守師範、漢字ミュージアムへ行く

2024/06/12(水)14:01
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 京都は八坂神社の目と鼻の先に、「漢字ミュージアム」があるのですが、つい数日前、こちらを訪ねてきました。同館は、漢字3000年の歴史から日本の漢字受容史のわかる体験型ミュージアムです。

▲左から、触って遊べる「踊る甲骨文字テーブル」、青銅器のレプリカ、魚偏の漢字(国字)が並ぶ「巨大湯のみ」。

 

 とはいえ、日頃使っている漢字ですしね。漢字の歴史もだいたい知っている。新しい発見なんてあるわけないよ、と高をくくっていたのですが、ありました(苦笑)。

 

 ひとつの漢字に、ひとつの意味が一対一で対応している。

 

 だから「表意文字」というわけですが、「一対一」というのがことさら新鮮でした。つまり、新しいモノ・コトに出会うたびに漢字が増えていったというわけです(一説には8万5000字!)。漢字は、誕生した当時の思いがひとつずつ詰まった、タイムカプセル(白川静の言葉でいえば「時空の方舟」)といえましょう。
 
 いや、待てよ。
 現在、漢字の一種合成お題、番選ボードレールに挑戦している53[守]の学衆のみなさんなら、「一対一」といわれても「はて?」でしょう。師範代から字書を引くよう勧められ、引いてみたらたくさんの意味があったことに気づいたところでしょうから。

 

 「一対一」で誕生したのに、漢字はなぜたくさんの意味を持つのか。
 「」という漢字で考えてみましょう。

 『字通』(平凡社)によれば「柄のある手鈴の形」をかたどった象形文字です。古代のシャーマンは鈴を鳴らせて神を呼び、神を楽しませたのでした。神も楽しいわけですから、集まっている人も楽しい。このことが、音楽って楽しいよね、という別の意味を連れてきた。
 これを「転注」というんだそうです。「その文字の本来の意味を発展させて他の意味に使う」と「漢字ミュージアム」のボードに説明がありましたが、これって、漢字の一種合成お題の極意じゃありません?

▲「漢字の成り立ち」そのものが編集的だ。

 

『字通』の「訓義」には3つの意味が紹介されています。

[1] おんがく、がく、なりもの、なりものをならす。
[2] たのしむ、やわらぐ、やすらか、かなう。
[3] ねがう、このむ。

[2][3]の意味が、連想から生まれていったことがわかりますよね?

▲同館の白川静コーナー。

 

 今、手元に『新選漢和辞典 第八版』(小学館)があるのですが、この字書は、日本特有の訓義に「国」マークをつけています。「楽」を引いてみましょう。

①身心がのびのびする。
②やさしい。たやすい。

 

 日本人は「楽」という漢字を意味ごと受容したわけですが、それにとどまらず、中国にない意味にまで連想を広げてしまった、というわけです。「気楽」(①の意味)も「楽する」(②の意味)も、この連想の延長線上にあります。

 「一対一」の表音文字なのに、「たくさんのわたし」ならぬ、たくさんの意味を持つのは、先人たちが連想で意味のサークルを広げていった結果だったんですね。


 いわば漢字は、誕生からこのかた、常に編集され続けていた、というわけです。漢字は編集可能なメディアである、という言い方もできるかもしれません。

▲目玉のひとつ、「漢字5万字タワー」

 

 「漢字ミュージアム」に入ると、『大漢和辞典』(大修館書店)に採録された約5万字の漢字が書かれたタワーが出迎えます。

 守師範たるもの、一種合成お題の漢字を見つけねば! とはりきって探したのですが、10分以上かけて見つけたのは、たったの1字でした。

▲「渦」発見!

 

 漢字おそるべし。

 とはいえ、この日は、仕事も忘れ、漢字世界をたっぷり「楽」しんだのでした。

▲甲骨文字占いで出た漢字は「楽」! 「楽しいイベントが待ってるよ」を真に受け、万葉仮名スタンプで遊んでみた。「以志周」(イシス)「弊無志喩宇」(へんしゆう)だって。

 


◎漢検 漢字博物館・図書館「漢字ミュージアム」
開館時間 9:30~17:00(最終入館16:30)
休館日 月曜日(休館日が祝日の場合、翌平日に振り替え)

住所 京都市東山区祇園町南側551番地
https://www.kanjimuseum.kyoto/

  • 角山祥道

    編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama

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