天玄氣組や未知奥連など各地に公認支所があるが、非公認ながら常時20人前後が集う活発な会がある。それが連句の会「UKKARI島」だ。その主宰者・濤声さん――小原昌之さんは、なぜ連句に惹かれたのか。臨床心理士としてどんな可能性を見ているのか。
俳聖・松尾芭蕉が『おくのほそ道』へ旅立った5月16日に、小原さんのエッセイをお届けします。
■■ネット上に生まれた詩歌の楽園
41[守]の師範代を終え、[遊]17期風韻講座を受講した後、連句魂に火がついた。2020年のことだ。この年にイシス20周年を祝し、20巻の連句作品を皆と巻き上げた。連句は俳句のルーツとなる座の文芸で、俳諧とは連句を指す。芭蕉は俳句の人ではなく、連句の人だったのである。俳句にはない連句の魅力は、前句に自分の句を付けて、世界を転じ、自らも世界に転じられるところだ。連句はやっぱり楽しい。
連句の場を設けるべく、slackというメッセージングアプリを利用して、毎日仲間と連句を巻けるコミュニティスペースを創り、そこをUKKARI島(UKKARI歌仙秘湯会の島)と名付けた。United Kingdom of Kasen Royal Islandの略でもありうっかりに気づき、許しあう場でもある。そして36句を連ねる歌仙を中心とした連句の楽園である。ここには、編集学校の重鎮、至宝、ヘビーユーザー、ライトユーザーまで混ぜ混ぜな連衆が、常時20人前後は集っている。編集の方法のすべてが凝縮されていると言って過言ではない連句の面白さと深さを知り、皆病み付きになっているのである。この島にいると、芭蕉がいう「虚に居て実を行うべし。実に居て虚に遊ぶことは難し」が実感される。虚とはイマジネーションの世界であり、風雅の世界である。そこをもう一歩深めるとズキズキワクワクな風狂の世界にさしかかる。
▲普段はネット上でのやりとりだが、年に数回、リアル連句会を開催。これは柴又帝釈天での連句会の記念写真。
私が「型」の力を実感したのは、もう20年も前に、精神科病院に勤務していた時だ。医師とも看護師とも話さず、日中の活動にも出ない患者さんが何人もいる病棟スタッフから何か新たなアプローチはないか相談され、直観的に、句会をやってみようと思った。
週一回、病棟に出向いて、ホワイトボードに季語のお題をひとつと例句を三句ほど。
患者さんは皆、俳句を創ってきた。そこで句会をして、座を建立していき、半年も経った頃、話さなかった患者さんが看護師に話すようになったり、診察の場で医師から作った句に言及されると笑顔が見られるようになった。その変化に病棟スタッフは驚いた。またその頃、一対一の外来心理面接の場では、連句をするようになった。イメージの海を言葉の網で漁ができる型の舟を手に入れると、いのちは元気になる。
映画『PERFECT DAYS』(2023年日独/ヴィム・ヴェンダース監督)の主人公が「この世界は、本当は沢山の世界がある。繋がっている世界もあれば、繋がっていない世界もある」と言った。連句は一見別々な句の世界が蓮根の繊維一本でつながるように付けあうことを楽しむ。べったりでもなく、無関係でもなく。余白、余情が豊かな関係である。このような関係が社会でもっともっと増えてくればよいのにと思う。
私は心理臨床家として、連句のエッセンスを活かしながら、エンカウンターグループやオープンダイアローグ等のグループアプローチで地域のコミュニティ支援をこれからも続けていきたい。芭蕉の遊びに遊びながら。
文・写真/小原(濤声)昌之(38[守]ちょんまげスイミー教室、38[破]カプセルピアス教室)
編集/角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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