今日は、53守卒門日。松岡校長は、53守開講前に師範代らが作成した教室名フライヤーをみながら、「今期のフライヤー、すごくいいね。」と褒めていた。校長は旅立ってしまったが、守お題や教室名に宿る校長の面影を感じながら卒門日をむかえている。
守学匠になったのは、前任の冨澤学匠が2017年夏に病に倒れ、急遽、40守で講座を任されたことからはじまる。最初は、冨澤学匠の病を伏せていて、番匠頭というロール名で講座運営をやろうと学林局長らと話していたが、松岡校長が一喝し「こういう時は伏せてはだめだ。開けていくんだ。ロール名は、学匠代」と決めた。これが直接ディレクションをもらった最初だった。
2017年末、松岡校長から一本の電話が入る。2018年の年明けに直接話をしたいということだった。場所は六本木の喫茶店。ちょうど千夜千冊『キャンティ物語』が更新されたばかりだった。予定時間より前に喫茶店に到着すると、すでに松岡校長は、席に座り、煙草をふかし、原稿に赤入れをしていた。そこで家族のことや仕事の状況を聞かれ、編集学校をどうしていきたいかと問われた。もっと師範が活躍できる場を作りたいと思いを話すと松岡校長は、「もっと編集学校で活躍できると思うんだよ」と具体的な人の名前を数人挙げて柔らかく笑っていた。家族や編集学校の話をひとしきりして「それでいい。思いっきりやりなさい。」と、学匠になる心づもりをするように、と伝えられた。節目を大事にし、人への礼節とはこういう姿をいうのかと学んだ時間だった。
2018年春、守学匠となり、一切を任された。
しかし、松岡校長は、情報も、人もひとりにはしなかった。
いつも「いま困っていることはある?」と会うたびに聞いてくれた。師範陣を編集実践者としてイキイキさせたい、と話すと、それは、「エディティングキャラクターの突出だね。以前、花の御所でやっていたんだよ」と応じ、伝習座の校長講義でその方法を惜しみなく教えてくれた。
伝習座は師範や師範代陣が編集工学を学び深め合う場だ。豪徳寺の本楼で13時からはじまり22時頃終了する。終了後、吉村林頭や佐々木局長らと打ち合わせや雑談をしていると、松岡校長は、ふらっと3階の仕事場から降りてきて、「まあ座りなさい」と声をかけ、そこから校長を囲んでの問答やミーティングがはじまる。
守の編集稽古の速度と濃度、師範代と師範の編集的特徴、編集学校のなっていく姿やカタチをその場にいるみなで交わす時間。佐々木局長は、校長アドバイスがもったいないとカメラをまわし、吉村林頭はメモを取りはじめていた。私はキーワードだけを書き留めるのがやっとの速さで対話が進んでいった。
「今日の伝習座、あのコメント良かったね。」「さすが、局長。よく校長のこと入れてくれたね」と褒められることもあれば、「教室名フライヤーは、今度はなんとかしなさい。もっとやるように」、「フラットになってない?突出した者を入れた方がいい」と次回まで修正することのディレクションを受けることもあった。日付を跨ぎ真夜中になっても続き、松岡校長のこれまでの仕事に話が及ぶとYMOのワールドツアーのデザイン監修をした時の話やアサヒビールのコピーを作ったことにも触れた。教室名フライヤーも、みなでもっと本気でやりなさいと言いたかったのだと思う。
2020年、コロナ禍で外出制限がかかった時、感門之盟や伝習座も大きく変更を余儀なくされた。松岡校長に、社会から個人が切り離され、世界と接続していることが感じられなくなるのではないかと尋ねると「自己と非自己、編集的自己。たくさんの私が必要だね。」と答えてくれた。それには、幼な心だよと、伝習座の校長講義でその方法を私たちに手渡した。幼な心や寂しさや創を持ち出すことができたなら世界にも繋がっていけるんだよと教えてくれた。
深夜の雑談をしている時に、松岡校長から次の守伝習座では「学匠インタビューをやろう」という提案があった。オンライン伝習座となった45守でだった。本番前リハーサルでノートを握り笑顔のない私に「子供の頃、編集学校での変化のさしかかり、今もたらしていることの三つを聞くから。あとはちょいちょいと」とにこやかに校長から声をかけられた。本番は、校長と対話しているだけで、私が纏っていた社会属性の鱗がポロポロと落ち、幼い頃のことや創を負ったことが愛しく思えてきた。小さな世界が全体を凌駕することがあると校長が教えてくれたからだろう。方法は人と混じると松岡校長はいう。その感触をこの時に少し知ったのだと思う。
まだまだ松岡校長が託してくれたものがある。もっと松岡を使いなさい、と言うだろう。
このお題を戦友・同志と共に編集していくことを松岡校長に誓いたい。
守学匠 鈴木康代
▼松岡校長が初インタビューに選んだお相手は? 45[守]伝習座10shot
https://edist.ne.jp/list/45syu_10shot/
鈴木康代
編集的先達:網野善彦。マイクを両手でもってふくしま訛りで語るメッセージは編集の確信をとらえ、誰もの胸を打つ。二代目守学匠としていまやイシスの顔。野望は「続3.11を読む」の編集。
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