神田らしい料理で サイエンティスト迫村勝の回答(前編)

2019/10/18(金)20:03
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 「神田まで出むきます」という井ノ上裕二(18[破]学衆・当時)に「どんな料理がいいですか」と迫村勝(18[破]師範代・当時)。突破から10年以上たっても、師範代・学衆の関係はつながる。迫村は横浜国立大学で分子統計力学を研究するサイエンティストで、井ノ上はビジネスパーソン。立場を超えて交友が続くことが、編集学校の醍醐味だ。

 「神田らしい料理で」と井ノ上がリクエストをする。神田といえば、江戸。江戸といえば、蕎麦か寿司。多少浮世離れした迫村でも、地元の神田であれば、どこか知っているだろう。井ノ上は「探しておきますね」という返事に期待した。江戸っぽい料理を味わいつつ、非日常感あふれる会話を迫村と交わすことを思い巡らしながら。

 当日、井ノ上が確認のメールをする。迫村の返事は「いきつけの九州居酒屋を予約しました」。神田駅で落ちあい店に入る。「二人分の席空いてます?」と迫村は聞く。明らかに予約をしていないことを井ノ上は見逃さない。「地元で一番行くのはタイ料理なんですよね」。たしかに、バンコク在住の井ノ上は神田まで来てタイ料理を味わいたくはない。「だから、九州料理の方がいいですよね」。迫村は一応の気づかいを見せるが、井ノ上には手抜きの言い訳にしか聞こえない。「わたしは九天玄氣組(イシス九州支所)のメンバーですし」。迫村は早口でたたみかける。だからといって九州居酒屋にする必要はない。



 

 「10年前は横浜中華街に連れて行ってしまったことがありましたね」。迫村は無邪気な笑顔を見せる。当時、井ノ上は中国在住であった。その時のがっかりな記憶がよみがえる。10年たっても、迫村の行動パターンには変化はない。井ノ上は心の中で呟いた。「やはり、この人は死ぬほど面白い。それも、飲みが始まる前から」。
 
 それから迫村と井ノ上の会食は3時間半にわたった。話題の中心は、井ノ上が期待していた“UFOネタ”であった。   

  • 井ノ上シーザー

    編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。

コメント

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川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。